第6話
第6話
地紙を敷き詰めたように継目なく整備されている石の道から、少女が目にした光景は、平原風景、皐月晴れ、遠目に丘と館。
そうした閑地の見晴らしのなか、足元に段差や踊り場が、間断なく増した。そして峠からも下り道、柱廊は緩く斜に続いていた。
そのときのフレーレは、そんな足元を気にした様子も見せず、つんのめる風でもなく、まばたきもはさみ、ぼんやりした官者とともに景色を眺めつつとんとん足を前へ運ぶ。
少し前より、幾らか湿度を増した風を受けて、少女は、マフラーに鼻先を押し付けて訥々とやり過ごす。官者は、首に巻いたスカーフをきゅっと締め直すついで、頬に手袋をあて暖をとる。
そうして二人はしばらくかかって、早緑のなかの緩勾配を下り終える。
「ここからの足場は木なんですね」
良かった。とフレーレが言外に言った。
フレーレの履く踵の高い靴の下には板が張られている。旅人といった風の装いに泥つきの草臥れた革靴を履いた官者はともかく、厚着とはいえ普段の装いをしているフレーレには、これまでの硬い敷石の道は、予想外の長歩きをしていたことでけっこうつらかったようだ。
「場所によっては板に隙間がありますから気をつけて」
板敷になった柱廊には、曲がり角のあたりに板と板との隙間があった。それを知る官者がフレーレを心配して言った。
原の景色は丘陵地を蛇行するなかいつ見ても左右、前方、後方にした丘陵がすさむ風を遮る。
歩むたび、軒下を斜めにさす光も淡くなり溶けていく。フレーレの呼気はこのときには風の音と聞き違えるほどおだやかになり、歩幅は小さくなった。しかし丘上からここまでとは転じ、そのうち陽気に歩いていくようになる。
幾重にも重なった道の先に続く列柱と回廊。
涼み廊なかは、ここにきて仄かにお日様も陰り、優しい感じを受けた。二人の足音と息づかい、いっそ子気味のいい板のしなり、ひゅうひゅうと吹く風、野鳥のさえずり、草葉の葉鳴り。
遠景を早緑のなかに浮かぶ廊に響いたものは、きまぐれに歩調を合わせ話しかける官者とそれに付き合う少女の話し声を除けば、ほんとうにそれらだけしかなかった。こうして官舎までの道中は、只只のどかな時間が流れていった。