3 灰色猫のクリストファー
琴音さんが壊してくれた物語、ありがたく壊させていただきます。 灰色猫のクリストファー
「さて、僕は僕で別の用事があるから失礼するよ。何かわからないことがあったら生徒会室の人に聞けばわかると思うから。じゃ、頼んだよ」
「はい」
鈴木先生はトレードマークでもある眼鏡を直しながら立ち去った。
「さてと、とっとと終わらせて本借りに行くか」
そんなこんなで生徒会室。コンコンとノックする。「どうぞ」の声を聞き、「失礼します」と言ってからドアノブを回し、入室する。
部屋に入ると、まず初老の男性教諭が声をかけてきた。名前は知らない。
「ええと……君が相原 充君でいいかね?」
「はい。そうです」
「そうかそうか……ええと、そうだ荷物を取りに来たんだったね。そこにおいてある段ボールだ。持っていくといい」
「ありがとうございます」
礼を言い、両腕で抱えるぐらいの大きさの段ボールを持ち上げる。
――重い。とんでもなく重い。何だこれ!? 本じゃないのか?
まあ、何とか運べそうだ。ただ、慎重に運ばなければうっかり取り落としてしまいそうだ。
(まあ、何とかなるさ。)
そう思い、生徒会室を後にする。
どうせ図書室まではそんな距離はない。一気に歩いて行ってしまおう。くれぐれも、転ばないように。
……そう、転ばないように。
ドシャァァァアアッ!
転びました。見事に。
「痛ってぇ……あ、荷物は!?」
段ボールが破れ、中身が床に散乱していました。何てことだ。急いで中身を戻さなくては。
「ん? これは?」
段ボールの中身は例によって本だった。しかし、その中に他のものとは違った異質な雰囲気を持つものがあった。
気になったのでその本を手に取ってみる。
大きさはティッシュ箱を二つ並べたぐらいで、厚さは一般的なライトノベルを三冊重ねたぐらい。
暗い赤色の表紙に金の装飾が施された、いかにも魔術書然とした本だ。タイトルなどの表記は見当たらない。
とっとと届けに行くべきなのだろうが、いかんせん好奇心が強かった。俺はその本を開く。
「白紙?」
その本には何も書かれていなかった。文字通り、白紙の束だ。
「何だこりゃ」
俺が興味を失い、それを箱に戻そうとした時のことだった。
不意に、声が響いた。
――『ペンを取れ』
「!?」
どこからともなく聞こえた声。それは脳内に直接響いたかのような感覚を引き起こす。
慌てて周囲を見回す。誰もいない。
しかし、決定的に違うことがあった。
延々と、廊下が続いている。
先ほどまで図書室の扉が目の前にあった。それが今はなくなり、ただただ一直線の廊下が広がっている。
明らかに異常事態だった。
――『ペンを取れ』
再び声が響く。
(何なんだよ!? どうなってる!? ここはどこだ!? ペンって何だよ!?)
いくつもの疑問が次々と生まれる。
――『ペンを取れ! 早く!』
「は、はいぃっ!」
俺はいつの間にかその声に従っていた。
俺を満たしているのは未知への恐怖なのだと思う。
(ペン……? ペンって何だ? どこにあるんだ?)
――『箱の中だ』
言われるがままに、段ボール箱を漁る。
その中に、万年筆の箱のようなものを発見。
「あ、あった!」
入っていたのは予想通りというべきか、万年筆だ。シンプルなデザインの黒塗りで、特に変わったところは見受けられない。
再び、声が響く。
――『復唱せよ、”我が力は天の導き”』
「わ、我が力は天の導き」
そう言うと、手に持っていたペンが宙に浮き、先ほどの本が開かれる。驚く暇もなく、ペンはひとりでに空白のページに見たこともない文字を書き込んでいく。
――『”行き着くは狂乱の大地”』
……こうなったら最後までやってやる!
「行き着くは狂乱の大地!」
――『”記憶せよ、其の名は”』
「記憶せよ、其の名は!」
――『”フラム=フランム”!』
「フラム=フランム!」
突如、本が激しく発光した。同時に、世界が明滅する。
「う、うわあああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」
世界とは何か、そう、問いかけた―――
……どのぐらい経っただろうか。
俺の意識は、完全な闇の中にあった。
やがてその闇の中に、一筋の光が差し込む。
目覚めよと呼ぶ声を聞いた。あるいはそんな錯覚をした。
俺は、その闇から引きずり出される―――
「お目覚めですか、相原充……いや、フラム=フランム」
声の主は俺を見下ろしていた。
「お前は!? 夢で会った……」
「ああ、この世界で神をやらせてもらっている。ところで意外だね、君の方からこっちに来るなんて」
「はあ!? こっちって……」
辺りを見回す。見渡す限りの草原だ。
「ど、どうなってんだ……?」
「君はその本とペンを使って、自分の意志でここに来たんだろう?」
彼が指さした先には確かに本とペンがある。
開いてみると、最初の見開きには解読不能な文字列が記されていた。
「ふむ、訳ありのようだね……」
彼は「ふむ……」と少し考え込むそぶりを見せてから口を開く。
「まず、基本的なことから話そうか。この世界で生き残りたいなら、4つの名前、炎の『フラム=フランム』、地の『ソル=テーレ』、水の『ヴァッサー=ロー』、そして風の『ヴェント=ウェントス』を手に入れてくれ」
こんにちは。 灰色猫のクリストファーです。
さて、今回は琴音さんがお望みのように、ファンタジックにしました。
(え、本人そんなこと言ってない? 気にしない気にしない)
ファンタジックじゃなくてただの厨二病、ですか?
おっしゃる通りでしょう。
まあ、正直ここで色々と言いたいところではありますが、気がついいたらルールを破ってたなんてことがあるとまずいのでこの辺にしておきます。
今回も楽しく暴走させていただきました!
次回の琴音さんのターンに期待です!