08 アーチャンの気持ち
支援物資の中身は缶詰と、立派な箱に入った、微妙に大きさの違う2本のナイフだった。
アーチャンは「はい、これあげる!」と、笑顔で缶詰と、大きいほうのナイフを俺に差し出してくる。
「いや、礼はいらないって。家族が送ってくれたものなんだから、大切にしろよ」
「缶詰はいっぱいあるから大丈夫だよ!
それにこのナイフは、ボクの一族に伝わる『ペアナイフ』っていって、大きいほうを男の人に贈る風習があるんだよ!」
「へぇ、そんな風習があるのか。そういうことなら、ありがたくいただこう」
アーチャンが気軽に、それこそ缶詰みたいな感覚でよこしてきたので、俺はナイフを受け取った。
このナイフに重要な意味があるだなんて、つゆほども気付かずに。
アーチャンはまるで指輪でも嵌めるみたいに丁寧に、小さい方のナイフを腰から提げる。
そして、エヘヘ……と俺の中ではおなじみになりつつある、かわいい照れ笑い浮かべていた。
それから俺はアーチャンと別れ、食料探しを再開。
小一時間後、もらった缶詰に加え、キノコや山菜、木の実や果実を両手いっぱいに抱えて歩いていた。
「これだけあれば、しばらくはごちそうだな」
小屋に戻る道中、森のなかで悲鳴が聞こえてきていた。
何事かと思ったが、どうやらモンスターに襲われてピンチというわけではないらしい。
クラスの男子生徒5人グループが、ステータスウインドウを開いたまま、ガックリと四つ足でうなだれていた。
「う……ウソだろ……誰か、ウソだと言ってくれぇぇぇ……!」
「まさかライガの支配値が、20ポイントになるだなんて……!」
「俺なんてまだ、0ポイントなんだぞ……あんな、ゴミスキル野郎に大差を付けられるだなんて……!」
「あんなゴミ、誰が尊敬したり、怖れたりするんだよ……ありえねぇだろうが……!」
「ぜ、絶対に好意じゃないよな? もし女子からの好意だったりしたら、俺は立ち直れねぇぞ!」
そういえばステータスウインドウには、『支援者ボード』と『支配者ボード』を確認できる機能があるんだっけ。
俺は他人のことなんて興味はないので、自分のステータスを確認してみる。
すると確かに、支配値が20にあがっていた。
誰なんだろうな、いったい。
入学式典の前ならいざしらず、今の俺に特別な感情を抱くヤツがいるだなんて……。
よっぽどの変わり者なんだろうな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その次の日、いよいよ『帝都創造学園』の始業となった。
俺はボロボロの制服のまま、校舎である城へと向かう。
この時にはすでに、俺が生きて戻ってきたことは周知の事実であった。
さっそく俺をイジメてやろうと、通学途中で多くのクラスメイトに絡まれたが、ひと睨みしてやったらすごすごと退散していった。
教室は、ひとり用の木の机と椅子が、格子を作るように等間隔で並べられていた。
しばらくして、担任教師がやって来る。
「よーし、それじゃ授業の前に、席決めをするぞ!」
席順は、支援者ボードと支配者ボードを組みあわせた、総合ランキングの上位者が前となり、下位者は後ろになる決まりであった。
俺は支配値が20ポイントあったおかげで、総合ランキングでは中間より少し下くらいだった。
でも追放者ということで、最下位の者が座ることになる、一番後ろの窓際の席に座らされる。
「まぁ、席なんてどうでもいいけどな」
それから授業が始まったのだが、内容は主に、開拓のための基礎知識。
すでに中学でやったことのおさらいだったので、退屈のあまり寝落ちしそうになった。
いよいよ本格的に睡魔に襲われたところで、チャイムが鳴る。
クラスじゅうの生徒たちが「あぁ~っ」と一斉の伸びをした。
「よーし、それじゃ、午前の授業はここまで!
でも昼休みに入る前に、パーティ分けをするぞ!
仲の良い者たちでパーティを作り、そのメンバーの名前をパーティシートに記入して提出するんだ!
提出した者から、昼休みに入ってよし!」
すると、まるで中学の時の、修学旅行の班決めのような緊張感が、クラスを満たす。
俺とパーティを組むような変わり者はいないので、俺はさっさとパーティシートの自分の名前だけを記入し、教壇へと持っていく。
その途中、ふたりの女子から声をかけられた。
「ざぁこ♪ やっぱりライガは単独なんだぁ。
そりゃそうだよね、ザコいライガとパーティを組みたがる人なんているわけないし。
この前のことを反省して、あたしのペットになるんだったら……」
「あ……ライガくん。この間はありがとう、缶詰どうだった? また届いたらお裾分けするね。
ライガくんって誰ともパーティ組まないの? そ、それなら、ボクと……」
しかしふたりとも話の途中で、仲良しの女子から引っ張られていった。
俺は眠くてしょうがなかったので、さっさとパーティシートを出して教室を出る。
昼メシはアーチャンにもらった缶詰ひとつ。
「どこで食べるとするかな……。おっ、日当たりの良さそうな中庭みっけ」
中庭に出てみると、『決闘フィールド』という看板があって、木や岩がぽつぽつとあった。
まだ誰もいなかったので、手近な岩に腰掛ける。
ナイフで缶詰を開け、日なたぼっこをしながら食べた。
「食ったらますます眠くなっちまった。どこか、昼寝できそうな場所は……ふぁ~あ」
アクビをしながら見回すと、中庭の隅に物置くらいの大きさの小さな小屋を見つける。
あの中に入れば邪魔されずに寝られるかなと思い、近寄って扉を開いてみたら、中は部屋のようになっていた。
壁にはハリツケ台のようなものがあって、あたりには血の跡みたいなのがこびりついているが、ちゃんとベッドまである。
さっそく中に入って扉を閉め、ベッドに横たわる。
ベッドは俺の小屋にあるのより寝心地がよくて、すぐに眠りに落ちてしまった。