表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

満ち満ちた瓶

作者: morko

 駄菓子屋で、ガラス瓶に入ったキャンディを買った。お小遣いをすべてつぎこんで買った。この世のすべての色を閉じこめてあるんじゃないかと思うくらい、色とりどりのキャンディが詰まっていた。一粒なめると頭が痺れるくらい甘くて、目をギュッと閉じてその甘さを味わった。大切に大切に味わった。私は幸福だった。たった一週間ほどで、それらをすべて味わい尽くしてしまった。


 空になったガラス瓶さえ愛おしくて、勉強机の上、鉛筆削り機の隣に飾った。小さく丸くなった消しゴムを入れようか、ちびた鉛筆を入れようか、それとも川で石を拾って、瓶の中にためていこうか。なかなかいい使い道が思いつかなかった。けれど一生思いつかないでもよかった。考えているだけで、私は満足だった。さらに一週間が経った。


 その日、私は不機嫌だった。だからクラスの女子と大喧嘩をした。思いつくかぎりの悪口を言った。容姿を罵り、テストの点数を嘲り、挙句の果てには、その子の家が小さくて古びていることまで持ち出して馬鹿にした。誰かが先生を呼んでくるまで、私は暴言を吐き続けた。


 先生は私を叱った。理由も聞きやしなかった。私は不愉快だった。帰宅して一目散に部屋へ向かった。ふと勉強机に目をやると、あのガラス瓶になにかが入っていた。それは小さな黒い石で、五つか六つくらい入っていた。最初はキャンディかと思ったけれど、口に入れると歯が折れそうに固くて、なんの味もしなかった。家族の誰かがいたずらをしたのだと思った。


 家族は誰も黒い石のことを知らなかった。誰も勝手に部屋に入っていないと言った。不思議な石を、私はそのままにしておくことにした。黒くごつごつした表面は光をよく反射した。瓶を振ってみればカラカラといい音が鳴った。私は幸運だった。うっとりするほど綺麗な石を、タダで手に入れることができたのだから。


 一方で学校は散々だった。結局、一週間のうち一日置きに三度も喧嘩をした。とはいえ口喧嘩で私に勝てる子なんていなかったから、私は無敵だった。いざ喧嘩が始まると、私はあらゆる種類の罵詈雑言を相手に浴びせた。泣くまで止めてやらなかった。先生はいつも私だけを叱った。私は黙秘を貫きながら、ギッと睨みつけて無言の抵抗をした。


 黒い石は一週間で三倍に増えていた。きまって私が喧嘩をした日に増えていた。それがなによりの答えで、私は簡単に石の仕掛けに気づいたのだった。私は有頂天だった。難しいことはなにもなかった。誰かに悪口を言う、ただそれだけでよかった。私は石を増やすためだけに適当な誰かを罵り始めた。相手は誰でもよかった。石が増えればそれでよかった。


 瓶はすぐに満ち満ちた。あと一つ二つで溢れてしまいそうだった。うきうきした気持ちで学校へ行った。私は上機嫌だった。朝一番に道端で会ったクラスメイトへ二言三言と適当な悪口を言っておいた。それで任務は完了だった。その子がどんな顔をしているかなんて見なかったし、想像もしなかった。早く家に帰りたくてたまらなかった。


 放課後、誰にも邪魔されないように部屋のドアに鍵をかけて、ここ何日かでずいぶん重くなった瓶を手に取った。黒々とした石が朝よりももっと、これでもかというほどぎっしり詰まっていた。詰めこみすぎて蓋が歪んでしまっているくらいだった。満杯と言ってよかった。うっとりして、ガラス瓶に頬ずりをした。


 それは一瞬で破裂した。


 パンパンに詰まっていた黒い石は、全部が全部、ウニのトゲのように鋭く尖って私のからだにブスブス突き刺さっている。頬にも、首にも、腕にも、足にも、心臓にだって、どこにだって無差別に突き刺さっている。窓の外からボール遊びをする誰かの笑い声が聞こえてくる。私は悲鳴を上げながら一本一本トゲを抜く。トゲを抜くたび、私が意地悪をした子の顔がポコポコと泡みたいに浮かび上がってくる。みんながみんな、じっとこちらを睨みつけている。私は大馬鹿者である。涙が出る。俯く。床の光が目に入る。


 ガラス瓶の残骸が、夕陽に照らされて真っ赤に染まっている。








(了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ