その2 蟹田さんの近況報告
柊木と会ってからの蟹田さんにはいろんなことがあった。その中でも、最も大きな変化として挙げるとすれば、それは蟹田さんが美容院を完全予約制にすることにしたことだろう。
それは柊木との決闘から三日後の閉店時間が近い夜のこと。
蟹田さんの店にある一人の女性が来た。
「あなたはすごいカリスマ美容師だと聞きました」
彼女にこう言われたとき、蟹田さんは心の中では喜んでいた。ニット帽を被っている彼女はとても美しく、彼が目算した彼女の年齢も彼の好みに一致した。
だが、彼は美容師歴20年以上のベテラン。そんな褒め言葉で表情を崩すようなだらしない男ではなかった。
「ところで、今日はどんな御用でこちらに来られたのですか?」
「実は私……」
彼は一瞬、告白されるんじゃないかと思ったが、それはすぐに間違いだと分かってしまった。
「私、メデューサなんです」
「えーっと、あのメデューサ?」
「はい。私の髪を見たら、みんな石化してしまいますよ。あと、私の髪は蛇です」
「えーっと、それは切っても問題ないんですか?」
「ええっ。目隠しして、彼女たちを傷つけないように優しく切っていただければ、問題ありませんよ」
なにそれ。俺様はこれから目隠ししながら、優しくしてください彼女の髪を切らないといけないの? 無理難題じゃないか!
「切ってくれますよね」
「はい」
蟹田さんは引き受けてしまった。それは彼が美女と相対すると、ついすべて受け入れてしまう悪い癖が原因であった。
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結局、蟹田さんは途中、蛇に何度か噛まれ、その度に彼女に目隠しされたまま、粉薬を飲まされるのを繰り返して、なんとか彼女の髪を切ることに成功した。
ただし、蟹田さんは彼女の髪が本当に切れているのかは確認ができなかった。だが、彼女が切ってもらったことに喜んでいるものだから、切れたんだろうと思ったのだ。
あと、チップをたくさんもらって、黙り込んでしまったということもある。
それ以来、彼の店には訳ありの客が押し寄せてきた。
透明人間に、歩く仏像、人体模型に、触れたら訳の分からない場所へ転移させられる謎の少女など様々な個性的を通り越した謎の存在たちの髪を切った。
ただし、彼らのような超能力者たちはこの世にはとてつもなく多くいたらしく、次第に本来の彼の職業である普通の人のカットにまで影響を及ぼし始めた。
そこで、彼は泣く泣く予約制にしたのである。
そのおかげでとあるチェーン店が復活したのだが、それはまた別の話。
さて、今日も彼の店には訳ありの客が来る。
その客は自分の顔をどうしても見せたくないらしく、蟹田さんは彼の顔をよく知らないのだ。
しかも、髪型が見た目ではまったく変化しないときた。彼は何も変わらない写真のような顔をした相手を切らなければいけないのだ。
これは恐怖でしかなかった。もしわうっかり切りすぎたら、彼に殺されるんじゃないかと思っていたのだ。
どうやら、その客が来たようである。彼はいつものように接待することにした。
「いらっしゃいま……」
そこにはなんと蟹田さんが負けてしまったあのとき出会った男子高校生がいたのだ。
蟹田さんはその男子高校生の顔を見るなり、気絶してしまった。
ちなみに、桜澤さんも蟹田さんの店を利用しています。だって、タダになるから。
今回も短かったことですし、ちょっとだけ覗いてみましょう。
蟹田さん:桜澤さんの髪を少し触りながら(普通の子を切るのはやっぱりいいな。まぁ、彼女のおじいさんは全然普通じゃないんだけど)
桜澤さん:ニコニコしながら(いい加減、早く切ってくれないかな)




