その6 たらいで人は強くなる
「えー! 嫌っすよ。だって、ボークレイが気絶する威力でしょ? 俺なら頭蓋骨がかち割れますよ」
早場は頭を守るようにして俺から遠ざかった。
「いや、俺は脳味噌が出たことが無いぞ」
「あんたと一般庶民の頭の強度を一緒にすんな!」
「なんで、いきなり一般人ぶるんだ!」
「別に一般人でいいじゃないっすか。俺は柊木さんや桜澤様、ボークレイとは違うんすよ」
「なぜ桜澤さんの呼び方が変わってるんだ?」
すると、早場の表情が固まった。そして、俺から目を逸らして、呟いた。
「ノーコメントで」
「答えろ!」
「だから、黙秘します!」
なんか怯えているから俺はそっとしておくことにした。そうだもんな。あの人、見かけによらず、人を脅すもんな。
「じゃあ、俺がたらいを落としても文句言わないよな? 絶対言わないよな?」
「俺があんたを追いかけている戦闘狂どもと一緒にされては困りますよ。俺はあくまで能力を自分のために使っているのであって、それを強くしたいだなんて思ったこともありませんよ」
「じゃあ、頭を冷やす意味もこめて、たらいの呪いをくらっておくか?」
「なんでそうなるんすか!」
「いやぁ、受けたいでしょ? ほら、俺に近づくその手の不審者たちはわざわざこのたらいを頭に受けに来ているからな」
「いや、俺をあいつらと一緒にしないでください。俺は決闘が嫌いなんですよ」
「なんで?」
お前もその部類じゃなかったのか?
「俺は戦うのが苦手なんですよ。運動神経には自信ないし、この能力は強いオーラを持つ超能力者には効かないし、あっ、柊木さんにこれまで効いていたのは柊木さんが超能力を信じていなかっただけっすよ」
「意味がわかんねえよ!」
「ほら、コンピュータウイルスって日夜進化しているじゃないっすか。それを防ぐセキュリティはそのウイルスの特性を知っておかなくちゃいけないじゃないっすよね。要するにそんなことです」
「なんでそんなに回りくどいたとえを使うんだよ!」
「好みです」
好みでそんな分かりにくいたとえにするかね。俺ならもっとうまいたとえにするよ。たぶん。
「そんなのどうでもいいよ。とにかく、俺の呪いを知りたいんだろ?」
「超能力っすよ」
「なら、頭に投げつけるから受けろ」
「だから、嫌っすよ」
「言っとくが俺のたらいは人には見えないし、音も鳴らない。唯一感じるのは衝撃だけだ」
「なんすっか! そのチートは!」
「その代わり嘘がつけなくなったんだよ!」
「まぁ、確かにそれは大きい代償でしょうが、嘘つけている時点で意味ないんじゃないっすか?」
「そうだった!」
「そんなことも気づいていなかったんですか?」
「違う! 嘘をついたらいちいちたらいを避けたり、掴むと奇行に走ったって思われるだろ! どこかの主人公よりも嘘が下手な奴扱いされるじゃないか!」
「とにかく俺は受けませんよ」
すました顔しやがって……。もういい。投げつけてやる。そして、頭を冷やせ。
「俺、UFO見たことあるんだ」
「そうなんすか。よかっ、ゲベホー」
「よし、決まった」
******
あれから俺は早場を保健室に運び、気づいたら、そこに倒れていたと伝えた上で早場が起きるのを待った。
目を覚ました早場に俺は笑みを浮かべながら、一緒に帰るよう誘った。
早場は目をキョロキョロさせながら、頷いた。
というわけで、俺は早場と一緒に家に帰っているのだ。
「なんでいきなり攻撃するんすか! 貴重なオーラが取られたじゃないっすか!」
「なんで決闘になってんだ?」
決闘って白い手袋を投げ合ってから始まるんじゃないの? 俺、白い軍手なら家にあるけど、手袋はないぞ。
「厳密に言えば、ただの喧嘩っす。超能力者が喧嘩をすると、必ず勝者に敗者のオーラが少しだけ移動するんすよ」
「じゃあ、俺に集ってくるのは……」
「そのオーラ目当てっすよ。よかったじゃないっすか」
「全然良くねぇよ!」
なに、美味しい食べ物に群がるハイエナたちを相手にしなくちゃいけないの? もう嫌なんだけど! 人生やめたくなるんだけど!
「そういえば、この痛みっていつになったら取れるんすか? 痛くて痛くてたまんないっすけど」
「一晩、寝たら治る。ちなみに、頭痛薬はまったく効かん!」
「それって、用途が間違ってんじゃないっすか?」
「なんだと?」
いや、頭が痛くなったら頭痛薬でしょ? なんで使わないの?
「普通、脳震盪に頭痛薬って使いますか? 頭を冷やすくらいじゃないっすか?」
「まぁ、そうだね。けれど、ひどいときは使うんじゃないのか!?」
「そんなの知りませんよ!」
「お兄ちゃんたち。超能力者じゃないの。さぁ、俺ちゃんと戦いましょう!」
突然、時代錯誤な感じがするリーゼント頭の学ラン野郎が俺たちに話しかけてきた。
「柊木さん。ここは俺がやりますよ。オーラが欲しいんで」
あれ? 君、戦うのが嫌いじゃなかったの? なんで戦おうとしているの?
「見るからにひ弱な体して俺ちゃんに勝てるのか?」
「いやー、そのファッションで現れるなんて胡散臭いっすね。超能力者だとバレバレじゃないっすか」
「なんだと?」
もうヤバイじゃん。すごい剣幕で近寄ってるよ? 大丈夫なの? 殴られないの?
すると、急にヤンキーが顔を青くして震えだした。そして、
「参りましたー」
といって去っていた。
「さようなら」
いや、なんで手を振んの? そういうときはなんかもっとカッコいい台詞とか言わないの?
あれ?
「そういえば、どうしてあいつにお前の能力が効いたんだ? 見た感じ強かったけど」
「オーラが俺の三分の一しかなかったんすよ。あれじゃ、決闘もそんなにしていませんよ。柊木さん、そんなことも分かんないっすか?」
「へー、知らなかった」
だって、俺のたらいはあくまで呪いだからね。
これで3話はおしまい。
次回は明後日更新です。
どんどん更新頻度が緩やかになりますね。
まぁ、これはあくまで気分転換用の作品ですからね。自由気ままに書きます。
次回、第4話 蟹田さんの美容院(仮)
仮なのは題名を忘れたためです。




