03 俺のステータス
入学式典は、いよいよ佳境へと入る。
俺は新入生たちの輪から外れたまま、ひとり片隅でうなだれていた。
『では新入生たちのクラス委員は、「光王子テンドウ」に決定した!
テンドウよ! クラスのリーダー、そして我が帝都会の一員に相応しい活躍を期待しているぞ!』
「やっぱり俺たちのリーダーは、テンドウくんをおいて他にはいないよ!」
「あぁん、テンドウ様、すてきーっ! 私たちの王子さまーっ!」
壇上のテンドウは、拡声魔王の力を得て高らかに宣誓する。
傍らに眷精である、光の秘書『レタリーセック』を従えながら。
『このテンドウ、粉骨砕身、天地神明に誓い、この地に帝都をもたらすことを誓いましょう!
そのためにはクラス一丸となる必要があります! そこでさっそく、クラス委員として提案したい!
このあとに控えている余興の「モンスター射撃」において、ターゲットをモンスターにするのではなく、もっとも追放すべき人物にするべきだと!』
俺はぼんやりと、委員長の初仕事を耳に入れていたのだが……。
その内容に、ハッとなった。
『もっとも追放すべき人物』……!?
それって、もしかして……!
と気付いたときにはもう遅かった。
俺は会場のスタッフから取り押さえされ、縄でグルグル巻きにされて、城の砲台へと運ばれていく。
砲台には撃ち出される予定のゴブリンがすでに弾込めされていて、砲頭から顔を出してもがいていた。
俺はゴブリンと入れ替えられ、砲弾にさせられてしまう。
砲台は数十メートルの高さがあり、下を見下ろすだけで眩暈がしそうになった。
さすがの俺も、これには我を忘れてしまう。
「やっ……やめろっ! やめてくれっ! こんな所から撃ち出されたら、死んじまうよ!」
しかし俺の命乞いは、高笑いに遮られてほとんど届かなかった。
『フハハハハ! 実に胸のすくような光景だ!
我ら、そして多くの支援者をたばかった者には、当然の報いともいえる!
諸君! 開花したスキルを試すいい機会だ!
あの咎人に、遠慮なくスキルを撃ち込んでやるのだ!』
帝都会長はサディスティックな笑みとともに、俺を指さす。
『なあに、殺してしまってもかまわん!
あのゴミは孤児だ! ゴミ溜めから生まれた、正真正銘のゴミなのだ!
しかもゴミスキルとあらば、死んでしまったところで悲しむものなどおらん!
さぁ、いくぞっ! スキルの準備はいいかっ!?』
「やっ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
『撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!』
……ズドォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
「うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
俺はこれ以上ないほどに派手で、惨めな方法で、学び舎である城から追い出された。
展望台にいるクラスメイトのほとんどは、俺に向かって手をかざしている。
「死ねっ、このゴミ野郎!」
「帝都会長公認なら、やらなきゃソンだよな!」
「実をいうと、人間に対してスキルを使ってみたかったんだ!」
「ああっ、クソ、はずれた! あとちょっとでバラバラにできるのに!」
俺の髪の毛や肌を、火の玉や光の弓矢が掠めていく。
炎に焼かれ、身体を縛っていたロープに引火した。
熱さのあまり、殺虫剤をかけられたイモムシみたいにもがくと、嘲笑が湧き上がる。
俺はそのまま、城から遠く離れた森に突っ込む。
憎しみとともに投げ捨てられた人形のごとく、四肢を投げ出して地面に叩きつけられた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから、どれくらい意識を失っていたのかはわからない。
でも長い時間、生死の境をさまよっていたことだけは確かだった。
まばゆい朝日を感じ、俺は意識を取り戻す。
引き裂かれたみたいに全身が痛くて、生きているのが不思議なくらい。
おろしたてだった制服は泥で汚れ、あちこち破れていた。
身体を起こすと、胸からハムスターのような小さな生き物が転がり落ちる。
俺の眷精である、パチパチくんだった。
パチパチくんも俺と同じボロボロで、すっかり元気をなくしている。
しかし俺が気がついたのが嬉しいのか、「ピャ……」と力なく笑ってた。
「まったく……お前のせいで、俺はこんな目に……。
……いや、お前のせいじゃないな、ぜんぶ、俺のせいだ……」
俺は『黄金のスキル』を与えられると言われてから、どこかいい気になっていたんだ。
まわりからチヤホヤされるあまり、大切な気持ちを忘れていた。
逆境であればあるほど、俺のなかではふつふつとエネルギーが沸き立つ。
スラム街で生まれ育った者だけがもつ、ハラペコの野良犬のような、ハングリー精神が……!
「幼い頃は、どんなものでも使って必死に生きてきたんだ……!
それに比べたら今の状態なんて、絶望でもなんでもない……!
やるぞ……! たとえどんなスキルだって、使いこなしてやる……!」
俺はさっそく、ステータスウインドウを開いてみる。
スキルが開花した者は、自分の能力を確認できる『ステータスウインドウ』が使えるようになるんだ。
黄色い半透明のウインドウが、俺の目の前に浮かび上がる。
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ライガ
支援額 0
支配値 10
ステータス
LV 1
HP 10 / 10
MP 10 / 10
EP 100 / 100
スキル
静電気
01 パチンショット
01 パチパチくんパワー
01 パチパチくんサモン
パチパチくん
低周波治療
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