救えないループ
このサイトでは二作目の作品となっています。
瞬間、暗転、開幕
今まで何度ループをしてきただろうか、回数が20を上回りそうになった時から数えるのを
やめてしまった。
神様のいたずらか何か知らないが、私は何度も何度も何度も、自分の目の前で、妻の忘れ形見の娘がはねられるのを見せられてきた。
もちろん、何度も救おうとした。
ある時は、あそこを歩くなと伝え、ある時は外出すらも禁じ、しまいには娘を無理やり椅子に縛り付けて換金まがいのことだってしてきた。
けれど運命の力は絶大なのか知らないが、娘は時間になったら必ずあの場所へ行き、いつも同じトラックに跳ねられ、私の腕の中で冷たくなっていく。
私はもう耐えることができなかった。
最愛の娘が血だらけになるのを何度も見られるほど、私の心は丈夫ではない。
だからせめて、最後まで一緒にいよう。
娘が轢かれるならば、私もともに轢かれ、二人でお母さんのところに行こう。
それしかもう、私には思いつかない。
娘と手をつなぎながら歩き、あの場所にたどり着く。
「パパ、どうしてここで止まるの?」
ここがいつも娘を殺している信号。私たちはその信号のど真ん中で立ち止まった。
「パパ、早くわたらないと危ないよ?」
「ああ、わかっているよ。まりな」
そう、わかっている。わかっているのに、救えなかった。
私は震える体のまま、娘を力強く抱きしめる。
「わぷっ。パパ、なに?急に」
「まりな!パパは、、、パパはお前のことを心の底から愛しているぞ!」
やるせない思いに乗じてか、いつの間にか声が大きくなる。
「・・・ふふ。まりなもパパのこと大好きー!」
突然の行動に娘は無邪気に笑ってくれた。
それがたまらなく嬉しくて、涙が出てきてしまう。
「ありがとう。パパはお前のような娘を持てて幸せだった。 だから、、、だから!」
その時、どこからともなく現れたトラックが、信号を無視して私たちの体を跳ね上げる。
宙に浮かぶ体、全身に走る激痛、飛ばされそうな意識の中、折れているであろう両腕で娘を抱きしめ続ける。
トラックに跳ねられるのはこんな痛みだったのか。
ごめんな、まりな。パパ、お前に何度もこんなつらい思いをさせていたんだな。
だけどせめて、死ぬその瞬間まで、パパにお前のことを抱きしめさせてくれ。
薄れゆく意識の中、娘をいつまでも抱きしめ続ける
その瞬間
暗転、開幕
読んでいただきありがとうございました。
この作品は私が今まで書いた物の中でも、設定が好きでとても気に入っています。
ちなみに裏設定なんですけども、このループが終わる条件は「娘に何もしない」です。
助けようと努力をするのもダメ、一緒に死のうがループが終わりません。
この話の時より精神がさらにすり減り、やがて娘の死に何も感じなくなって、ただただ娘が死ぬ瞬間を呆然と眺めるとき、やっとループを終わらせることができます。