スポーツ部③
いやぁ、長く書きましたねー。
久しぶりにこんな量を書きました。
楽しんでいただければ幸いです。
3
保健室に行くと、扉の前に青澤がいた。
「入って」
それだけ言うとすぐに保健室のなかに入っていってしまう。
機嫌悪いなぁ···。
それでもここまで来てしまったので入らない訳にはいかない。俺は意を決すると保健室の扉を開いた。
部屋の奥にあるソファから青澤が手招きしてきた。
俺は素直にそこへ向かった。
「そこに座って。二メートル以上間隔を空けてね」
可愛くねぇ···。二メートルって結構広いよ? すごく話しにくいと思うんですが。
まぁ、俺はいうことを聞いて少し遠くに座った。べ、別にリア充女子が怖いとかじゃないんだからね!
俺が座ったのを確認すると、青澤は話し出した。
「じゃ、教えてもらおうかな。あの手紙の場所を移した理由を」
口調は優しいのに、声にドスが効いているせいか全く柔らかく聞こえない。
目からハイライトは消えているし、可愛い顔だから余計に怒ると怖い。
ここで「俺はやってない」とか言っても聞き入れてくれないんだろうなぁ···。どんな言い訳が最適かな······。
「ま、俺みたいな糞陰キャの所に間違えていれちゃったんだから、少しぐらい感謝してくれてもいいんじゃないか? 俺の所に入りっぱなしになってたら変な噂が流れるかも知れないし」
こんな風に言ってみた。流石に罠を疑いましたと本人の前では言えん。
すると、青澤は悲しさ半分困惑半分といった顔をした。
「な、なんで? 普通ああいうのって見たら喜ばない? しかも白川君みたいに女の子の顔してたら誰も噂なんて流さないよ···」
「俺は喜ばないの。今までそういう類いのイタズラとかいじめとか受けてきたからな。あと、俺が女みたいな顔してるのと噂が流されないの、なんの関係があるんだ?」
恥ずかしいことに俺は、青澤や自分が言ったとおり女の子な顔をしている。男に告られたことだってあるし、ナンパだってされたことある。そんな弱々しい顔が原因でいじめられてきたのだ。
脛毛や髭の半分でも生えてくれたらいいのだが、俺の体は中3になっても一切そんなものを生やさなかった。
本当ならこれは羨ましがられるところなのだろうが、俺の場合それがもっと女らしさを増幅して、無駄な個性を助長していた。
だから少しでも男に見せるために、一人称は「俺」だし、私服も暗めの色のものを着るようにしている。それでもナンパは止まらないが。
だから、「女みたいな顔して」という言葉が俺は嫌いだった。今だって、そのせいで口調がきつくなってしまったかもしれない。
それでも青澤は変わらず言い返してくる。
「だって白川君が男なのは学校の皆知ってるし、私が何かしても男と女としてしか見られないよ!」
「いやだから、俺が言ってるのは俺みたいな奴とつるんでたらお前の評価が下がるだろってこと」
俺の言葉を聞いて、青澤は一瞬驚いた顔をした。それから「あってるよね?」といった顔で俺に問うてくる。
「え、白川君と話すと、内申下がるの? 私それはやだなぁ···行きたい高校あるし······」
「ちげぇよ。評価ってのはお前がいつもつるんでるリア充グループからのってこと! あいつあんなオタクと話してるーきもっみたいにならねぇの?」
こいつは本当はアホの子なのでは。こういう可愛くて人当たりがいいやつはえてして計算ずくなところがある。男なんて所詮道具、と思っていてもおかしくない。なのにこいつは「評価」の意味を取り違えた。
意外とそんなものを考えずに生きているのだろうか。だとしたらそれはすごいことだ。
意識せずに友人と関係をキープし続ける。それがどれだけ大変かは友人のいない俺にはわからないが、相当難しいと思う。
「ならないよ! ていうか、なんで白川君はそんなに自己評価が低いの? 女の子たちの間じゃ···やっぱり何でもない」
うーん、リア充だから情報は沢山持っているようだ。しかも情報の出し入れを知っている。こいつはあながちアホではないのかもしれない。
でも、あの言葉の後がすごい気になる。女の子になんて思われてんの? 最低最悪の、アルティメットゴミ虫とか思われてるんだろうか。泣きたい。
「ま、もうお前の用は済んだろ。俺、寝ていい?」
「ダメに決まってるでしょ! 私は他に用があるの!」
えー、あるの? めんどくさ。まぁ聞くだけ聞いてみよう。
「白川君ってさ、部活には入ってるの?」
「小学校の頃はスポーツしてたけど、色々あってやる気なくして、今は帰宅部です」
そう、俺は小学校の頃はバリバリにスポーツをしていた。まぁ、容姿のことや、なまじなんでもできたせいで、部活でもいじめられた。最後の大会が終わったあと、スポーツなんてやるかと心に決めたのだ。
「何で敬語? てか、もしかしてあれでやる気なくしたのかな···」
何で敬語? の後が聞こえないんだけど。はっきり言ってよはっきり!
「それで、白川君はまだそれできる?」
うーん、どうだろう。少しくらいトレーニングはしていたが、技術は身に付けようがないからなぁ。
「ま、出来ると思うよ」
すると、青澤の顔が綻んだ。やべっ、一瞬見とれちまった。
「よかった! じゃあ、お願いするね! 白川君─────」
青澤は一瞬タメを作った。なに言われんだろう。野球部の人数合わせになってくれ、とかかな?
「スポーツ部に、入ってください!」
······え? スポーツ部? そんな部活、聞いたことがない。野球やサッカー等、それらをひっくるめてって意味か?
「スポーツ部って、なに」
そういうと、青澤は待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。
「スポーツ部ってのはね! 色々な部活やスポーツ団体のサポートをする部活だよ! 色々な有名団体とも協力してるんだ!」
それはわかった。でも、わからないことがある。
「でもじゃあ、何でそんなにすごい部活なのに周知されてないんだ?」
そう聞くと、青澤は少し迷ったような仕草をした。そして少し考えると、俺に真意を告げてきた。
「これ実は、お給料が出るの。お礼って意味で、サポートした団体から。だから、本当にそのスポーツを分かってる人じゃないとダメなんだ。あんまり沢山誘っちゃうと人数が増えすぎちゃうの」
マジか。給料出んの? もはやそれは仕事だ。てことは出来映えや結果を求められるのか。正直やる気おきねぇ···。
「えーと、俺はぁ···ウーン」
やっぱり迷う。給料はほしいが、俺には対人スキルが無さすぎるし。
俺がウダウダと迷っていると、隣からこりゃまたさっきのようなドスのきいた声が聞こえてくる。
「私の手紙、勝手に違う場所に入れちゃったのは、誰かなぁー?」
ひ、ひぃ! こわっ。
「ま、まぁ、俺も男だ。承ってやろう」
あーあ。言ってしまった。べ、別にリア充女子が怖いとかじゃないんだからね!
さっきと思ってる事が同じ気がするが、気のせいだろう。······気のせいであってほしい。
が、そんな俺の心境とは裏腹に、青澤はニッコニコしていた。
「わぁい! ありがとう! これからもよろしくね!」
ニッコニコどころか、大はしゃぎだった。何がそんなに嬉しいやら。あ、社畜が増えたとか思ってんのか? 怖いよぅ···。
「おう、よろしく」
結局なんの真相も知らないまま、「スポーツ部」の部員になってしまった。
これから俺、どうなっちゃうの?
最後までお読みいただきありがとうございました!
これからも、よろしくお願いします!