その2 桜澤理音は超能力者である
さて、クラスの美少女(柊木の知人談)である桜澤さんがなぜボークレイを知っているのか疑問に思った方もおられることだろう。
ここで少しだけ話しておくことにする。
彼女は風を操る一族桜澤家のご令嬢である。
桜澤家はかれこれ五百年以上も柊木くんの通う高校がある町で超能力者の元締めとして君臨してきた。
その桜澤家には代々風を操る超能力者が生まれるらしいのだが、それでもまともな超能力を扱えるのはほとんどいない。
現に、彼女の姉と妹はそよ風を操る程度の力しか持ってない。
幸か不幸か才能があった彼女は幼いころから、おじいちゃんによって稽古をつけらてきた。
あるときは北海道の森の奥深くで熊退治に無理やり連れていかれ、またあるときは天狗の住む山で道場破りをさせられ、さらに、あるときには海外旅行と称したドラゴン退治に連れていかれ……。とにかく彼女のおじいちゃんによる稽古は恐ろしいものであった。
その成果か彼女はそれなりに強い超能力者になっていた。
ただ、彼女には困ったことがある。それはおじいちゃんである。
どうも彼女の母(故人)は祖父が決めた許嫁を自殺未遂を何度も繰り返すほど嫌っていたらしく、そのため、彼女の母は彼女の父(故人)と駆け落ちしたらしい。
そのことがあってか、彼女の祖父は孫娘たちの恋路には厳しいのだ。
彼女の姉が初めて告白されたその日、おじいちゃんはその告白を受けようとした姉とその妹二人にとんでもない条件を突き付けてきたのだ。
それは、おじいちゃんよりも強い男を連れてきなさい、というものだった。
特に、強い能力を持つ彼女はそれよりもさらに重い条件が課せられた。
それは、もし25歳までに相手を見つけられなかったら、おじいちゃんが決めた相手と結婚させられることだ。
なにしろ、彼女は桜澤家の三姉妹でただ一人まともな力を持っていた。それだけに彼女は絶対に後継ぎを作らなければならなかった。
そのため、おじいちゃんはもし25歳までに相手を見つけられなかったら、おじいちゃんが決めた相手と結婚させられることになってしまったのだ。
一度、彼女の母が駆け落ちしたこともあり、おじいちゃんは娘たちが万が一、家出でもしたらそれをすぐさま感知して彼女たちの下に飛んでいけるような能力まで編み出した。そのため、駆け落ちはほぼ不可能である。
そのとき、おじいちゃんに文句を言える誰か親族が一人でもいたら、このバカじじいを止められたのかもしれないが、生憎、この暴走じじいを止められる人はもうこの世にはいなかった。
彼女はおじいちゃんの人の見る目が少しずれていることを小さい頃からよーく知っていたため、若くてカッコよくて尚且つバカじじいよりも強い超能力者を探していたのである。
そんなある日のこと、彼女はあの柊木栄一と出会ったのである。