その3 さぁ、今宵も素晴らしいライブにしよう!
「本当にここでライブやるの?」
みなさんはライブと聞いたら、どんな場所を思い浮かべるだろうか?
一万人も収容できるようなライブ会場? それとも、ライブハウス? それとも、どこか広い公園?
残念ながら、そのベルデンハイムは俺の想像していたイメージとは違うようだ。
なぜなら、そこは学芸会かなんかが開かれるようなよくある市民ホールだったからだ。
そもそも、この国ではマイナーな歌手がよく借りれたと思うわ!
「そうっすよ」
「そうね」
「二人とも頷くんじゃない!」
「頷くも何も紛いようもない事実なんですからしょうがないでしょ」
「納得できるか! って、二人とも何洒落た格好しているの! 今からダンスパーティーでもやるの!?」
いや、この服装だと舞踏会か。まぁ、この際どっちでもいい。
「あっ、これドレスコードっすよ。この手の催しにはドレスコードマンが出てくるので、あらかじめこんな格好をしなくちゃいけないんすよ」
「ドレスコードマン? なんだそ「あれれ? ここに普通の格好をしているかわいい坊やがいるね」
「ギャー!」
なんで俺の後ろに明治の資産家みたいな服装をしたおっさんがいるんだよ! しかも、何だよ! そのステッキに、帽子は! もし、街中で歩いていたらあんた、絶対に浮いているよ!
「私はドレスコードマン! みんなの身だしなみを守る正義の味方だよ! さぁ、君の格好も変えてあげよう!」
「い、いつの間に!」
俺の服装はいつの間にか、彼の言うドレスコードにあった服装になった。いや、こんな格好で街中は歩きたくないんですけどね。あと、さっきまで俺が着ていた服はどこに行った! この日のために、わざわざ買ったんだぞ!
「さて、代金を払いたまえ」
彼は変なポーズをしながら、俺に請求書を手渡した。
「え! こんなの払えませんよ!」
そこには俺には到底払えない額が書かれていた。少なくとも、0をあと三つ消してほしいくらいの値段だ! っていうか、俺の着ていた服の1000倍もするってどういうことだよ!
「いやぁ、払えないっていうのは困るね。じゃあ、借金ってことにな「私が払うわ」
「えっ!」
なんで桜澤さんが払うの!?
「じゃ、じゃあ、このQRコードにかざしてくれたまーえ」
お前もお前で、動揺しながらも金を払ってもらおうとするんじゃない! あと、QRコードで払うってなんだよ! その服装だからてっきり現金を出せって言っていると思ったよ! まぁ、QRコードでも支払えないんだけどね。
「これでいいのかしら?」
「オーケー。万事オーケー。さぁ、身だしなみの整った少年少女たち! 今宵のライブ楽しんできたまえ!」
そして、ドレスコードマンは俺の服を恥ずかしい服に変えたまま去っていった。勝手に人の一張羅を変えるなんてひどいやつだな!
いやいや、桜澤さんに払ってもらったんだからお礼を言っておかないとな。
「とりあえず、ありがとうございます」
「別に良いわ。代わりに一つだけ私のお願いを聞いてくれないかしら?」
「い、良いよ」
なんか払ってもらったことで、かえって事態が悪化したような気がしたが、奢ってもらった以上俺は文句が言えなかった。
「よかったすね。桜澤さんが金持ちで」
「俺が守銭奴だって言いたいのか? あんなの払えるわけないだろ。えっ、あのドレスコードマンってなんかあったの?」
「あれはドレスコードマンって言って、人の身だしなみを整える能力っす。代わりにその身だしなみを整える費用を請求してオーラをせしめるあくどい紳士ですよ」
「それは紳士じゃねぇし、なんだそのチートは!」
「だから、この世にチートなんてないんすよ。この世にあるのは理不尽と生まれながらにある不自由だけっすよ」
「強く生きろよ」
なんか急に元気のない表情でそう言うものだから、なんだか早場がかわいそうに思えた俺はついそう言ってしまった。
「いや、強く生きれていない人に言われたくないっす」
「お前、何言ってんだよ! 俺は図太く生きているつもりだ」
「嘘をつけなくなっても、嘘をつこうと努力するのが、図太く生きるってことっすか?」
「なんだと?」
「二人とも言い争わないでホールに入るわよ」
「「はい」」
俺たちはじゃれ合うのをやめてホールの中に入るのだった。
「ところで、ベルデンハイムってどんな歌手なの?」
「よく聞いてくれましたわね」
「近い近い」
桜澤さんは顔が近いことに気づいたのか、俺から少し離れてコホン、と咳をついたから語り始めた。
「ベルデンハイムとはヨーロッパの小国で行われたオーディション番組で優勝してあっという間に世界でライブを行うスターになったシンデレラボーイですわ。彼はルックスは勿論のこと、性格もよくて、スタイルもいいの。さらに、彼の曲は恋の曲が多くて、彼の美声がその歌を引き立たせてくれるの。特に『天上の月に映る君』は少し暗い曲調だけど、彼の声が綺麗な詩を引き立た「あ、あぁ……」
長くなりそうだと思った俺はまだベルデンハイムについて語り続ける彼女を尻目に、早場にこう尋ねた。
「しかし、変な人が多いな。なぜなんだ?」
「だって、ここに居るのは超能力者だけっすよ」
「えっ?」
どーいうこと?
「知らなかったんすか? 超能力者協会主催のライブなんすよ」
「そんな協会あったの!」
「だから、犬耳とか、エルフとかいるんすよ」
「いや、それ以上に奇抜な人がいるんだけど」
ほら、マリモみたいな生き物とか、なめくじとかスライムまで。ここはファンタジーの世界なんですか?!
それに、協会があるからと言ってそんな人が多くいてたまるか!
「あぁ、そういうのは気にしないでください。ほら、意思が伝わるもの同士仲良くしなくちゃいけないっすよ」
「お、おう」




