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嘘をついたら、たらいが降ってくる  作者: 半空白
第5話 ベルデンハイムは柊木栄一を憎んでいる
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その5 なぜ柊木はダメージを受けないのか?

 

 ベルデンハイムはこのときを待っていた。


 そう。ヒイラギエイイチに復讐をするこの好機を。


 あのときは野外だった。


 しかも、比較的交通量の多い道沿い。


 たぶん、車の騒音などによって彼の超音波がうまく聞こえなかったのだろう。


 だが、今はホールの中にいる。彼の超音波が生身の人間であるヒイラギに通用しないはずがない。


 たとえ、オーラで防御する手段を身につけていたとしても、ベルデンハイムが彼の経験上、彼の超音波を聞いたものは彼の攻撃を防ぐことはできなかった。


 本来はさっさとヒイラギを眠らせておいて、じっくりいたぶればいいのだろうが、彼はヒイラギが意識を保ったまま、苦悶の顔を浮かべて地面を這う絵が見たかった。


 そのため、彼はヒイラギをあえて残し、それ以外全員を眠らせたのだ。


 どうやら、隣の席に座っていた友人が寝てしまったことに驚いて、ベルデンハイムが曲を止めていることに気づいていないようだ。


 彼はマイクを強く握りしめてシャウトした。


 ベルデンハイムにとって今までで一番の音量が出た。


 彼はニヤニヤしながら、ヒイラギの方を見た。だが、ヒイラギはピンピンしていた。


 このとき、彼はヒイラギを強く睨みつけてしまった。


 すると、ヒイラギは突然、ベルデンハイムの方を向いた。


「えーっと、これってあんたがやったの?」

『と、当然じゃないか』


 ベルデンハイムは動揺して、能力を使わないまま喋ってしまった。


 彼は超音波で心に語りかけることができる。


 たとえ、宇宙人と交信することになったとしても、ベルデンハイムは彼らと心を通わせることができる。


 だが、このとき、彼は能力を使うことを忘れた。その結果、ヒイラギから見ると、自分が犯人だとバレて動揺しているようにしか見えなかったのだ。


 ヒイラギのかわいそうな人を見るような目がベルデンハイムをますます怒らせた。


 ベルデンハイムは最大音量でヒイラギを気絶させようとした。


 だが、どれほど大きくしてもヒイラギは倒れない。むしろ、首を傾げていた。


 なぜだ! なぜ、ボクの能力がこの男に効かないんだ!


 ベルデンハイムは動揺のあまりいつのまにか自分の許容範囲の音量を超える超音波を出してしまったのだ。


 案の定、ベルデンハイムは本願を達成できず、無念にも気絶してしまったのであった。


 ******


 なんか、歌手を名乗ったただのテロリストに襲われたのだが、気づいたら勝手に倒れていた。


 なんか口を大きく開けていたのだが、いったい何をしていたんだろう? 大声で人の鼓膜でも破ろうとしていたのか? まぁ、そんなの俺には関係ないか。


 そんなことよりも、今、この状況を見て、誰が犯人だと思うのだろう?


 当然、起きているやつが犯人だろう。って、俺じゃん!


 仮にあのテロリストが本当に大声を出していたのなら、俺以外にも動く影があってもいいだろう。なのに、どこにもそんな影は無かった。


 俺はたった数秒の間に逃げようと決意したのであった。


 俺は丁寧にハンカチを取り出し、咄嗟にホールの扉を開け、ホールの外に出た。


 よし、あともう少しでこの会館から脱出できるぞ。


 そう気を緩めていると、俺は突然、誰かとぶつかってしまった。


 起き上がると、そこには巫女さんがいた。そう。巫女さんだ。


 ──あれ? これってどういうことなんだ?


 ひょっとして、あのテロリストが呼んでいたエキストラ? あるいは共犯者? いや、どっちもか?


 そもそも、こんなところにコスプレしてくる度胸のある人がいるだろうか? 


 いや、ここにはなぜかファンタジーの世界の住人たちが集まっていた。


 彼女がその中に入ると、逆に普通になってしまった。


 ひょっとして、別の部屋でコスプレ撮影会でもやっていたのだろうか?


 いや、それでも、まずい。ホールの中があまりにも静かだったら、逆に怪しむに違いない。


 よし、彼女から離れよ「どうかしました?」


 俺は咄嗟に彼女から離れた。


 よく見ると、その巫女さんはとっても可愛かった。なんかまるで作り物のような美しさがそこにはあった。


「あっ! すみません。告白は諸事情により受けられません」

「なんか、勝手に振られてる!」

「だって、人の顔を3秒見ていたんですよ。絶対、告白か疚しいことをしようと企んでいると思うでしょ!」

「いや、どこかで会ったことあるかな? って思わないの?!」

「私はあなたには会った記憶は無いので、そんなことは絶対にないです」

「人違いを否定しちゃうんだ!」

「当然でしょ? 絶対に自分が人違いをしていると分かっているはずの人のことをどうして素直に信じなくちゃいけないんですか?」

「俺が本当に人違いをしていると思っている可能性はないの?!」

「だから、私が無いのなら、ありません。──いや、65号ならあるのかも? いやいや、あのときの彼女は正装では無かったし、世界一可憐でお淑やかな人形である私とあのバカを間違えるなんてあり得ない」


 さっきから何、ぶつぶつ言っているんだ? なんだかこの巫女さんが怪しくなってきたんですけど!


「あのー。俺、もう帰っていいですか?」

「別にいいですよ。あなたはどうやら、この場においては被害者のようですし」


 良かった。俺が犯人だと思われなくて。──あれ?


「えーっと、今、被害者って言わなかった?」

「あれ? そんなこと言いましたっけ?」

「なんか頭にこつんと拳をついて舌出してかわいこぶっているけど、誤魔化せていないから!」

「ちっ!」

「今、舌打ちした! 絶対、したよ!」

「気のせいです。そんなことより帰っていただけませんか? 正直仕事の邪魔です」


 仕事かー。そりゃ、邪魔しちゃいけないよねー。


「その仕事って何?」

「コスプレの撮影会です!」


 そう言われちゃうと、なんか逆に怪しくなってきたんですけど!


 まぁ、これ以上、彼女と一緒にいるとまずいことになりそうだ。ここは早急に逃げるとしよう。


「では、この辺で失礼します!」

「さようなら!」


 なんか怖い! あの巫女さん、ひょっとしてなんかの秘密結社の一員とかじゃないよね? もし、そうだったら、俺、死ぬかもしれない。


 いや、今は逃げる方が先だ! 早くこの場から離れなくちゃ!


 ******


 柊木を見送った巫女さんはその後、ベルデンハイムとその観客がいるホールの扉の前に立っていた。


 扉を開ける前に巫女さんはふと、ある疑問が湧いた。そして、ポツリと呟いた。


「さっきの彼、ライブに来ていたはずなのに、どうしてワイヤレスイヤホンをしていたんだろう?」


オークとの兼ね合い上、週に一話進めるペースは困難だと悟りました。そのため、次回からは二週間につき一話を消化していく予定に切り替えることにしました。


まぁ、更新頻度についてはおいおい分かってくると思うので、とにかく、続きを読みたい方は二週間ほどお待ちください。


次回、第6話 桜澤さんは借りを返して欲しい

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