06 家を建てよう
「ざぁこ♪ そんなにボロボロになって帰ってくるだなんて、やっぱライガってばザコいよねぇ~。
その調子だと、どうせ住む所もないんでしょ?
だったら、あたしの家に住まわせてあげてもいいけどぉ?」
「いいのか?」
「うん、だってライガの部屋もちゃーんと用意してあるし、ほぉら」
ガミメスが立てた親指で示した先は、庭にある犬小屋だった。
名札のところにはたしかに『らいが』と入っている。
「あたし、ちょーどペットが欲しかったんだよね~!
ザコいライガならピッタリっしょ!?
ちっちっちっ、こっちへおいで、ライガ! 今日からあたしが飼ってあげる!」
嬉々として首輪を取り出すガミメスに、俺は背を向けた。
「ちょ、どこに行くのライガ!?」
「やっぱり、俺はひとりで暮らすことにするよ」
「またままた強がっちゃってぇ、ザコいライガには無理だって! きゃははははは!」
しかし俺は答えずに、森に向かって歩き出す。
背後からは、ガミメスの声がしつこく追いすがった。
「あ~あ、このまま行っちゃうんだったら、別の子をペットにしちゃおっかなぁ~?
いいのかなぁ、いいのかなぁ~?」
「ライガを飼ってくれる人なんてだ~れもいないの、わかってるぅ?
これが最後のチャンスだよ? わかったらさっさと戻ってきて、あたしのペットに……」
「ふ……ふぅん、あくまでそういう態度なんだぁ。まあ、あたしは別にいいけどぉ~。
そのまま野良犬みたいに外で寝て、風邪ひいて死んじゃえばぁ?」
「も、もう、しょうがないなぁ! 首輪はナシにしてあげるわよ!
これが本当に最後のチャンスだから、変な意地を張るのはやめて、戻ってきて!」
「わ……わかった! 外飼いじゃなくて、室内犬にしてあげる!
毎日遊んであげるし、おいしいペットフードも用意してあげるから!
いい!? これが、本当に本当の……! 最後の最後のチャンスなのよっ!?」
「ら……ライガのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!
ほ……ホントにホントに死んじゃぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は夕闇が迫りつつある森に戻る。
平らな石と棒きれを拾い、植物のツタで巻き付けて石斧を作った。
まわりには鉄の斧を使って伐採するクラスメイトたちがいたが、俺の石斧を見て笑っている。
「おい見ろよ、ライガが生きてるって噂は本当だったんだな」
「でもなんだありゃ? ボロボロの服に石斧なんて、まるで原始人みてぇじゃねぇか」
「俺たちの鉄の斧だって、木を切り倒すのに何時間もかかるってのに、あんな石斧じゃ何日もかかるだろうな!」
「きっと大砲で撃ち出されて、頭がおかしくなっちまったんだろう! へたばったところを笑ってやろうぜ!」
ニヤニヤ笑いのギャラリーをよそに、俺は猛然と石斧を木の幹に打ち付けた。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
ウエハースのような木くずがガツガツとあたりに飛び散り、30分もしないうちに、
……ずずぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!
ギャラリーのすぐ目の前に、木を倒してやった。
「う……うそ、だろ……?」
「なんで、石斧で、こんなに早く……?」
「で……でも、木だけあったってしょうがねぇよな!」
「そ……そうだ! 建築スキルがなきゃ、なにも作れねぇ!」
「ライガみたいな落ちこぼれの追放者に、建築スキルを提供するヤツは、どこにも……!」
ギャラリーがバカにしている間に、俺は倒した丸太を使ってテキパキと小屋を建てる。
釘がないので、木材どうしをパズルのように組み合わせる、木組み方式で。
するとギャラリーたちの顔から、笑みが完全に消えた。
「え……ええっ、ま……マジかよ……!?」
「こんなに早く、小屋を作っちまうだなんて……!?」
「ライガのスキルは『静電気』といかいうゴミスキルだけだろ!?
建築スキルなんて持ってないのに、どうして小屋が作れるんだ……!?」
俺の生まれた孤児院には、アネハという建築スキルを持つ聖女がいた。
ガミメスが俺にとっての妹なら、アネハは姉のような存在といえるだろう。
アネハの建築スキルはかなり上位のようだったが、権力者たちの建物を建てるのではなく、難民などに小屋を建ててやっていた。
俺はその手伝いを子供の頃からしていたので、木の伐採や簡易建築は得意なんだ。
気付くとギャラリーたちは、俺に向かって拝んでいた。
「ライガ! いや、ライガくん! 俺たちにも、小屋を作ってくれないか!?」
「俺たちは住むところが欲しくて、ヴィクトールくんに頼んだんだけど、ずっとこき使われてるんだ!」
「それでヴィクトールくんが建ててくれるのは、ちっぽけな犬小屋なんだよ!
女子にはタダで小屋を建ててやってるってのに!」
「でもライガくんならそんな意地悪をせずに、俺たちに小屋を作ってくれるよね!?
だってライガくんは、みんなに対して平等だったじゃないか!」
「そうそう、それに俺たちクラスメイトだろう!?
この地を開拓するために、お互い協力しあおうじゃないか!」
かつてのクラスメイトたちは「えい、えい、おーっ!」と勝手に盛り上がっていた。
俺はさっさと小屋に入ると、顔だけ出して言う。
「追放しておきながら、いまさら頼るだなんてプライドがないのかよ。
お前らみたいな負け犬には、犬小屋がピッタリだ」
唖然とするヤツらの目の前で、バタン! と扉を閉めてやった。