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スウィートカース(Ⅷ):魔法少女・江藤詩鶴の死点必殺  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第四話「棺桶」
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「棺桶」(3)

 シヅルとホシカの囚われる牢屋……


 通路側の天井で、轟音が響いた。


 豪快に表装を蹴破った空調から、侵入した人影は身を畳んで床へ降り立っている。思わず腰を浮かせた魔法少女たちは、ふたりの台詞をハモらせた。


「「ルリエ!?」」


 天井裏の埃や蜘蛛の巣にまみれたまま、ルリエは立ち上がった。別れてガラスの独房に拘置されるふたりへ、順番に視線を移しながらつぶやく。


「ごきげんよう、シヅル。そして久しぶりね、伊捨星歌いすてほしか


「まさかこんな形で再会するとはな。とっとと出せよ、檻のカギ?」


「あいかわらずね、デリカシーのなさは」


 嘆息するルリエの手に、小さな装置が輝いた。キスラニから奪い取ったリモコン式のカギだ。そのボタンに指をかけ、ルリエは告げた。


「さて、どっちが開くかしら?」


 押下と同時に、格子が開放されたのはシヅルの牢獄のほうだった。


 廊下に爪先を踏み出しつつ、たずねたのはシヅルだ。


「片方しか開かへんのけ?」


「そのようね。いったん退却するわ」


 憮然とするホシカとルリエを見比べながら、シヅルは問うた。


「ホシカを放ったままでか?」


「そっちの部屋のカギは、おそらくダムナトスが持ってる。でも身をもって体感したでしょ、あいつのシャードの理不尽さは。ここはひとまず仕切り直して、対策を練るわよ」


「せやけどやな……」


 ためらうシヅルへ、ガラス越しにホシカは親指を立ててみせた。


「あたしなら心配ない。先に行きな。待ってるぜ」


「…………」


 さんざ迷ったのち、シヅルは苦渋の決断を下した。


「わかった。必ず助けに戻るから、くれぐれも気いつけてや」


「そっちもな」


 ルリエに続き、シヅルも出口へ向かって駆け出した。


 迅速に階段をのぼり、足音を殺して通路を進む。外部へ抜ける最短距離だ。ときおり曲がり角で立ち止まって慎重に確かめるが、警備とおぼしき気配はない。


 やがて、シヅルとルリエの視界は唐突に開けた。


「!」


 ふたりの目前に広がるのは、邸内の大きなプールだ。その規模感は学校のそれと同等以上と思われ、とくに水底は暗くてまるで見通せない。その恐ろしいまでの深さからは、ただの金持ちの道楽だけではなく、なんらかの呪的な研究の意図さえ感じられる。


 そして、プールサイドに立ちふさがる人影はふたつあった。


 キスラニと、ダムナトスではないか。


 異質な辞書を繰るダムナトスを睨み、ルリエは小さく舌打ちした。


「もうバレたか……!」


久灯瑠璃絵くとうるりえ


 朗々と切り出したのはダムナトスだった。


「とうに知っているぞ。おまえ、俺の部下のシャードを奪ったな。自然牙シアエガの指輪に、偏向皮ウルツフの耳飾り、さらには千里眼オビトンの眼鏡だ。大事な品なので、返してくれないだろうか?」


「嫌よ」


「集めた我がシャード、なにに悪用するつもりだ? まさか、幻夢境げんむきょうのメネス・アタールにでも献上するつもりかね?」


「…………」


「当たりだな。顔に書いてある。では多少手荒になるが、奪還させてもらうぞ」


 まっすぐ敵手は見据えたまま、ルリエは横のシヅルへ耳打ちした。


「こうなったら腹をくくりましょう。ダムナトスの相手はあたしがする」


「ほならうちが、残ったシャードのほうを?」


「頼むわ。命重装キスラニの能力に対抗できるのは、あなたの〝蜘蛛の騎士(メーディン)〟しかない」


 油断なく身構えて、ルリエは言い放った。


「魔法少女の力、完全解放を許可するわ。時間切れ(トラペゾヘドロン)にだけは注意してね」


「よっしゃ!」


 呪力を燃やして、シヅルとルリエは床を蹴った。

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