05 パチパチパンチ
パチパチパンチ
静電気を帯びたパンチを放つ
……静電気のパンチって、あんまり強くなさそうだな……。
でも、ものは試しで使ってみることにするか。
中学のときは、剣術と同じく格闘も習ってたからな。
とその時、遠くから「あっ!?」と声が聞こえた。
見やるとそこには、2人組のクラスメイトが。
名前は知らないが、末端ランクのスキルを与えられたヤツらだろう。
森の資材を伐採して運んでいるのか、ふたりして丸太を肩に担いでいた。
「おい、見ろよ! あいつ、ライガじゃねぇか!」
「ホントだ! アイツ、生きてやがったのか!」
「なんでもいいや、この丸太、アイツに運ばせよう!」
「でもその前に、ウサ晴らしに軽くボコるってのはどうだ!?」
「そうだな! ずっとこき使われて、ムシャクシャしてたからな!」
「「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」
2人組は丸太を投げ捨て、蛮族のような雄叫びとともに走り寄ってくる。
新スキルの使い勝手を試すには、ちょうどいい相手だな。
とりあえず左にいるほうをザコA、右にいるほうをザコBとしよう。
まずパチパチくんをザコAに集中させて、足止めする。
……パチパチパチパチッ!
「うっ、うわっ!? なんだコイツ!? チクチクするっ!? やめろっ、やめろーっ!」
そして残りのザコBに向かって、俺は大きく振りかぶり……。
「パチパチっ、パァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーンチ!!」
青い火花を帯びた俺の拳が、ザコBの鼻っ柱を捉えた。
……ドグワッ、シャァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ザコBの鼻は生卵のようにグシャリと潰れ、鼻血を撒き散らしながらブッ飛んでいく。
俺は返す刀でもう一発、パチパチパンチを放ち、足止めしていたもうザコAにボディブローを浴びせた。
……ドムウッ! と寸詰まりのような鈍い音とともに、身体をくの字に曲げ、宙に浮き上がるザコA。
「ごふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
そのままもんどりうって倒れる。
ザコAは腹を、ザコBは鼻を押え、地面をのたうちまわっていた。
「うげぇぇぇっ!? は、腹がっ、腹がぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」
「いぎゃぁぁっ!? は、鼻がっ、鼻がぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」
俺は自分の拳を、信じられない気持ちで見つめる。
まさか、ワンパンKOできるだなんて!
すごい、強いぞパチパチパンチ!
と一瞬思ったが、よく考えたら静電気ダメージよりも物理ダメージで殴り倒しているだけにすぎない。
しかしクラスメイトにさんざんやられてストレスが溜まっていた俺には、ちょうどいい気晴らしになった。
しかも、レベルアップときたもんだ。
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ライガ
支援額 0
支配値 10
ステータス
LV 4
HP 40 / 40
MP 40 / 40
EP 130 / 130
スキル
静電気
02 パチンショット
01 パチパチパンチ
New! 01 低周波治療
02 パチパチくんパワー
01 パチパチくんサモン
パチパチくん
パチンショット
New! パチパチパンチ
低周波治療
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俺はその後も、ゴブリンの森を順調に戦い抜き、ついに『帝都創造学園』の敷地にまで戻ることができた。
校舎である城のまわりは、入学式典のときは更地だったのだが、今は多くの家が建ち並んでいる。
その建築の中心となっていたのは、クラスメイトのヴィクトール。
『S級建築士』という、生産系のスキルを与えられたヤツだ。
「家は建てるものではなく、描くもの! そう、この大地こそが、僕のキャンパスさ!
『アーティスト・グラン』よ! 美しき聖女たちが住むに相応しい、白亜の御殿を描こう!」
ヴィクトールは歯の浮くようなセリフとともに、芸術家のようなナリの眷精を操り、瞬く間に家を建てていた。
そう、この『帝都創造学園』は、住むところもクラスメイトで協力しあって用意しなくてはならないのだ。
支援者からの支援金が潤沢にある者は、その金を建築スキルのある者に渡して一戸建てを建ててもらう。
払えるほど支援金がない者は、雑用をこなしたりして、建築スキルのる者が建てたアパートに住まわせてもらうという仕組みになっている。
現に、支援者ボードで上位だった、クラス委員のテンドウは庭付きの豪邸に住んでいた。
幼なじみのガミメスも多額の支援金があるのか、2階建ての家を手に入れたようだ。
しかし、できたての新居の前に佇んでいる少女の顔は浮かない。
子鹿の耳のような髪をしおれさせ、庭に置かれたカラッポの犬小屋を寂しそうに見つめていた。
「飛んでった方角をずっと探してるのに、どこにもいないだなんて……。
やっぱりあの時、あたしが身体を張ってでも止めておけば、ライガは……」
「いい家だな」と声をかけてやると、ガミメスのピッグテールがピョコンと立つ。
ハッと振り返るなり、まるで幽霊にでも出くわしたかのように目をカッと見開く。
次の瞬間、そのまんまるな瞳にはぶわっと涙があふれ出していた。
「らっ……ライガ!? い、生きてたの!?」
「ああ、なんとかな。心配かけたな」
「しっ……心配……! するわけないっしょ! ザコのライガの心配なんて!」
「なんだ、探してくれてたんじゃなかったのか?」
「さっ……探すわけ……! う……うん、探したよ! ライガのザコい死に様を笑ってやろうと思って!」
「お前は昔から方向音痴だったもんな、きっとあさっての方向を探してたんだろう」
「そっ、そんなことないもん!」
ガミメスは頬をつたう涙に気付き、俺に背を向けて、ぐしっと制服の袖で拭っていた。
深呼吸するみたいに、すーはーすーはーと肩を上下させたあと、再び振り向く。
そこにはいつものクソガキらしい、人を食ったような半笑いがあった。