第7話 昼休み
「は~る~くん! お昼ご飯一緒に食べよ?」
「おう、いいぞ」
平凡な歴史の授業が終わり、碧は一目散に春菊の机へと駆け寄る。
時はすでに十二時を超えており、春菊も碧も共に腹をすかせていた。
「今日はどこで食べよっか?」
「うーん、俺はどこでもいいぞ?」
「あー! 春くん真剣にどこで食べるか考えてないでしょー?」
「な!? そ、そんなことは……ないぞ? うん、大丈夫だ」
「何が大丈夫なの……」
「い、いやぁ~あははは……」
と、いつものように談笑していると……
「お? 今日も仲いいね~お二人さん!」
と、ひょんなとこからやや男特有の低い声が春菊と碧の耳に伝わった。
「うん? ああ、なんだ、浩司か」
「浩司くん、どうかしたの?」
近藤浩司、春菊と碧と同じクラスの男。
眼鏡をかけていて、全体的にいもくさいのが特徴。
「今日も相変わらずラブラブだな~お二人さん!」
「ら、ラブラブ?! そ、そんな風に見えるの……かな?」
「ああ! そりゃあもうカップル通り越して夫婦に見えるまであるぞ!」
「ほ、本当!? わ、私と春くんが夫婦って……は、はわわわ!」
碧は浩司の言われたことを思い返すと、顔を赤く染めてはわわと呟きながら混乱してしまった。
その一方春菊は、ブスッと顔をしかめながら浩司に訊いた。
「浩司、お前また碧がこんなんになるの面白がってただろ」
「あ、バレた? いや~諏訪森さんはおもしろいからね~」
「碧? 碧もそろそろ正気に戻れー」
未だはわわと呟いている碧を、春菊は肩を揺さぶってみせた。
「はうっ!? あ、あれ? 私……」
「大丈夫だ……とにかく何も起こっていない」
「そ、そっか……なんかごめんね?」
「碧が謝ることは何もしてないだろ?」
「う、うん……ありがと、春ちゃん」
「おう」
そんな光景を見て、浩司はふと苦笑を浮かべた。
「いや~やっぱり普通に夫婦にしか見えないな……」
浩司は、今度は碧に聞こえないように、そっと静かに呟いたのであった。
「結局またここに来ちゃったね」
「だな」
春菊と碧が今来ている場所は、校舎裏。
この時間は誰もここを通らず、尚且つ天気がいい日は日差しがさして気持ちがいいので、
春菊たちはここを”穴場”と呼んでよくここで昼食を食べている。
「ま、まったく浩司くんには困っちゃうよね、本当……」
「ああ、全くだ」
「わ、私たちが……夫婦、だなんて……」
再び少しだけ顔を赤らめながら言うと、春菊は真剣な顔で答えた。
「まあ……見えないこともないんじゃないか?」
その言葉を聞いた瞬間、碧は心臓が跳ね上がるような感覚に襲われた。
「は、春くん!?」
碧の顔はあっという間に真っ赤になり、心臓は先ほどからドクンドクンと
不規則に鼓動が速くなっていった。
「ん? どうしたんだ? そんな顔真っ赤にして?」
「ま、まま真っ赤にもなるよ!」
「ま、まさか……碧、熱でもあるのか?」
「違うよ! 春くんがさっき恥ずかしいこと言ったからでしょ!」
「恥ずかしいこと……?」
「ほ、ほら……夫婦に見えないことないんじゃないか……って……」
碧はそう言うと、再び耳まで顔を真っ赤にさせた。
「ん? あ、ああ……」
しかし、一方で春菊はまた違うことを頭の中で思い描いていた。
「(確かに浩司から見たら、俺と碧は幼馴染だし、付き合いの長さからしたら、
夫婦に思われてもおかしくないよな。
それに結構仲もいい方だし、俺が浩司と立場が逆だったら同じこと考えてたと思うし……)」
だが、碧はそんなことを考えて発言したとは全く知る由もなかった。
「ね、ねぇ……春くん?」
「うん? なんだ?」
「そ、そろそろ……お弁当、食べない?」
「ああ、そうだな。俺もお腹ペコペコだ」
「そ、それでね……春くん」
「ん? なんだ?」
春菊がお弁当箱の蓋を開けたところで、碧は春菊に尋ねる。
「そ、そのね? 春くんが、その気なんだなってわかったから……
やっぱり、今からそう言うこと……やっとかないといけないと思うんだ」
「ん?」
「だ、だからね…………」
そう言い切ると、碧は震えた箸で自分の弁当から卵焼きを丁寧に持ち上げると、
そのまま春菊の口の方に持って行った。
「は、はい! あ~~ん……」
「な、な!?」
碧の行動に、春菊は思わず目を見開く。
「み、碧?!」
「だ、だって! 夫婦になったら……こういうことは、日常茶飯事でしょ?」
「へ? 夫婦?」
「え? だって春くん、今さっき夫婦に見えなくもないって……」
そして、春菊はお互いの勘違いに気づいてしまった。
「わ、悪い……碧、俺が言いたかったのは、そういうことじゃないんだ……」
「え?」
しかし、春菊はふと、碧の顔を見つめる。
純粋で無垢で、この年になっても穢れていない、まるで天使のような存在。
そんな彼女を、こんな形で下手すれば傷つけていいのだろうか……?
春菊には……そんなことはできなかった。
「な、なんでもないぞ」
「そ、そっか……じゃ、じゃあ……は、はいあ~~ん」
「うぅ……あ~~ん……」
「お、おいしい……かな?」
「……おいしいよ……本当……」
「春くん……そんな泣くほどおいしいなんて……私嬉しい!」
美味しさで泣いた……というのも交じっているのであろうが、
春菊には、他の想いが交借していた。
「(俺……よく碧の笑顔を守ったぞ……俺……よくやった……)」
そうして、その日、碧はそれからずっと春菊にベッタリだったのであった。
浩司は特に重要キャラじゃないので忘れてもらって結構です!
たま~に出てもらうって感じですかね……
あと、碧かわいい!