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スウィートカース(Ⅷ):魔法少女・江藤詩鶴の死点必殺  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「揺篭」
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「揺篭」(1)

 赤務あかむ市、美樽びたる山の地下……


 鋭い金属音とともに、光と光は暗闇にぶつかった。


 広い〝儀式の間〟は、いちめん蝋燭の炎に照らされている。その中央で苛烈な死闘を繰り広げるのは、年端もいかない二名の少女だ。打ち込む拳に翼めいた薄刃を生やした片方は、不可思議な純白のドレスをまとっている。


 対するもう一方の少女も、色彩こそ真紅とはいえ派手なドレスを身にまとうのは同じだった。白と赤それぞれの衣装を構成するのは、異世界の〝呪力じゅりょく〟に他ならない。


 どちらかといえば押されている白の少女は、激しい攻防に必死の形相だ。それとは裏腹に、赤い少女の笑みには余裕と邪悪がみなぎっている。


 放たれる正義の翼刃ブレードを、まがまがしい死神の大鎌は火花を散らして受け止めた。衝撃の波紋を広げた突風に、火の海が轟々と渦巻く。


 複雑に絡まって鍔迫り合う白い少女の翼刃ブレードと、赤い少女の大鎌デスサイズ……


 まさしく〝魔法少女〟と〝魔法少女〟の戦いだった。


「おかえり、ホシカちゃん♪ しっかり恨んでくれた? 私のこと?」


「おまえの言ったとおりだよ、雨堂谷寧めどうやねい


 超高速で位置を変える激戦のさなか、白い魔法少女は答えた。


「あたしは自分からここに戻ってきた。もう逃げるなよ。あたしも逃げねえ」


 別次元の決闘の場に、ひょんなことから立ち会うことになったのは江藤詩鶴えとうしづる美須賀みすか大学付属高校に通うふつうの女子高生だ。


 しかしシヅルは身動きひとつできなかった。手も足も体も石造りの〝生贄の祭壇〟に縛りつけられたうえ、猿ぐつわまで噛まされている。じぶんを誘拐した雨堂谷寧めどうやねいと、それを救出にきた伊捨星歌いすてほしかの言葉のふしぶしには〝生贄〟〝儀式〟〝召喚〟〝憑依〟等々の単語が含まれていたが、シヅルにはさっぱりわからない。


 理解できるといえば、何点かだけだ。


 ネイはシヅルを、なにか恐ろしい目的に利用しようとしている。あわれな犠牲者であるシヅルを助けるため、親友のホシカは決然とネイに挑んだ。あの悪夢の夜、高所から飛び降りたホシカが見せた奇跡……〝魔法少女〟とかいう神秘の力を使って。


「!」


 おびえて震えるシヅルの視線の先、天井に大穴をうがった力もまた説明不能だ。


 白い〝翼ある貴婦人(ヴァイアクヘイ)〟と赤い〝角度の猟犬ハウンド・オブ・ティンダロス〟は、またたく間にその亀裂の闇に吸い込まれて消えた。かたときも剣戟の衝突を絶やさぬまま、魔法少女たちは夜空をどこかへ遠ざかっていく。


(ま、待って……!)


 猿ぐつわ越しに、シヅルはもごもごと呻いた。


(私もホシカを助けなきゃ! このままじゃきっと、ホシカはどこか遠い場所へいなくなっちゃう! そんな気がする!)


 だがどれだけシヅルが身じろぎしても、やはり祭壇の縄は頑丈でびくともしない。残されたシヅルの寝姿を孤独に揺らめかせるのは、灼熱の火の粉とかげろうだけだ。


(どうすれば!? ああ、どうすれば!? 私にも〝力〟があれば……!)


 シヅルが夢中で願ったそのときだった。


 正体不明のささやきが、耳に忍び込んだではないか。


「力、と言ったな?」


 その声色は、男女の性別や年齢もはっきりしない。高いか低いのかも不明瞭。いやそれどころか、この世のものかどうかすらも謎だ。


 ひとりでに、広間の炎はなびいた。


(!?)


 ふたたびの驚愕と恐怖に、シヅルは目を剥くことになった。


 まず最初に聞こえたのは、鋼のように硬い蹄鉄のこだまだ。


 馬?


 いつしかシヅルは、じぶんの横にたたずむ巨大な影を見た。人馬一体と思われるその影からは、不鮮明だが蜘蛛のように八本の脚が生えている。とめどなく影を包むのは、膨大な量の漆黒の瘴気だ。おぞましい黒い影。影の怪物としか形容できない。


 騎士の闇で輝くあれは刀剣か? 焔を照り返すあれは盾か?


 斬り殺される……


 とうとう観念して、シヅルはもごついた。


(あ、あなたは……?)


 そこだけ燃える影の瞳は、不吉な赤光を増した。


「我は星々のもの……〝蜘蛛の騎士(メーディン)〟」


(私を、私を食べにきたの?)


「そうとも言える」


 ろくにシヅルは口を聞けもしないのに、騎士とはなぜか会話が成立した。


「深宇宙のかなたより、我は儀式に応じて現世に召喚された。すると我の着地点はおまえか、江藤詩鶴えとうしづる?」


(……?)


「もっと簡単に言おう」


 抑揚のない舌使いで、騎士は問うた。


「力が欲しいか?」


(……!)


 現状を総合的に考える間、シヅルはしばし沈黙した。


(欲しい……欲しいです、力が)


「よかろう。そうでなくては、我が呼び出された意味はない。ただし」


 いななきをこぼす異形の蜘蛛馬をなだめつつ、騎士は念を押した。


「ただし、これからその片目に刻まれる五芒星の契約が尽き果てたとき、我はおまえの体をもらうぞ。おまえの存在を貪り食い、我は真に現世へ受肉するのだ。承諾するな?」


 騎士の炎の瞳を、シヅルは強い眼差しで見返した。


(なんだかよくわからないけど……やるなら早くして。さっさとしないと、間に合わなくなる。ホシカと二度と会えなくなるわ)


「それでいい。では耐えよ。痛みに、呪いに、運命に」


 悠然と後退して、騎士は怪物馬の手綱を叩いた。


 勢いよく加速した人馬の影は、次の瞬間にはシヅルめがけて飛び込んでいる。


 跡形も残らずシヅルの片目に吸収され、〝蜘蛛の騎士(メーディン)〟の姿は消失した。同時に、どくんと大きな鼓動を打ち広げたのは、寄生の宿主となったシヅルだ。縄の縛めをものともせず、その華奢な体はえびぞりに反り返って痙攣する。


 見よ。地獄でも垣間見たように限界まで瞠られたシヅルの片目、ひとりでに線を結んでいく呪力の〝五芒星〟を。


 新たな魔法少女の誕生の瞬間だった。


「~~~ッッ!!」


 雄叫びという名の産声とともに、シヅルの拘束具はいっせいに千切れ飛んだ。

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