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嘘をついたら、たらいが降ってくる  作者: 半空白
第1話 嘘をついたらたらいが落ちてくる男
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その4 カリスマ美容師蟹田さん、超能力者になる

突然ですが、たらい被害者第1号の蟹田さんについての話です。


多くの方は興味がないでしょうが、読んでいただけるとありがたいです。

 

 先ほど、嘘をつけない柊木君に絡んで見事、たらいの餌食にあったナルシストおじさんこと、蟹田は頭を抱えながらトボトボと歩いて帰っていた。


 彼はあの柊木君を追いかけていたら、突如、頭に何らかの衝撃を受けて、しばらく道に伏していた。


 彼が目を覚ましたときには、すっかり夜も深くなっていた。


 そして、彼は頭の痛みを抱えながら、一人帰っていたのだ。


 ところで、彼は「自分は超能力者だ!」といかにも頭のおかしなことを主張していたが、それは嘘ではない。


 彼は本当に超能力者なのである。


 ******


 彼は一応、超能力者である。厳密に言うと、彼が超能力者になったのは今から五年ほど前のことで、それ以前は20年以上美容師として生きてきた。


 そんな彼の美容室には最近、人が来なくなったのだ。


 若い頃はイケメンとかなんとかもてはやされてはいたのだが、近くにテレビにも出ていたイケメンカリスマ美容師のチェーン店が出来てしまったため、女性客はすっかりそちらの美容院に行ってしまったのである。


 彼は誰も来ない美容院で一人、不満を抱えていた。


 それがピークに立ってしまったのか、彼は両手にはさみを構えて誰もいない鏡の前でポージングをしてしまったのだ。


 もし、このとき、彼の店に客が入ったら、そっと扉を閉めて逃げ出すに違いない。それくらい恥ずかしいポージングをしていた。


 そのとき、彼は目を疑うような光景を目の当たりにした。


 それは彼の両手が蟹のはさみになっていたのである。


 そう。蟹のはさみ。手が蟹のはさみになっていたのである。


 彼は驚いて椅子に手を置いたのだが、その椅子はあっさりぺしゃんこに潰された。


 彼は驚きのあまり、腰を抜かしてしまった。だが、この能力に目覚めたことに興奮していた。


 そして、この力を使いたいと思ったのだ。


 興奮冷めやまぬ中、彼はフードを深く被り、夜中にライバルのチェーン店を襲撃した。


 その店の近くには幸運にも民家はほとんどなく、バレずに店を壊せると思って行動したのだ。


 彼の蟹のはさみの力は人智をはるかに超えるものだった。


 気がつくと、まるで、壁をえぐり取られたかのような惨状がそこにはあった。 


 それを見た彼は自分のしてしまったことに気づいて、逃げ出した。


 そして、しばらくの間、彼は引きこもって、店を閉めた。


 しかし、待てど暮らせど彼の元に警察が来ることはなかった。彼はそのことに安心して店を再開することにした。


 彼が知らなかったことだが、その現場を警察が検証していくと、大きなパワーショベルで破壊されたに違いないと思われた。


 だが、パワーショベルを見たという人はいないし、騒音で目が覚めて見に来た人は不思議なことにフードを被った怪しい人影が逃げていったと証言した。


 単独犯の犯行にしてはこの壊し方はおかしいし、第一、その男が徒歩で逃げたと考えると、パワーショベルが現場にないことはおかしい。結局、警察はほとんどお手上げの状態であった。


 そのため、どう考えても、チェーン店が出来たことに恨みを持つ彼のところに警察が来るようなことは無かったのであった。


 チェーン店が潰れてしまったことにより、彼の店にもだんだん客が戻ってくるようになった。


 そんなある日のこと。店じまいをしていた彼の目の前に巫女さんが現れた。そう巫女さんである。


 髪を切りに来たのか、と聞くと、彼女は彼にこう言ったのである。


「あなたの手って蟹のはさみになりますよね?」


 彼は自分の力がバレたことに驚き、つい両手にはさみを構えてしまった。


 その結果、彼の両手は蟹のはさみになってしまった。


 彼はごまかそうとして、彼女の意識を失わせようとしたのだが、彼女は彼のはさみの上に立っていた。


「あなたの超能力は実に素晴らしいものですが、残念ながら練度と節度が足りません」


 彼女は蟹田さんのはさみの上から降りると、懐から扇子を取り出して、彼の右のはさみに扇子を当てた。


 すると、彼の右のはさみはただのはさみを持った手に戻ったのだ。


 驚いた彼は腰を抜かしてしまった。


 そして、怯えた表情をして、扇子を持った巫女さんを見つめた。


 彼女は優しい目をして彼に語りかけた。


「別にあなたの命を奪いに来たわけじゃありませんよ。ただ、私は節度を持って、この力を行使するべきだと考えているのです」

「じゃ、じゃあ、僕はどうすればいいんですか?」

「たしかに、美容院を壊したことはいけませんねー。そもそも、あれはただの逆恨みですし、現に多くの人に迷惑をかけています。ただし、あなたがその罪を償うつもりがあるのであれば、見過ごしてあげましょう」

「い、いったい何をすればいいんですか?」


 すると、彼女は懐から巻物を取り出した。そして、それを広げて彼の目の前に置いた。


「この契約書にサインしてください」

「は?」


残念ながら、次回も蟹田さんです。

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