第2話 朝ご飯
菊姉さんはこれからどんどんお色気を使っていきたいと思います!!
「ふぅ~やっと朝ごはんか……」
二階にある自分の部屋からリビングへと降りてきた春菊は
ぐっと肩を下ろしながら疲労感たっぷりにそう呟いた。
起きてから早々のひと騒ぎだったので、春菊は早くも疲れが溜まっていた。
「あ、春くん! おはよう!」
「ん? ああ、おはよう、碧」
春菊がリビングに入ってくると、中には席に礼儀正しく座っていた可憐な少女がいた。
諏訪森碧。
この家の隣に住んでいる隣人で、春菊の幼馴染だ。
碧は昔から朝はいつも春菊の家で過ごすため、春菊たちに特に違和感はなかった。
「じゃあ~そろそろ食べよっか~?」
そしてちょうど菊乃がリビングに入って来て、その一声で皆食卓の周りに座る。
「ではっ! いただきます!」
「「「いただきまーす!」」」
そうして、花ヶ丘家の朝ごはんが始まった。
「は~るちゃんっ!」
「うおっ!? なんだよ菊姉さん!」
菊乃は春菊の顔の目の前に立つと、そのまま具がのったスプーンを春菊の前に差し出した。
「はい、あ~ん!」
「「「ぶーーーーっ!」」」
菊乃の一言で、春菊に加えて柚乃と碧も思わず吹き出してしまった。
「な、なに言ってるんですか菊姉さん!」
「ふぇ? なに、って、春ちゃんにあ~んしたいな~と思ったからぁ~」
「だからそう言うのはやめようって俺毎回言ってますよね!?」
「えぇ~? だってぇ~、あ~んするときの春ちゃん、顔真っ赤でかわいいんだもんっ!」
「か、かわいいってっ!///」
「あ~? 春ちゃん照れてる~! かわいいな~春ちゃんは!」
そう言うと、菊乃は自分の席に座るとおもむろに春菊の頭を自分の太ももに持ってきて、
そのまま春菊の髪をわしゃわしゃと優しく撫でまわした。
「ちょ、お姉さん! それじゃあお兄ちゃんがご飯食べられないでしょう!?」
「菊乃さん! 春くんを離してくださいっ!///」
柚乃と碧が必死に菊乃に諫めている間、太ももの上にいる春菊はというと……
「(ヤ、ヤバいっ! 菊姉さんの生太もも気持ちいい……じゃなくて!
しかも俺の目の前に菊姉さんの育ちすぎた胸が……!
というか妹と幼馴染にこんな状況見られるとかどんな公開処刑だよ!
とりあえず今は菊姉さんの太ももを堪能……じゃなく! この状況をどうにかしないと……)」
と、一人この状況に必死に葛藤していた。
「う~ん、仕方ないな~、そこまで言うんだもん。春ちゃん、ごめんね?」
柚乃と碧に散々諫められ、菊乃はとてもとても名残惜しそうに涙目で春菊を離した。
「涙目で言われても……別に、嫌ってわけじゃなかったし……」
ボソッと誰にも聞かれないように呟いたはずの春菊だったが、
地獄耳の菊乃にはバッチリと聞こえてしまった。
「春ちゃん! 私、いつでも春ちゃんのこと、待ってるからねっ!」
「自分からは絶対に行きませんから!」
菊乃は太ももをぱんぱんと手で叩きながら嬉しそうに微笑んだ。
「もう……これだからお兄ちゃんは……」
「春くぅん……」
その傍ら、柚乃たちは悔しそうに春菊と菊乃を睨む。
「ほら、とっとと朝ごはん食べて学校行くぞ?」
春菊は気を取り直すようにそう言うと、茶碗に盛られたご飯を頬張った。
菊乃たちもそれに同調して食べ始めるが、ただ一人だけ、密かに口角を上げた。
「あっ! 春ちゃん!」
「ん? 何ですか? もうあ~んはやめてくださいね、しないので」
「違うよぉ…………えいっ!」
チュッ
生温かい感触が、春菊の右頬に広がる。
「き、菊姉さん!?///」
「お、お姉さん!///」
「菊乃さん!///」
それを受けて、春菊たちは一同に顔を真っ赤にさせながら菊乃の方を伺う。
菊乃も、少し頬を紅潮させながら、両手を手で覆いかぶせながら言った。
「ほらっ! 春ちゃんの頬に米粒があったから取ってあげたの!」
それに、と菊乃はさらに続ける。
「春ちゃんは私の春ちゃんだよっていう宣戦布告だもんっ!」
と、爆弾発言を落としたところで、当然柚乃と碧は体を小刻みに震わせ、
春菊は未だ残る右頬の感触に気を奪われていた。
だが、その春菊の気は、いとも簡単にまたさっきと同じものに奪われた。
チュッ
今度は春菊の口元近くに、さっきよりも長く熱い口付けがされた。
「き、菊ねえさ……!」
菊姉さんっ! というところで、菊乃は人差し指を春菊の唇に当てた。
そして、春菊の耳元まで近づくと、小さな声で囁いた。
「柚乃ちゃんと碧ちゃんには見られてないから、これは春ちゃんと私の秘密だよっ?」
そう囁かれ、春菊は柚乃たちの方へ目を向けると、確かに二人はお互い
顔を真っ赤にさせながらぶつぶつ小言を呟き上の空を向いていた。
「だ・か・ら! 春ちゃん、もう一回、私に春ちゃんの感触……ちょうだい?」
そうして、菊乃はまた春菊の頬にチュッと口づけをした。
この口づけがかすかにお互いの唇に触れてしまったのは、二人にしか分からない
”秘密”だった。