その1 イケメン歌手は男子高校生を憎んでいる
まだ、5話はすべて出来ていませんが別に大したことないので、前に予告していた通りに投稿しました。
「やっとこの国に来れたよ。さぁ、ヒイラギ。今度こそお前を僕の美声でぐちゃぐちゃにしてやる!」
空港に着くなり物騒なことを言う彼の名はベルデンハイム。ヨーロッパの某国で有名な歌手である。実のところ、この国ではそこまでの知名度はない。
彼はマイクを握ると人の感情を左右する超音波を出すことができる。
普段は人を魅了するためにこの力を使う。だが、柊木栄一に関しては違うようだ。
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あれは柊木が今までで一番忙しかった夏休みを切り抜け、ほっと息をついていた九月のこと。
いつものようにワイヤレスイヤホンをつけながら歩いていると、ベルデンハイムと出会った。
ベルデンハイムも道端で超能力者と会うことになるのは想定外だった。
とある事情でこの町に来ていたのだが、ベルデンハイムもこんな大都市でも無ければ、有名な観光地でもないどこにでもあるような普通の町にまさか超能力者がほっつき歩いているとは思わなかったのだ。
まぁ、彼をこの町に呼び出したのは超能力者なのだが、そこは置いておくことにする。
ベルデンハイムは柊木を見て驚いた。柊木は今までで一番大きなオーラをしていた。だが、残念なことに、彼の挙動を見ていると、ただの一般人のようにしか見えなかった。
彼はこのとき、欲が出てしまったのだろう。試しに、目の前の男子高校生を倒してみようと思ったのだ。そして、彼のオーラを頂こうと思ったのだ。
彼はお気に入りのブランド物のカバンからマイクを取り出すと、まずは人払いの超音波を出した。
すると、あっという間にそこには柊木とベルデンハイムだけになってしまった。
柊木は急に人が居なくなったことに驚いたのか、辺りを見回していた。
ベルデンハイムは笑うのを堪えながら、人を失神させる超音波を出した。
これまで彼を襲ってきた超能力者はこの超音波で倒れた。
なのに、目の前の男子高校生は倒れなかった。
むしろ、平然と人気のない道を歩いていた。
ベルデンハイムは驚いた。
なぜ目の前の男は平然と立っているのだ?
僕の美声はこの男には届かないのか?
彼は理由が分から無かったが、とりあえず超音波を出し続けることにした。
だが、柊木が倒れる気配はまったくしない。ベルデンハイムは次第に自分の超音波に耐えきれなくなり、倒れてしまうのであった。
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目が覚めると、そこには巫女さんが立っていた。巫女さんはベルデンハイムの国の言葉で話しかけてきた。
「あなたに少し伺いたいことがあります」
「何だろうか?」
「なぜあなたは人払いをしたのですか!」
「いや、戦闘では一般のファンは邪魔だろう? だから、人払いをしたんだ」
彼が自慢げな顔をしていると、巫女さんは怒り出した。
「そもそも、人払いは不要です! あとで辻褄を変えれば良いんで問題ないんです! そもそも、戦うならTPOを守ってくださいよ! 常識でしょ?」
巫女さんの説教は三十分以上続いた。
その間、ベルデンハイムは先ほどあった高校生について考えていた。
―—なぜだ。なぜ僕は怒られなければいけない?
―—そうか、あの高校生に負けたからか。あぁ、憎い。憎い。
―—許せない。僕の美声を聞いて倒れないなんて万死に値する!
そんなわけで彼は柊木を憎むことになるのであった。




