集積地
さて、俺はガルクの案内によって、海をひたすら進む。周りに陸地がほとんどなくなってしまったため、俺は本当に正しい方向に進んでいるのか不安になってくる。
今までは明確な目的地があったし、なんとなくこちらへ進めば辿り着くよなー、と漠然と考えられたから不安はなかったけど、今回は完全に案内をガルクに任せているため、いつ辿り着くのかと問い質したくなってくる。
『まあそう心配するな』
と、ガルクは言うのだが……まあここまで来たのだから、最後まで付き合う気ではあるけど。
そうして俺は移動を重ね……やがて、前方に島を発見した。それは周囲に陸地など存在せず、文字通り最果て……そう呼んで差し支えないような、孤島だった。
「小さいな」
俺は使い魔を用いて外観を観察する。小島と形容していいような感じであり、外周数キロといったところだろうか。木々もそれほど多くないのだが、やや山とまではいかないにしろ起伏はあり、島の中心から少しずつ上り傾斜となっており、その頂点を超えたら再び下るような傾斜が存在している。
「中心部分には……」
小さな森が広がっている。中はうかがい知れないのだが、どうやらそこに神霊ラムハザがいるようだ。
「それじゃあ入るか」
『うむ、別に島へ入るのに許可などいるわけでもないから安心してもらいたい』
俺は地面を踏みしめる。なんというか、幻獣の島からずっと海だったし、土の地面というので少し感動した。人というのは大地と共に生きる存在なのだなあとやけに壮大なことを考える。
「中心に向かっていけばいいんだよな?」
『それで良いだろう』
俺は周囲を見回す。島の外周部は平坦で、砂浜や岸壁が存在している。一応砂浜は一ヶ所しかなくて、そこが入口になりそうな雰囲気なのだが……人の手がまったく入っていないためか、あまり綺麗とは言えない。
というより、砂浜の色は白じゃないしな……木々も含め、ありのままの自然といった感じだ。
「なんというか、普通の島だな」
『どんなものを想像していたのだ?』
「いや、土着の精霊が最後に辿り着いた場所がここというのは……どうなんだろ?」
『ルオン殿の言いたいこともわかるが、見た目にとは別の部分で、ここは価値のある場所だからな』
「というと?」
『霊脈の集積地なのだよ、この島は』
霊脈の……? 疑問に思っているとガルクは解説を行う。
『大陸の地底には、いくつもの魔力の流れが存在する。それは人の体で言う血管のようなものだと考えてくれればいい。魔力は星から生まれ、あるいは生物から生まれ、常に流動的だ。動植物が放出した魔力は時に大地へ染みこみ、また地底の奥底から湧き上がってくる。これが霊脈だな』
「星神が誕生する経緯から考えても、霊脈というのはこの世界にとって色々な恩恵と問題をもたらしてくれるな」
『うむ、魔力というものが存在する以上は仕方のない話なのだろう……そして世界にはいくつか、霊脈が一つに集まる場所が存在する。その一つがここだ』
「そういう場所は少ないのか?」
『我を含め、神霊が観測しているのでも世界で三ヶ所だな』
「無茶苦茶少ないんだな……大陸に一つずつというわけでもないのか」
『大陸というのは、人から見れば広大な大地ではあるが、この星全体からすればほんの一部だ。例えばの話、人は心臓を一つしか持てず、また体の中心にあるだろう? 星そのものもまた、非常に重要な場所というのは大抵地底だったりするのだが、ここは世界の中でも珍しい、島の真下に霊脈の集積地が存在している場所なのだ』
面白い話だな……俺は坂を上り始める。そして中心へ近づくにつれ、ガルクの言葉について理解できてくる。
「確かに、使い魔で遠くから観察しているのではわからなかったけど……魔力が濃いな」
『中心に行けばいくほど、濃度が増してくるぞ』
「なるほど、そういう場所なら精霊が居着くのも納得がいくよ……けど、そうした場所がよく狙われなかったな? 世界でも珍しい場所なら、何かしら攻撃があってもおかしくないけど」
『ここは最果ての地だからな。どれだけ膨大な霊脈が存在していようとも、交通の便がまったくないような……なおかつ、探すのにも苦労するような場所をわざわざ狙うような輩はいないというだけの話だろう』
ま、それもそうか。
「ところでガルク、残る二ヶ所というのはどこにあるんだ?」
『興味があるのか?』
「別にそこへ行こうというわけじゃないけどさ」
『ふむ、別に教えてもいいが……こことそう大差ないような場所だぞ?』
「人が踏み入れることができるような場所ではないってこと?」
『その通りだ』
「……戦いが終わった後、暇があれば覗いてみようかな」
俺はそう答えた時、坂を登り切った。そこからはなだらかな下り坂となっていて、小さな森が見える。
目を凝らすだけでわかる。あの場所が島の中心にして、霊脈が集まる場所だ。
俺は無言のままゆっくりと歩き出す。ここでふと、植物はあるけど動物はおろか昆虫一匹いないことに気付く。
「ガルク、生物の類いがいないけど」
『ここには魚すら近づこうとしない。霊脈の集積地……つまりそれだけ膨大な魔力が噴出しているわけだが、魔力はあまりに多すぎるとかえって毒になる』
「魔力が濃すぎるから、近寄れないってことか」
『島外からやってきて鳥くらいは住み着くらしいが、それほど経たずして離れるらしい。これは他の場所……霊脈の集積地も一緒だ。多大な魔力は、生物が暮らす上で適した場所ではないというだけの話だ』
「でも精霊や神霊は違う」
『まさしく。だからこそ、ここにはラムハザがいる』
やがて森の手前に到達した。木々は決して珍しい植物ではないのだが、魔力に溢れており、それがどことなく威圧感を放っている風にすら感じ取れる。
植物が万事この調子なら、確かに生物は近寄ってこないだろうな……と思いつつ、俺は森の中へ足を踏み入れる。神霊ラムハザと顔を合わせるまで、あと少しだった。




