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嘘をついたら、たらいが降ってくる  作者: 半空白
第1話 嘘をついたらたらいが落ちてくる男
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その1 柊木栄一は嘘をつくことができない

自分の憂鬱な気分を紛らせるために書いてみました。

この先、続く保証は微塵もありませんが、ストックは十部分くらいあるので、しばらく毎日更新します。

 

 俺こと、柊木栄一は嘘をつくことができない。


 別に生涯決して嘘をつかない、と美しい女神様に誓ったわけでもない。


 だからと言って、嘘をつくと少年漫画の主人公にありきたりな変な顔になってしまうというおかしな理由で嘘をつきたくなくなったわけでもなんでもない。自分で言うのもなんだが、ポーカーフェイスは得意な方である。


 実は俺が嘘をつくと、俺の頭の上にたらいが落ちてくる。だから、俺は嘘をつけないのだ。


 なんかおかしなこと言っているかも知れないが、それは正真正銘、紛いようもない真実だ。


 それは高校一年の桜が舞い散る春の陽だまりが心地よい日。


 それなりに気の知れた友達ができた俺は友人たちと談笑をしていた。


 そのとき、たしか俺は中学生の時に彼女がいたのか、いなかったのかという言ってしまえば、正直どうでもいい話になったのだ。


 恋バナが好きな人には大変申し訳がないが、俺にはこの手の話は毛頭興味がない。特に好きな人もいないし、心が狂おしいほど誰か特定の人のことを好きになった覚えもない。


 だが、このときは何故か見栄を張った俺は「彼女がいる!」と言ってしまったのだ。


 その瞬間、俺の頭上にたらいが落ちたのだ。


 そう。たらいが。


 しかも、何故かピンク色に塗装された金属製のたらいが落ちてきた。


 そのときの頭の痛みはなんとまぁ、色んな意味でひどいものだった。


 勿論、頭は痛くなった。ただ、痛くなったのはそこだけではなかった。心だ。


 何しろ、冗談めいた感じで「彼女がいる!」と言った瞬間、突然頭を抱えて痛がるのだから、友達には心配された。至極当然のことだ。


 俺はたらいが落ちたのだ、と正直に言った。


 だが、友人たちは「そんなものここにはない」と言うのだ。


 そんなわけがないと思った俺は辺りを見回したが、どこにもたらいはなかった。


 そのときは幻覚か? と思ってはぐらかしたが、頭の痛みは消えることがなかった。


 結局、頭の痛みは一日中収まらなかった。


 それから一週間くらい後、俺は好きな女性芸能人についての話になった。


 その頃にはあのとき落ちてきたたらいのことも一種の幻覚みたいなものだろうと割り切っていた。


 高校生になってからテレビを見なくなったものだから、最近の女性芸能人なんて知らなかった。だから、友達の誰か一人が好きな女性芸能人を言っておけば良いなと思ったのだ。


 そのときは自分の頭の上にたらいが落ちるということなど頭の中になかった。


 結果、俺の頭の上にたらいが落ちてきた。


 一回目の時も十分痛かったのだが、今回は不意打ちというか、まったく予想だにしなかったため、こんな目にあうとは思わなかった。


 俺は咄嗟に辺りを見回して、俺の頭に当たったたらいを見つけた。


 そこには「嘘をつくのはやめましょう」と書かれていた。


 なぜなんだ!


 なぜ嘘をついたら、俺の頭にだけたらいが落ちてくるんだ!


 嘘をついているやつなんてこの世に山ほどいるじゃないか! ごく普通の高校生でしかない俺ではなく、平気で悪い嘘をつくような奴らを呪えばいいのに、どうして俺の頭の上なんだ!


 まぁ、そんな心の葛藤もあったとかなかったか。


 そんなわけで俺はあれっきり嘘をつけない男になったのだ。


 別に嘘をつけないわけではない。我慢すれば、この痛みも堪えられる。ただ、その後一日中ずっと頭がずきずきするのは辛い。いい加減、誰か俺の頭の上を守ってほしいくらいだ。


 それくらい俺は嘘をつきたいんだ。


 さっきから、嘘をつきたいと述べているが、勿論、嘘をつくことは良くないことだ。


 だが、お世辞とか、あんまり好きじゃない音楽も友達が勧めてくるもんだから好きだっていうと、なぜか俺の頭の上にだけたらいが落ちてくるのだ。 


 たまに「嘘はこんりん際やめましょう」って汚い字で書かれているたらいが落ちてくることもある。それを見ると、なんだか無性に腹が立ってくる。


「や」とか逆さまになっていたし、金とかは書けないのに、なんで際は書けんだよ! いったいどこのどいつが俺の頭にたらいを落としているんだ?


 もう、こんな人生は嫌だ! 俺はもっと嘘がつきたいんだー!


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