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嘘をついたら、たらいが降ってくる  作者: 半空白
第2話 桜澤理音は柊木栄一にご執心
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その1 屋上に呼び出された柊木君

 

 あれから一年経った。


 え? なんか時間が飛んだ?


 いや、高一の間はずっと当たり屋たちに追いかけられて、いい思い出がないんだよ! 


 特に夏休みやクリスマスは本当に地獄だった。マジで怖かった。


 行く先々で当たり屋に会ったんですけど! 俺には休みというものがないんですか!?


 ほんと、なんで徒党を組んで追いかけるかな?


 いくら、たらいに負けたからって、そんな大人げないことをするんじゃない! 俺はごく普通の男子高校生だって!


 まぁ、そんな日々も今日で終わりなのかもしれない。


 なぜなら、俺はクラス一の美少女(俺のクラスの知人談)である桜澤さんに屋上に呼び出されたからだ。


 あれは新しいクラスになると、友達が一人もいなくて、前に座っている奴のくだらない長話に少し涙目になりながら、すべてが過ぎ去るのを待っていたときのこと。


 突然、桜澤さんから話しかけられたのだ。


『ちょっと話があるから昼休み、屋上まで来てくれない?』


 これは驚いた。俺の頭の中では革命がおこった! 自由の女神が旗を掲げて、俺に戦えと言っている! まさに、驚天動地の出来事だ!


 いやぁ、まさか、桜澤さんに話しかけられるなんて思わなかった。


 そもそも、俺と桜澤さんは住む世界が違う。


 俺はクラスカーストの中の下程度で彼女はその頂点に君臨する女神様!


 そう。俺はそこら辺の汚れた川で、もがき苦しむすっぽん。そして、彼女は夜空に輝く月。そんな彼女から「昼休み、屋上に来て」だって?


 これは何たることだ。


 もう、俺には不可能はない。あのタンクトップドレッドが来たとしても、俺はあいつに負ける気はしない! っていうか、一度もあいつに負けたことは無いんだけど!


 まぁ、そんなことはどうでもいいとして、俺はスキップをしながら階段を駆け上るのであった。


 そう。これは天国への階段。極楽にいる如来様が落としてくれた一筋の蜘蛛の糸を上るような感覚。


 こんなに軽やかな足取りしたことない。


「ごめん。待った?」


 俺は満面の笑みで屋上に出る扉を押し開けた。


 あれ? 誰もいない。


 まさか、これは世にいうドッキリではないだろうか?


 いくら、この一年間で当たり屋に300回以上も遭遇したことがある俺でもこれはきつい。心に来るものがある。


 まぁ、そりゃそうだろうな。如来様がそう塵芥ごときに救いの手を差し伸べるわけがないものな。


 あぁ、残念「ごめん。待った?」

「待ってないよ」


 神は我を裏切らなかった。まさか、彼女が来るとは思わなかった。これはあるんじゃないか? 例のアレがあっていんじゃないのかな?


「ちょっと、友達に絡まれててね。みんな柊木君と私のことについて聞いてきてなかなか教室から出るに出られなかったの」

「そうだったんだ」

「無い無いって言っているのになかなか聞いてくれなくてね」

「──ごめん。ちょっと帰っていい?」

「えー! ちょっと聞きたいことがあったのに!」

「何? 俺、ちょっと急いでいるんだけど」


 ほら、告白じゃないって言われちゃったからね。トイレに逃げこむの。もう、俺にここにいる道理なんてないのさ。


「ねぇ、蟹田さんって知らない?」

「カニタ? 体重計じゃあるまいし」

「それはちょっと違う気がするんだけど……。じゃあ、ベルデンハイムは?」

「ごめん、何言っているのか分からない。それって、ヨーロッパの地名なの?」

「じゃあ、ボークレイは?」


 えっ? なんで彼女の口からどうしてタンクトップドレッドの名前が出てきたの?


 まさか、あいつ有名人なの? ボディビル界とかプロレスとかで人気なの?! あれが? あの唾吐き野郎が?


「あいつって、そんなに有名なの?」

「まぁ、それほどじゃないけどね」


 なんか安心した。まさか、あの化け物が有名人とかだったらヤバかった。SNS上で俺の顔が暴露されていたかもしれない。あぁ、怖い怖い。


「で、どうしてあなたがボークレイの名前を知ってるの?」


 まぁ、そうだよね。まさかの共通の知人があのタンクトップドレッド野郎だからね。


 ストーカーと言っても信じられないだろうし、だからと言って親友でもなんでもない。強いて言うなら、顔見知りみたいなものだけどどうしたものかな?


「そんなに言いづらい関係なの?」

「そんなわけないじゃないか。俺とあいつはそういう関係じゃないからさ」

「そういう関係って?」

「いやぁ、まぁ、その、それほど友達と言うほどではないってことだよ」

「なんかはぐらかされたような気がするんだけど」


 ふー。彼女が腐っていなくてよかった。


 あんな野郎と俺がそんないかがわしい関係だというデマが流れたときには今すぐこの屋上から飛び込みたくなるからさ。


「まぁ、とにかく知人ってことだよね」

「そんなかんじ」

「どうして知り合ったの?」


 たらいがきっかけだよ、なんて言えない。絶対に言えない。


 だって、恥ずかしいじゃん。その理由。どう考えたってバカにしている。第一、そのたらいは俺以外誰にも見えないから理由として説明できない。


 けれど、実際にたらいのせいで知りたくもないガチムチ男の連絡先その他諸々を手に入れてしまった。


 嘘をついたらたらいが落ちるようにならなかったら、出会うことすらなかったのだからやはり、たらいなのだが、説明しにくい。よーし、こうなったら。


「──道案内していたんだよ」

「道案内?」

「そう。ただの道案内。あの人、最寄りの駅を知らないっていうから案内してあげたんだよ」

「そうなんだ……。聞きたかったことも聞けたし、今日はここでお暇するね」

「えっ?」

「じゃあ、これからもよろしく」


 えっ? もう会話終わっちゃうの? 


「あっ、あの……」

「じゃあね!」


 彼女は満面の笑みで手を振ってから階段を下りていった。


 彼女がいなくなった後、俺は探偵物によく出てくるトリックを見破られた犯人のように屋上の床に項垂れた。


 結局、昼休みの予鈴が鳴るまでそこから起き上がることができなかった。


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