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スウィートカース(Ⅷ):魔法少女・江藤詩鶴の死点必殺  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第四話「棺桶」
16/23

「棺桶」(1)

「おい、シヅル、シヅル……」


 だれだろう。押し殺した声で、だれかが彼女の名前を呼んでいた。それはとても懐かしい響きに聞こえる。


「……?」


 ぼんやりと、シヅルは目を覚ました。


 さいきんなにかと勝手に眠ってしまうことが多い。現にいまもシヅルは、キングサイズのベッドに大の字で寝かされていた。


 この豪勢な内装は、どこの高級ホテルのスイートルームだろうか。だが、部屋と通路を区切るのは分厚いガラスの障壁だ。見渡すかぎり、どこにも外へ通じる道はない。窓ひとつないことを考えると、どうやら当場所は地下室と思われる。


 ここが一風変わった牢屋であることを、シヅルは寝ぼけた頭ながらに悟った。


 そして壁を挟んで、真横にも監獄はあるらしい。となりの空間で、姿の見えないだれかは安堵に胸を撫で下ろしたようだ。


「よかった……無事だったか、シヅル」


「その声は……?」


 ヤモリのようにガラスにへばりつき、シヅルは気配の正体を口にした。


「ホシカ!? ホシカなんけ!?」


「よう。久しぶりだな」


 顔を拝めないことは残念だったが、答えた声はたしかに伊捨星歌いすてほしかに間違いない。興奮と歓喜にガラスを叩きながら、シヅルは叫んだ。


「探したで、ホシカ! かわいそうに、こんな場所に閉じ込められて!」


「ああ、気に入らねえ。気に入らねえ立場じゃねえか、お互い。ところでなんだ、その訛った喋り方は?」


「うちの故郷の方言や。いい加減、いい子ちゃんぶった標準語を使うのも飽きてな。おかげでなんでか、いまはうちまで不良扱いされとる」


「やさぐれたんだなァ、ちょっと見ない間に」


「あんたに言われとうないわ」


 独房どうしで、ふたりはかすかに笑いあった。


「ホシカ、そっちはケガはあらへんけ?」


「おかげさまでな。シャードどもから食らった傷はとっくに治ってる」


 あちらとこちらを隔てる壁に背中合わせになりつつ、シヅルは問うた。


「ここは?」


「ダムナトスお手製の地下牢さ」


「なんで生かされとるんや、うちは?」


「あたしを説得するための人質、だそうだ。ま、ダムナトスの言いなりになるつもりなんてサラサラないけどよ。心配なのは、おまえが妙な拷問でもされないかだ」


「それは大丈夫や。うちはいったい何時間寝てた?」


「半日ぐらいかな」


「ほなら」


 手近な鏡にじぶんの顔を映し、シヅルは呪力を解き放った。片目の五芒星は、きちんと五角ぶん回復している。壁越しに、となりの魔法少女も呪力の流れを感知したらしい。


「これは、呪力……おまえも魔法少女になったのか? いつ、どこで?」


「紆余曲折あっての」


 拳を鳴らし、シヅルはホシカに告げた。


「ちょっと隅まで離れとき。これからうちの能力で邪魔な壁を〝殺す〟」


「だめなんだ」


 ホシカの制止に、シヅルは止まった。


「この部屋に攻撃は効かねえ。シャードの呪力でできた強い結界なんだとよ。あたしも何度も試したが、無理だった。五芒星の無駄遣いはやめとけ」


「八方塞がりか……」


 くやしげに顔をしかめ、シヅルは座り込んだ。八つ当たり気味にシヅルの腰を受け止めたベッドが、ふんわりと反発する。


 こちらも不満そうに、ホシカはつぶやいた。


「ひとまず今は、おたがいの無事が確認できただけでも良しとしよう。じっくり考えようぜ、この豚箱を抜ける手段を」


「それが、ゆっくりもしとれんのや……赤務あかむ市はいま、大変なことになっとるらしい。メネス・アタールに聞いた」


「メネスに? 教えてくれよ、あたしにも?」


 ここまでの斯々然々(かくかくしかじか)を、シヅルは端的にホシカへ説明した。


 危機感もあらわに、うなったのはホシカだ。


「ついに再開したのか、ホーリーの戦争が。あたしらも急いで合流しないとな。で、また暴れてるのは久灯瑠璃絵くとうるりえか?」


「それは安心して。ルリエはうちらの味方や」


「なんだって?」


 ホシカは目をしばたいた。


「あのルリエが? いったいどういう風の吹き回しだ? なんか裏があるんじゃ?」


「異世界でひと悶着あったっちゅうのは知っとる。でもホシカに辿り着くまで、ルリエは間違いなく身を張ってうちを守ってくれた。なんでも、大事な彼氏をメネスに救ってもらった恩があるそうや」


「それらしいことは、前にメネスから聞かされてたが……まじにチームの一員になったんだな」


「いまのところルリエは、ダムナトスに捕まっとらんらしい」


 期待と不安をないまぜにした眼差しで、シヅルは地下室の天井を見つめた。


「ルリエだけやで、うちらを救い出す力を持っとるんは……早よしてや」

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