第4話 登校
碧は純粋な心の持ち主です!
「そろそろ行くか? 碧」
「うん、そうだね!」
春菊は学校の制服を身に纏って鞄を肩にかけると、そのまま碧と玄関へと向かった。
「もう~行っちゃうのぉ? 春ちゃん?」
「だいたいいつもの時間とあまり変わらないと思うんですけど……」
「だってぇ~春ちゃんと一緒の学校なら学校の中でも会えるけど、
一緒の学校じゃないから一日の大半が春ちゃんに会えないんだも~ん!」
「知りませんそんなことっ!」
そう。菊乃の言う通り、菊乃と春菊は違う学校に通っている。
柚乃は中学生なので同じ学校ではなく、碧は春菊と同じ学校だ。
「と、とにかく! 俺たちはもう行きますから!」
「えぇ~待ってぇ待ってぇ~! 私も一緒に行く!」
「前に菊姉さんと言ったら碧と一緒に遅刻したって言ったじゃないですか!」
「今度はもっと早く歩くようにするからぁ~!」
「ダメです、菊姉さんは柚乃と一緒に登校してください」
「えぇ~ん、春ちゃんのいじわるぅ~~!」
「なんとでも言ってください、じゃあそろそろ行くから、じゃあ!」
「行ってきます、菊乃さん!」
そうして玄関のドアが勢いよく閉められ、
菊乃はガクッと腰を落としてうぇーん、うぇーんと泣き声を上げるのであった。
「もう、ホント春くんはあのお姉さんに弱いよね?」
「そんなことないだろう? 至って普通のきょうだいだ」
「あれが至って普通のきょうだいがすることかね~?」
学校の登校中、春菊と話しながら碧は今朝起きたことを頭の中で再生した。
……うん、いくらなんでも度が過ぎてるね!
という結論に陥った碧は、そっと春菊の制服の裾を掴んだ。
「ん? どうしたんだ?」
「春くん、あの姉妹が来てから本当にモテはじめたよね」
「モテはじめたって……別に俺は……」
「いいよ。春くんが言おうとしてることぐらい、大体察しつくもん」
碧にそう言われ、うぅっと声を漏らすと、碧はさらに掴んでいた力を強くする。
「けど……さ、私のことも……忘れないでいて、欲しいな?」
「えっ……?」
碧は少し背伸びをして上目遣いで言うと、そのまま手を裾から春菊の手に移し替えた。
「み、碧!? いくらなんでもこれは恥ずかしいだろっ!?///」
「は、恥ずかしいよ? で、でも……」
そう言うと、碧は握る手の力を一層強めて言った。
「春くんは……私の……私の将来の……夫さんだから……」
「え? 春くんはなんだって?」
「……なんでもない。春くんはこういう人だもんね」
「そんなため息交じりに言わないでくれ、悲しくなる……」
それを聞いて、碧はふふっと笑うと、そのまま春菊の手を引いた。
「って! 碧、本当に手繋ぎながら登校するのか?///」
「う、うん……け、けど! ちゃんと学校の人とかが見えてきたら離すから!///」
「そ、そうか……じゃ、じゃあ本当に、少しの間……な」
「うん……」
そうして、お互い顔を真っ赤にさせながら春菊と碧は共に歩き始めた。
碧が上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、私だって負けないもんっと、
偶然聞こえてしまった春菊は、さらに顔を赤く染めるのであった。