第5話 春菊のベッド
「じゃあ、行ってくるね~柚乃ちゃん?」
「はい、行ってらっしゃい。お姉さん」
「は~~い!」
バタン、と玄関のドアが閉められ、柚乃はとりあえず一息つく。
今、この家の中には柚乃以外一人もいない。
花ヶ丘家の両親は共働きでいつも朝早く、夜も遅いため不在。
そして春菊と碧と菊乃は学校の行ったためいないので、
この家には柚乃だけが取り残されていた。
柚乃も学校はあるのだが、まだ中学生のため登校時間も春菊たちより遅く、
まだまだ登校するには時間があるので、柚乃はひとまず二階へと上がった。
「……失礼しま~す……」
恐る恐るといった感じで部屋のドアを開けた柚乃は、
若干ではあるが頬を全体的に紅く紅潮させていた。
体をもじもじさせていて、動きにも多少のぎこちなさが見えた。
まあ、無理もない。
何せ、この部屋は柚乃の部屋ではなく、春菊の部屋なのだから。
「……お兄ちゃんの……お部屋……」
柚乃はそう呟くと、一回ぐるっと部屋を見回した。
「……うん、女物は特にないみたい……」
まるで付き合っている彼女のようなことを言うと、柚乃は真っすぐベッドの方へと向かう。
「おにぃ……ちゃぁん……」
ベッドに向かう一歩一歩のたびに、柚乃の顔はどんどん緩み始めたのだが、
次の一歩がベッド、というところで柚乃の顔は完全に緩み切っていた。
「もう……我慢……できませぇん……」
そして、そう甘~く呟いた直後、柚乃は体をすとんとベッドへと放り投げた。
柚乃の鼻腔に、春菊の匂いが全方向から襲い掛かる。
しかしそれは決して辛いものではなく、逆に柚乃を快楽へと引きずり込む。
「はぁぅ……こ、これ……しゅごい……」
呂律も怪しくなってきた柚乃は、枕を抱きかかえながらすんすんと匂いを確かめる。
自分の大好きなお兄ちゃんの大好きな匂いに、柚乃は次第に体をくねくねさせる。
「ふ、ふだん……は……こんな……積極的に……なれないし……
本当はこんな……いやらしい子だって……思われたく……ない……からぁ」
若干涙目になりながらも、柚乃はまるで春菊に聞いてもらうように言葉を漏らす。
制服に着替えていたのでシャツはよれよれで、ボタンも上の方は取れかかっている。
しかし、それでも柚乃は匂いを嗅いでは、はぁはぁと吐息を漏らす。
「おにぃ……ちゃん……おにぃ……ちゃん……!」
涙目で枕の匂いを嗅ぎながら必死に春菊のことを呼び掛ける柚乃の姿は、
中学生ながらも、非常に艶っぽく、色っぽく、そして淫靡であった。
「はぁ……はぁ……はう……おにい……ちゃん!」
数分後、柚乃はようやく枕をそっとベッドに置くと、よろよろとおぼつかない足取りで
立ち上がった。
目はとろんと垂れ下がり、シャツはしわが多く残っており、
顔は部屋に入ってきた時よりもはるかに赤みを増していた。
「おにぃちゃん……すごすぎです……」
特に春菊が何をやったのかは不明なのだが、とりあえず春菊はすごいのだろう。
「さすがに毎日するのは体がもちませんね……三日に一日ぐらいでしょうか……?
でも、それだと今日から後三日も待たないといけないのですか……
それもそれで体がもたないのでは……?」
ぶつぶつとそんな心配事をしながら、柚乃はふと部屋にあった時計に目を向ける。
「はぁ! もうこんな時間! 急いで着替えないと……!」
柚乃が快楽に浸っている間、時間は刻一刻と過ぎていき、
もうそろそろ家を出る時間にまで過ぎていた。
「……あ」
柚乃が部屋のドアを閉めかけようとした時、彼女はふと閉めかけていたドアを止めた。
そしてちょこっとだけ顔を覗かせると、再び頬を紅くさせてからこう呟いた。
「また今度も……よろしくお願いしますね?」
そう言って、春菊の部屋のドアはパタンと閉められ、大きな静寂が部屋に渡った。
その日、春菊が学校から帰って来て自分の枕や毛布などが
大きく乱れ散っていたことに大きな恐怖感を覚えたのは、まだ知る由もない。
何か書き終わってから謎の罪悪感に包まれました。
本当にすみません。




