破天荒
魔王城にて一晩泊まってから、俺は魔界を出て進路を幻獣達のいる島へと向けた。距離はあったのだが、ガルクによる案内もあったし、予想と比べずいぶんと早く辿り着くことができた。
そして突然の来訪に驚くかなあ、と思っていたのだが……まるで俺のことを予期していたように、最初に上陸した無人島で幻獣ジンが待っていた。
「まさか出迎えとは……」
「幻獣の領域は存外広くて、ルオンさんが近づいてきたのを確認できただけだ。ならばと赴いたまでの話だ」
ちなみに出迎えはジン以外にも幻獣テラがいる。
『ここを訪れたのは何か理由があるのか?』
「決戦前に旅をして回っているだけだ。ただここを訪れて……後はガルクが提案する場所へ赴くだけで、終了だ。リズファナ大陸へ行く必要性もないからさ」
テラの問い掛けに俺はそう答えると、ジンへ目を向けた。
「最終決戦についてだけど……幻獣達は参戦するのか?」
「ああ、もちろん」
ジンは明瞭な返答を行った。
「ただ、全面的にというわけじゃない。星神の使徒……その被害もあるし、直接的に参加できるのは俺とテラくらいだな」
「島が消失するほどの騒ぎだったからな……むしろジン達が参戦することの方が驚くような話か」
「使徒という存在ですら、世界を崩壊させるほどの力を持った存在だった。それを踏まえれば、星神を倒すために動くのは当然の話さ」
……振り返れば、星神の使徒は間違いなく世界を終わらせる要因となっていただろう。あれが悪さをして星神が降臨する可能性は高かった。俺達が幻獣の所へ訪れたから、ああした生み出された存在かもしれないが、リズファナ大陸の騒動をどうにかしても、幻獣達の領域で使徒が生まれていた可能性は十分あるし、星神降臨の起点になっていたのは間違いない。
俺達は結果的に星神降臨の可能性を一つ潰したってことだろうか……色々頭の中で考えていると、ジンはさらに言及した。
「まあ今回の戦いの主役はあくまでルオンさん達だ……俺達は神霊なんかと共に補助って感じだな」
『よろしく頼むぞ』
子ガルクが右肩に出現して言及。それにジンは頷き、
「さて、話もできたし……そろそろ俺達も島から離れるか」
「もう準備は終わったのか?」
「ああ、後は魔王城へ向かって、最後の詰めをするだけだな」
……幻獣の助力もまた、なくてはならないものになりそうだ。俺は「頼む」と一言告げ、島を離れる。非常に短い滞在期間だが、他の幻獣に会うのもあれだし、これで十分だろう。
「さて、移動時間に対し恐ろしいほど短い時間で用を済ませたわけだけど……」
『では我が言っていた場所へ向かおうか』
「ああ、それはいいけど……どこへ行けば?」
『我が案内をする。幻獣達の住む領域ともズレる場所なのだが、ここからそれほど遠くはない』
「……どこに行く気なんだ?」
気になって尋ねると、ガルクは少し間を開けて答えた。
『ルオン殿は、ラムハザという精霊を聞いたことはあるか?』
「ラム……なんだって?」
『ラムハザ』
「聞いたことないけど、精霊の名前なのか?」
『うむ、端的に言えばシェルジア大陸にいる神霊と同列……いや、下手をすればそれを超える存在だ』
え、何それ。
「そんな精霊……もとい、神霊がいるのか?」
『神霊、と断言するのも少し違うのだが……海を渡ることができるアズアは幾度が顔を合わせたことがあるようだし、今回はアズアの仲介で訪れることになる』
「そんな存在が……で、協力を頼もうと?」
『うむ、我と同質の力を持っているとなったら、頼もしいと思わないか?』
確かに……。
「それだったら、こんな寸前じゃなくて良かったんじゃないか?」
『アズアが仲介するといっても、ちゃんと話ができるかどうかわからなかったからな。ようやくセッティングを済ませることができて、晴れて会える……それがたまたま決戦寸前だったというわけだ』
「なるほど……ガルクは引き入れたい理由があるのか?」
『うむ、そうだな……我と同格とは言ったが、ある一点においては我を上回る存在だ』
それは……? 疑問に思っていると、ガルクは俺へ告げる。
「戦闘能力だ」
「無茶苦茶強いってことか?」
『魔王といった非常に特異な能力を保有している、あるいは四竜侯爵のように特殊な武具でなければ傷を負わせられない……といった点を考慮すると、あらゆる存在に対し勝てるというレベルではない。ただ、その能力は神霊というカテゴリーにおいても間違いなく最強だ』
ガルクがそれほどまでに言うほどの存在……目を丸くしていると、ガルクはさらに語る。
『ラムハザは元々、とある大陸に住んでいた土着の精霊だ。しかしそうした境遇を良しとせず、自らその鎖を引きちぎって外へ出た』
「破天荒な神霊だな……」
『我のように、外へ出ることはできる。しかし我らは一つどころに留まって、一つの地に根を張る存在なのは間違いない。そもそも精霊や神霊は、大地――ひいては星の力を受けて生み出された存在だ。基本的に由来する土地から離れることはできないが、ラムハザはそれを強引に破壊し、旅をし始めた。そして安住の地を見つけた』
「それが、今から訪れる場所?」
『そうだ。我らは最果ての島と呼んでいる……厳密に言うと最果てとは違うのだが、まさしく旅の果てに訪れるような場所と言える』
話を聞いていると、ガルクのような神霊とは一線を画する存在みたいだな。
『ラムハザは別に力を誇示しているわけではない。旅を通し、その島に根付いたことで、いつしか膨大な力を得た存在だ。それ故に、ラムハザの力を知っている者は決して多くない。我としてもアズアから話を聞かなければ、名前は知っていようとも実力までは把握できなかった』
「そうなのか……そういう存在なら、決戦の際に手を貸してもらえるとありがたいけど、すんなり味方になってくれるのか?」
『そこは話してみないとわからない。アズアによれば穏やかな性格らしいが、人間が訪れるのは初めてであり、なおかつルオン殿の力を目の当たりにしたらどうなるかは未知数だ』
不安ではあるけど……ガルクの提案だし、行かない理由はない。というわけで俺はガルクに案内を頼み……幻獣の領域を後にしたのだった。




