その6 たらいが落ちてくるようになってから当たり屋が増えた
うっかりミスで0時に投稿されていました。
まったく寝ぼけたつもりはないのですがね。
先日、生まれて初めて当たり屋というものを目の当たりにしたのだが、あれが契機だったのだろうか二日に一回くらいの頻度で当たり屋に遭遇するようになった。
勿論、全員たらいで打ちのめしたのだが、そんなに痛いのだろうか? たらいが当たったら、しばらく立てずにいるのだ。
俺の頭に当たると、痛いだけで済むのだが、他の人だと気絶するのか……。まったく不思議な呪いだ。
まぁ、その隙に逃げられるのだから、倒れてくれている方がありがたいのだが……。
そのせいで俺の嘘が徐々に尽きかけてきているのだ。
有名ハリウッド女優とマブダチとか荒唐無稽な嘘ならいくらでも浮かぶのだが、どうも最近、そういう嘘は小さめのたらいしか落ちて来ないのだ。
別に大きなたらいが落ちないから困るわけでもない。むしろ、自分の上に落ちたとき少しだけ痛みが小さくなった気がするからラッキーだ。
だが、どうも小さめのたらいだと他の人に当たったときもダメージが小さいらしい。
ごくたまに小鹿のように足を震えさせながらもなんとかして立ち上がろうとするやつが出てきたのだ。そんなに足を揺らすなら寝てくれたらいいのに。
あと、そういうときは「あなたはそんな嘘しかつけないんですか? だせー」といった俺を煽るような文がペイントされているのだ。
さすがの俺もその煽りにはカチンときたため、それ以来、嘘を思い浮かぶたびにメモ帳に記録しているのだ。
スマホにも一応、メモしているのだが、いざというときにスマホを片手に嘘をつくというわけにもいかないからちゃんと手書きのメモ帳を持って歩いているのだ。
あと、スマホを壊したくないから。壊れたら、とんでもないことになる。弁償なんて嫌だしね。
さて、今日も当たり屋らしい男が現れたのだが、これはないぜ。
タンクトップドレッド野郎じゃないか!
それだけじゃ分からない? さっき言っていた小鹿のように足を震えさせながらも立ち上がるやつのことだよ。
そのガチムチの筋肉はどうも見せかけではないらしく、よほど大きな嘘ではないと、倒れてくれないのだ。
あと、あいつ、俺が来るのを確認すると、両手に唾を吐きかけて、手拍子を三回するのをひたすら繰り返すのだが、それが異様に目立つことを知らないのだろうか?
出来ることなら、そんな人に絡まれたくはないのだが、あいつは俺が息を殺してその場を通り過ぎようとしても、唾のついた手で俺の肩に触れて「さぁ、今日も闘おうではないか」と言い出すのだ。いい加減、勘弁してほしい。
「久しぶりだな」
「三日前にも会ったじゃないですか」
「今日はいつもの俺とは違うぞ」
スルーしやがった。
しかも、また、負けフラグ立てているし! 最近、こいつの背中にぜんまいがついているんじゃないかって思うくらい同じことを言わないんですけど!
あと、いつもの俺と違うっていうのは、手についている唾液の量ですか!?
いい加減、その唾で人の肩に触るようとするのはやめてくれませんかね! あんたと会うたびに、制服を洗うのがめんどくさいんですけど!
「いい加減、少しは話してくれないか? お前のその謎の能力を知りたいんだ!」
「能力? 俺にそんなものがあるわけないじゃないですか!」
「そんなわけがあるか! なら、俺の鋼鉄の身体がどうして傷つくんだ!」
だから、そこでマッスルポーズするのはやめてくれませんかね。そんなに大胸筋を動かされても、会話できませんから。
あっ! いつものようにたらいが降ってきたな。いい加減、超能力者ではないのにどうして嘘だと思うんだ? いったい誰がそれが嘘かどうかを判定しているんだ!?
ちっ! しかも、よりによってあいつの目の前に落ちやがった。あと、数センチ前にいろよ!
さて、少し気を落ち着かせよう。そして、あいつに一言言ってやるんだ。
──鋼鉄の身体とかそういうのに俺は一切興味ないんで! いい加減帰れ!
と、言いたいところだが、この男と会話すると、そこの変態と同類扱いされかねないので、しょうがない。今日もたらいを落としますか。
言っておくが、これは偏見ではない。ただ、俺自身が筋肉の美を追い求める盲信者だと思われたくないだけだ。
「──最近、俺はラブレターをもらっている」
「いったい何を言ったんだ? よく聞こえな、──ゲフー」
どうやら、この嘘だと気絶してくれるようだ。まったくひどいものだ。
はぁ……。いい加減、この嘘が本当になればいいのになって思うんだよね。
あと、「お前は一生、もらえないよ(笑)」なんて書くなよ! 傷つくじゃないか!
まぁ、いくらウジウジしても来ないものは来ない。
ここはひとまず、切り替えよう。
うん。今日も当たり屋を倒せたな。よし、帰ってゲームしよう。
これで第1話はおしまいです。
次回から第2話が始まります。
どうせ章タイトルに書くんだし、今、言ってもいいか。
次回、第2話:桜澤理音は柊木栄一にご執心
明日も読んでくれると嬉しいですね。