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第104話 クロウ・キャニオンの悲劇


「おっ、とうとう我らがボスのお出ましのようだな。俺らにも運が向いてきたって事になるな。貴様らの快進撃もここら辺で終わりだな。」



 ヴァボーサとの戦いの最中、周囲の状況に異変が起きた。こちらには遅れてやってきた勇者が合流し、ヴァボーサを除いてルス・デルソルメンバーは壊滅した。その矢先に死亡したはずのテ・ネグロスが復帰し、魔王まで姿を現した。



「ボスが来たからには貴様らの命運が尽きるのは近い。そして、貴様は俺に倒される。そこでゲームセットって事だ。」



 この悪魔が言うように、こちらにとって非常に不利な状況になってしまった。目の前の悪魔と戦っている都合で細かい状況は把握できないけど、魔王が出てきた以上は楽観視できない。



「お前達の思い通りなんかにはさせない! この剣にかけても決して負けるわけにはいかないんだ!」


「あくまでそれは貴様の希望だろう? 現実はそううまくいかないものだぜ?」



 ここまで剣を交えてわかったことだが、この悪魔は父上の剣技を恐ろしいほど忠実に再現している。父とはたった一度しか戦っていないはずだが、まるで父上本人と相対しているかのような錯覚すら覚える。



「贋物とはいえ、その剣は大したものだ。並みの剣なら瞬時に溶断され、その持ち主も剣と同じ運命を辿り、消し炭になる。貴様はそれに耐えた。剣だけは互角ということになる。」


「剣だけ……!?」


「剣だけだ。それだけでは俺には勝てない。それ以外は全て俺が上回っている。貴様に勝ち目など最初から無かったのだ。」


「そんなことない!」



 自ら否定しようと、相手に攻撃を仕掛ける。相手は難なくそれを受け止める。しかも追従剣だけで! 受け止めた上から直接攻撃を加えてきた。僕は堪えきれずに後ろへと吹き飛ばされた。



「今までのはまだお遊びに付き合ってやっただけだ。俺が使える剣技は貴様の父のものだけじゃない。本番はこれからだ。」



 相手は追従剣を剣本体に戻し、構えを変更した。剣を両手持ちにして柄を顔の右側まで持っていき、切っ先をこちらの顔に向ける構え。これは北方の剛剣使いによく見られる構え方だ!



怒れる雄牛(マッド・ブル)!!」



 剣を構えた状態で突進してきた。全体重を乗せた一撃のはず。中途半端な受け方では、押し崩される!追従剣で牽制しつつ、回避行動に移った。



「怒れる雄牛を止められるものはない!」



 追従剣は易々と撥ね除けられ、回避したにも関わらず、攻撃が僕の体を掠めた。突きから一転、横薙ぎの攻撃に切り替わったためだ。



「逃がさん!!」


(ゴギャアッ!!!)



 剣と剣がぶつかり、悲鳴のような軋み音を上げている。先程の攻撃で崩れた体勢を好機として、上から打ち落としの一撃が来た。回避が間に合わないので剣で受け止めるが、物凄い圧の攻撃だった。体全体が軋みそうな程の衝撃! 僕は思わず、その場に片膝を突いた。



「どうだ? この剣技は魔王戦役時代の剛剣士が得意としていたものだ。まだこんなのは序の口だぜ! 次を喰らいな!」



 鍔迫り合いのままで、相手は僕を蹴り飛ばし、雨のように追撃を加えてきた。体勢を立て直すも、矢継ぎ早の攻撃は止まることなく、防戦一方に晒された。



「これが蒲公英(ダンディライオン)! 花みてえに広がりのある攻撃だろう!」



 四方八方から攻撃が浴びせられる。その様を示しているんだろう。華やかな名前とは裏腹に、その由来である獅子のような猛撃だった。最早、受けきれずに体の傷はどんどん増えていった。



「息も絶え絶えだな! すぐ楽にしてやる! こいつは受けきれるか、死呼ぶ鐘の音(ハッピー・ラング)!」



 今度は打って変わって、大きく外側から弧を描いてなぎ払ってきた。受けようと剣を合わせようとするが……、



(カァァァァアン!!!!)



 剣先を打ち払われ甲高い金属音が響き渡る。この衝撃でバランスを崩され、僕の真正面ががら空きになってしまった。まずい!



「死を誘う音色を聞きながらくたばりな! 無疵たる絶命刺パーフェクト・ウィナー!!」



 無防備な喉元に相手の剣先が迫る。


 こんな絶体絶命の場面だというのに、相手の使う剣技の由来を思い出した。“クロウ・キャニオンの悲劇”、魔王戦役時代のクルセイダーズの精鋭部隊“秩序の壁(ヘブンズ・ウォール)”が全滅した逸話だ。ヴァボーサが使ってきた技は彼らの物。彼らは民衆を守るため勇猛果敢に戦ったが、とある魔族の一団に敗れ去った。その一団の名が……ルス・デルソルだった。

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