第1話
第1話
私は都でシェスタなる町について調べていた。これはある旅人に聞かせてもらった話だ。
新雪にあるような艶美な白は、遠目にすれば異国情緒こそあふれていたそうだ。
諸所の森の木々とも異るその味わいは、遠くの山間の岨道よりこちらを望む行商が、脚を休めたならば、決まって長い間魅入ってしまうほどだった。旅なれた者にとっても金剛玉楼宛らに美しい景観なのであろうと。
次にこれは「私は、ついこの間、その町に行った。丁度今はその帰りだ」という知人の役人から聞いた話だ。
暖かな風の過ぎる心地の良い丘の上、雑多種な草花とあおあおと若々しい緑に覆われる地に、まだ拵えて間もない一棟の建物が建つ。
「小城をおもわせるその外観は立派である。砦を意識した外観、庭もきちんと整備されている。しかしその丘には、門もなく、堀もなく、剰え塀すらなかった。まったくよろしくない。領主の館としては手ぬるい。訪れる徴税官の誰もがそう思いついては民に訳を訪ねていたらしい。私のところにも報告があって、そのところ、領主を含めて数人が暮らす規模の屋敷であるようだ」
「辺境でしたよね」
私が控えめに訪ねた。
辺境というのは他国との国境近い土地を意味している。その町を治める領家がそのような暮らしと聞いては口を挟まずにはいられなかった。幾つかの問答を挟んだ。
「……臆、そうだが、シェスタの町がなにものかにいつ落とされるやもと案じているなら、そうでない。ふふん、実はな」
此処まで話し終えたとき、官者は一つ頷いてみせた。こちらの反応を待っているようであったので私が続きを促すよう仕向けると、官者はまた一つ頷いて、それきり、そそと歩き出してしまう。官者と私は再び都の雑踏のなかを歩み始めた。粉雪が降り積もる幅広の街路に、暫くは二人分の靴跡だけが跡を残して。