その1 自称胡散臭い男
自由気ままにたらいを落とすことだけを目的に書いているこの話。
そろそろ「オーク」を再開するためにストックを貯めないといけないので、更新はゆったりとしていくつもりです。
今日はいつにも増して学校に行きたくはなかった。
なぜなら、あの桜澤さんがいるからだ。
昨日、ボークレイに襲われた際、彼女はなんと俺があいつを倒したところを見ていたのだ。しかも、その後、逃げられてしまった。
これはまずい。彼女がそんなことを触れ回る性格ではないことは分かっている。だが、彼女がボークレイのような超能力者と名乗る人なら、これほど恐ろしいことはない。
ひょっとすると、彼女もいつか俺を襲いにくるかもしれない。そうなったら、俺はどうすれば良いんだ?
女の子にたらいをぶつけるなんてやりたくないしなぁ。まぁ、クラスメイトだし、命をかけた戦いにはならないか。うん。そう思いたい。
しかし、彼女がボークレイを知っていた理由がまさかそんな理由だとは思わなかった。
もう悲しい! 俺には安寧というものがないのだろうか!
「どうしたんすかー? そんなに暗い顔して」
チャラチャラした男が俺に話しかけてきた。
こいつは早場尋。自称胡散臭い男である。
ちなみに、こいつは二年からの付き合いである。
クラスに友達が一人もいなくても、一月、二月も経てば、クラスの中で話す相手もできる。そんな感じの間柄である。
ただし、早場のことをくれぐれも友達だとかそんな誤解はしないでいただきたい。
ただ、初めての席替えのときに後ろの席がこいつになって以来、ずっと後ろの席で、話しかけられるだけなのだ。
そりゃ、話す関係になるわけだ。しかも、なぜかあいつと話すときに限って、いろいろ喋ってしまうのだ。なぜだろう?
まぁ、そんなことよりも、さて、どう返せば良いだろうか?
「これは友達の友達の話だが……」
「あぁ、柊木さんの話っすね」
「だから、友達の友達だって!」
勘違いされている気がするのだが、──まぁ、いい。話すことにしよう。
「そんなことはいいから続けてくださいよ」
「友達の友達は昨日も超能力者と名乗る変人奇人と遭遇したんだ」
「ご愁傷様です」
「だから、友達の友達の話だよ! あと、勝手に殺すな!」
「そうなんすかー。まぁ、続けてください」
なんか面白くなさそうな返事をしているから続けたくなかったのだが、勝手に口が動いてしまった。
「それで、いつも通りたらいでぶちのめしたわけだが……」
「いつも、たらい、たらいって言っていますが、本当にたらいなんて落ちるんですか?」
「実際に落ちてるんだよ!」
「へー。そうなんすかー。見てみたいですね」
「見せれるものなら、見せたいよ!」
「さて、その後、何があったんですか? このままだといつも通りの話ですよ」
「テロリストを相手に頑張ったんだぞ! それをいつも通りって言うな!」
「いいからいいから話してくださいよ」
このとき、俺は誰かに見られている気がした。そちらを見ると、そこにはあの桜澤さんがいたのだ。
桜澤さんは口パクで俺に何か伝えようとしていた。
え? 喋ったら殺す?
そんなこと言われても……。この恐怖を誰かに伝えないと俺が死にそうになる。
そうだ。場所を変えよう。そうすれば、問題ない。
「ちょっとついてこい。ここでは話づらいことだ」
「そうっすか。なら、どこか人気の少ない場所に行きましょうか。授業が始まるまで時間はたっぷりありますしね」
******
「はぁ? あの桜澤さんが超能力者と名乗る変人で、しかも、ボークレイと友達だ?」
屋上に早場を連れ出して、ありのままを語った瞬間、俺は自称胡散臭い男に呆れられてしまった。
いや、俺の方が呆れたいからね。そもそも、胡散臭いということを自称するとは何だ! 意味が分からないぞ!
「そんなわけないじゃないですか。清廉潔白純粋無垢な桜澤さんがまさか、そのタンクトップのドレッドさんと知り合いだなんて。ひょっとして、ジムのインストラクターと生徒の関係なんでしょうかね? 一応、彼女の体は鍛え込まれているみたいなんで」
「やけに彼女に詳しい気もするんだけど、ひとまず、なぜ先に清廉潔白が入っているのか聞きたいのだが……」
「めっちゃ純粋だって言いたかったんですよ! あなたは言葉警察かなんかですか!」
「そんな職業はこの世にない!」
あったら、とっくの昔に俺も逮捕されているから!
そんな俺を尻目に早場は話を聞いて思ったことを語り始めた。
「まぁ、実際のところ、状況証拠だけですが、桜澤さんは怪しいですよね。普通の人なら、銃撃の音が聞こえたら、真っ先に110ですからね。それなのに、近づくなんてよっぽど肝の玉が座っているのか、柊木さんに興味があるのかなどちらかですよ」
「──先日、彼女から直接、恋愛対象ではないと言われた」
「まぁ、気にされているんだから良いじゃないっすか。クラス一の美少女に気にされているだけでも、十分いいことじゃないっすか」
「そんな観察対象みたいな興味の持たれ方はされたくなかったよ!」
「けれど、柊木さんもいい加減認めても良いんじゃないっすか?」
「何が?」
まさか、俺が実験生物であることを認めろっていうことか? いくらなんでもひどくないか? あんまりじゃないか?
「この世には超能力者がいるんだって」
「だから、そんな非科学的なものがあってたまるか! そんなものはアニメや漫画の世界で十分なんだ! 現実世界に持ち込まれて困るんだ!」
すると、早場は溜息をついた。
いや、溜息をつきたいのはこっちの方だから、なんで超能力者がいることの方が常識なんだよ! 俺には理解ができないよ!
あともじもじするな! なんか気持ち悪い。
すると、早場が口を開いた。
「実は俺も隠していたことがあるんですよ」
「あと二分で授業が始まるから続きは放課後な」
「柊木さんってムードとかそういうの考えない人なんですね」
「先生に怒られたくはないんだよ!」
そもそも、なんで授業をサボってまで秘密を語りたいんだよ!




