その2 頭の位置を少し前にしたら、たらいは当たらない
最近、「オーク」の三章も書いています。まだ、3話分くらいだけど。
ついでに、後書きの編集も行っています。要らないことが書いているので、どんどん消去しています。
突然だが、絶対に嘘をつけない男こと、柊木栄一は追いかけられていた。
それも変なヘアスタイルをしたおじさんに。
あれ? 今、なんか変なこと言った? いや、俺は言っていないと思う。
ただ、今にも社交ダンスを興じそうな服装をしたおじさんに男子高校生が追われている話。
さらに言えば、そんな悪目立ちするおじさんにストーカーされている哀れな男子高校生の話。
言っとくけど、万引きなんてやってないからな! 犯罪はダメ! 絶対にダメ!
「おいおい。待てよ! どうして俺様から逃げようとするんだ?」
「だって、出会い頭に人をカツアゲするようなおじさんがいたら、普通逃げるでしょうが!」
そう。このおじさんはいきなり人に自分の方からぶつかってきて、謝れと言ってきたのだ。まったく迷惑でしかない。
「そうかい。なら、俺様と勝負しろ!」
あっ、この人、マジで頭がかわいそうな人だ。いい年して勝負とか何言ってんだろう? とりあえず、そっとしておこう。
「逃げるんじゃねぇ!」
彼は僕に向かって櫛を投げつけてきた。
そう櫛。床屋さんが使うようなプラスチック製の櫛を投げられた。
当たりはしなかったが、危ないぞ! 公衆の面前でなんてことをするんだ!
「すみません。人違いですよ。第一、俺は男ですし。しかも、櫛を投げてナンパとかいつの時代ですか?」
──あっ、そもそも、投げないか。
いや、ひょっとすると、これが21世紀流の櫛の手渡しかもしれない。ただ、男の俺には特に使い道がないからいらねぇな。あと、道に落ちてるし。絶対に汚い。
「なんでそう思うんだよ! 言っておくが、俺は女の子にしか興味ないからな! それも、20代に限る!」
うわぁ、白昼堂々そんなこと言うなんて……。
いくら、自分の嗜好を語るにしても、こんな人通りの多い商店街で言いますかね? 俺なら言わないよ。絶対に。だって、恥ずかしいじゃん。
「てめぇ、とにかくこっちに来い!」
「嫌ですよ! 俺はあなたに何もやっていませんから!」
「俺様の肩にぶつかっておいて被害者ぶってんじゃねぇよ!」
えっ? たったそれだけのことで追いかけてたの? てっきりカツアゲかと思ったよ。 まぁ、一応、謝っておくか。
ただし、立ち止りはしない。立ち止まったら立ち止ったでとんでもない目に合いそうだ。
なにしろ、20代女性を襲いたがる変態だからな。ふとした間違いで10代男性にまで手を出してきそうだ。
「それは大変申し訳ありませんでした。さようなら」
「待ちやがれ! 俺様は知っているんだ! お前には秘密の力があるんだってことを!」
「いきなり何言ってんだ! 秘密の力を持っている? そんなこと言われたら、俺まで頭がかわいそうなやつに見えるじゃないか! そもそも、なんでいきなりおじさんと少年漫画的な展開にならなくちゃいけないの!」
「それはお前が俺と同じだからだ」
えっ? ドヤ顔で何言ってんの? 俺とあんたが同じ変態って話? すみません。それだけはありえないです。では、さようなら。
「いい加減、逃げないでなにか話せよ!」
えー。何か話すことがあるかな? まぁ、ここはかわいそうな人の話に付き合おうか。
「あっ、そうだ。俺は超能力者ではないんですけど、あなたはどんな能力があるんですか?」
「そんなわけがあるか! まぁ、初心者なら、能力を自覚していなくても当然か。聞いて驚け! 俺は両手にハサミを、ヘゲブーー!」
あれ? なんか後ろから声がしなくなったぞ? ちょっと後ろをふり向こう。
あっ! 死んでいる!
いや、脈はあったから生きているな。どうして急に倒れたんだろう?
えっ! よく見ると、たらいがおじさんの頭の上にあるじゃないか!
なぜだ? なぜなんだ!? ま、まさか、俺の呪いに新たな扉が開かれたのか?
いや、そもそも、俺はいったいどんな嘘をついたんだ?
少なくとも、俺は絶対に超能力者ではないし、そもそも、能力があることを尋ねるなんて嘘と言えるだろうか?
まぁ、そんなことどうでもいいか。
それに、当分の間、この人は動けそうにないしね。
今のうちにお暇しましょう。