その5 柊木君はなぜか強かった
私とボークレイがその場所に着くと、そこは惨状だった。
自爆魔らしき男が倒れていて、あちこちに爆発の跡があった。辺りは血でべっとりしていて生臭く、爆発があったからか熱を感じる。
なのに、柊木君は無傷だった。そして、彼はその場から立ち去ろうとしていた。
すると、ボークレイが彼の前に出た。
「おい! エーイチ!」
「げっ! お前はボークレイじゃないか! いよいよ、俺にGPSでもつけたのか?」
「GPSとはなんだ!」
GPSも知らないなんて……。ボークレイって、そんな頭の弱い奴だったの?
すると、柊木君は疲れたような表情をした。
「まぁ、いいよ。とにかく、お前とは戦いたくないんだ。さっき、テロリストと戦っていて、何とか倒したところでへとへとなんだよ」
「そんなこと言うな! 俺は今、お前と戦えなくて、フラストレーションがピークに達しているんだ!」
ボークレイは続けてこう言った。
「それに、お前がここで無傷で立っていること! それを見て尚更、俺は戦いたくなった!」
「嫌だよ! お前となんて二度と戦いたくないし、そもそも、これで何回目だよ!」
「100回目になるか?」
「これで200回目だよ!」
いや、数勘定ができないなんて少しおかしいんじゃないかしら? いくらなんでも、100と200は間違えないでしょ!
「そうか。ならいい。これまで199戦199敗の俺だが、今回、二週間もお前と戦えなかった俺には秘密兵器がある!」
「おい! 待て! 決闘とか言ってマジで俺を殺す気なのか! さすがに、やめてくれ! 俺も恋人ができるまで死にたくないんだ!」
「真の強者には女など必要ないだろ?」
「生憎、俺は強者じゃないんだよ!」
いまいち、二人の会話が理解できないけど、ボークレイが理不尽なことを言っていることだけはなんとなくわかった。
すると、彼はいきなり小声で何か呟いて上にあった何かを掴んでボークレイの方は放り投げた。
ボークレイは唾を吐いて、それを両手に馴染ませると、見えない何かを両手で受け止めた。
「うっ! いきなり、初見の技だ。これはなんだ?」
「そういや、お前とはほとんど鬼ごっこしかしたことが無かったな。生憎、俺は500回以上もいろんな戦いを経験してきて、勉強しているんだよ!」
「なんだと! 尚更、俺もお前の戦いに付き合いたくなった! 特に去年の夏は凄かったな!」
「俺は二度とあんな経験はしたくないよ!」
「さて、俺の秘密兵器を見せてやろう。それはこれだ!」
彼はジュラルミンケースを開くと、中には機関銃が入っていた。
「なんで機関銃なんだよ! それも、この国で使っていいのかよ!」
「残念だが、これは知り合いにホームセンターにある色んなものをかき集めて作らせたものだ」
「そもそも、ホームセンターの物でそんな物なんて作れるか!」
私もそんな能力者がいるなんて聞いたことがない。もし、そんな能力者がいるのなら危険だ。あとで、隼に調べてもらおう。
「安心しろ。実弾は入っていない。だが、ここにはたっぷりと俺の唾液を充填しておいた」
「ま、まさか!」
考えただけで気持ち悪くなるのだけど、いったい何になるって言うの?
「そうだ。俺の唾液に触れたものは何でも硬くなる」
「そんなのずるいぞ! なんなんだよ! 魔法か何かかよ!」
「だから、超能力者だと言ってるだろ?」
「俺は超能力者じゃないって言ってんだろ!」
「冗談は言わないでくれないか?」
「本当のことだ! おっと! あぶねぇ! ヤバかった!」
いったい何が危なかったのだろう? 彼は何かを避けてから、その見えない何かを掴んで構えている。
「さて、お前にこの攻撃は耐えられるかな?」
ボークレイの機関銃は威力が凄かった。そこら辺に落ちてた缶に当たると、粉々にしていた。
これはいくら彼が強くても……。
あれ? なんか少しずつ前に近づいているのだけど、どういうことなのかしら?
「どうした? さすがのお前もこれには防戦一方か! 俺の思いをちゃんと受け止めろ!」
「どうして武器に頼るんだよ!」
「どうやっても、お前に勝てないからだ!」
「じゃあ、最初から決闘しようなんて言うんじゃねぇ!」
「それなら、これでも喰らえ!」
ボークレイはまた、ジュラルミンケースを取り出してその中から機関銃を取り出した。
「二丁機関銃?!」
「これではお前の不可視攻撃を受け止められないが、攻撃とは本来、最大の防御! これこそがお前対策にとってあったものだ!」
もし鈍いどこかの誰かが通りかかったら、危ないじゃない!
私は彼らの決闘を止めようと思って彼らのいる方は近づこうとした。
しかし、柊木君が声を出したので、立ち止まった。
「そうかよ! じゃあ、これでも喰らえ!」
彼がまた、小声で何かを呟くと、彼はそれをまた掴んで、彼の方に放り投げた。
両手に機関銃を持っていたボークレイはその何かを受け止めることができず、吹き飛んでいった。
「グハー!」
そして、彼は私の目の前で倒れ込んでいた。息はあるようだった。本当に柊木君があのボークレイを倒したんだ。正直、信じられない。
私は柊木君の方を見ると、彼は負かした相手など目もくれず、ボークレイが落とした機関銃を見ていた。
「——少し気になるけど、唾の入ったのはちょっとなぁ……」
彼はボソボソ呟きながら、何か悩んでいた。
何に悩んでいるのか知らないけど、ここは帰った方がいいのかもしれない。
そう思った私は後ずさりしながら、その場から立ち去ろうとした。
すると、突然、彼は私の方に向いた。
「あれ? ひょっとして、桜澤さん?」
目が合ってしまった。
まずい。もし、彼に私も超能力者だとバレたら、ボークレイのように倒されてしまう。
私は怖くなって路地裏から逃げ出した。
「ちょっと待って!」
私は彼の呼び止める声を無視してなんとか逃げ切ることができた。




