歴史的な意義
「星神に関する調査を禁じる……とお触れを出したとしても、大半の人間は何のことだと首を傾げるばかりだろう」
デヴァルスはそう告げる……まあ確かに、一般の人からすれば意味不明だろうな。
星神を打倒した後でも、古代の技術はまだ眠っているわけだが……その場所全てを確認することはできないし、俺達としてはどうすべきなのか――
「まあ例えばの話、星神に関する技術なんかを発見次第破壊するような組織を設立するとかしないと、完璧な解決は無理じゃないか?」
「……その組織が、トラブルを引き起こしそうな気がする」
「気がする、ではなくて確実にだな」
う、うーん……やっぱり根本的な解決って難しいのかな。
「ルオンさんがそこまで考える必要性ないと思うけどな」
と、デヴァルスはどこか楽観的に語る。
「この世界には星神という存在がいて、それに関連する資料が山ほど眠っている……これは仕方がないし、ルオンさんが全て背負う必要性はないだろ」
「だからといって放置もできないだろ? 俺達は真実を知った……今後、眠っている星神の技術を掘り起こした誰かが、悪用する可能性はある。その対策を講じておくのは、今しかできない」
「本当、律儀だなルオンさんは」
どこか呆れ気味に答えるデヴァルス。
「ま、その辺りはやり方も一応あるが」
「本当か?」
「人間ではなく、天使や精霊など、長い時を生きる者達に託す……つまり、そうした者に情報を渡しておくってことだな。もし人間世界が星神の技術でまずいことになったら、そうした者が介入して助力する」
「……天使や精霊が動かない可能性は?」
「ならばそうしないよう、今からルオンさんが動けばいい……といっても、既にやっているが」
「やっている?」
「星神との戦いに、あらゆる種族を通して協力を持ちかけている……魔族だけでなく幻獣でさえも、だ。この戦いは歴史的にも意義がある。強大な敵と戦うために、あらゆる種族が手を組んだ……その事実と経緯を歴史的として後世に示せば、私達は未来、再び集うことができるだろう」
つまり、この戦いをきっかけにして……か。で、デヴァルスの言い分によれば、既に事は成っていると。
「本当に、それでいいのか?」
「むしろそういう手段しかない。そもそもルオンさんが千年後の人間社会に影響を与え続けるなんて、実際に生き続けなければ無理だろう。しかしそれは不可能だ」
「まあ、そうだな……」
「ならば、できることをやる……それは人間であるルオンさん以外に、私だってそうだ。ならば、自分に可能なことを遂行し続ける……これしかないと思うぞ」
彼の言う通りか……俺は頷き、改めて彼に問い掛ける。
「散々星神の話をしてから言うのもなんだけど……星神との戦いに、参加するのか?」
「ああ、もちろん。どれだけ戦力になれるか不明だが、可能な限り天使達を動員する」
「……戦力的に、一番天使が多くなりそうだな」
俺はそうコメントをした後、別の話題を口にする。
「セルガ達も参戦するのか?」
「今回は帯同する……とはいえ、最前線に立つかどうかはわからない。三人も相応に強くなっている。さすがにルオンさん達が行っていた修行と比べれば劣るかもしれないが、確実に戦力となれるくらいには成長している。期待してもらっていい」
俺はそれに頷き――その後、デヴァルスから言われてセルガ達と顔を合わせた。
そこでなんだか星神との戦いにこれまで参戦できていなかったことに、悔しそうな雰囲気を見せたが……三人とも決戦では協力すると表明してくれたため、俺は礼を述べて天界を去った。
「さて、次は……魔界だな」
『魔界へ赴ける手段についてはあるにはあるが……どうするのだ?』
「まあさすがに今から突然、というのはクロワにも申し訳ないし、他の国へ来訪した時とは違って混乱するかもしれないから、実は連絡しておいた」
『連絡?』
「一度バールクス王国へ戻った際に、連絡したんだよ。それで魔界を訪れたら所定の場所へ向かい、改めて連絡する……みたいな手順を踏むことになった」
『なるほど。では魔界へ向かうために――』
「ああ」
返事と共に、俺は魔法を使用する。様々な場所へ赴くことで移動は大変だが、旅も佳境に迫っていた。
その後、俺は魔界を訪れて魔王となったクロワと城で顔を合わせた。
「魔界の状況はどうだ?」
「ようやくまとまり始めた……とはいえ、課題は山ほどある」
その出で立ちは以前と比べても凜々しいものになっている。魔王の威厳……というのはまだ出ていないけど、いずれ風格も備わるだろう。
「ルオンさん達の状況は聞いている。こちらがそれほど手助けできていないのが現状だが、決戦の際は手を貸すことで決まった」
「よく話がまとまったな?」
「とはいっても、今回は選りすぐりの……それこそ、人間や天使、精霊達とそれほど確執のない者を選抜して戦う形をとった。本音を言えば魔界総出で対応したいところだが」
「さすがに無茶だと思うし、それでいいさ」
「ただ、魔族を率いる者をエルアスにした。それで、上手く連携できるだろう」
「彼か……」
「星神との戦いの一件や、エーメルの活動を見て、エルアスも動こうと考えたらしい。彼なら信用できるし、大丈夫だ」
他ならぬクロワの言うことだし、信用しよう……こちらが頷くとクロワはどこか無念そうに、
「本当なら僕も参戦したいところだが」
「それはやめておいた方がいい。エーメル達の助力で十分だ……そういえば、エーメルは今どうしているか知っているか?」
「領地に帰っていて、何やらやっているが」
「決戦準備か?」
「おそらくは」
一度顔を見せた方がいいな。まあ彼女の事だし、星神との戦いに参加するかと問われたら食い気味で頷きそうだけど。
「なら、エーメルの所へ行ってみるよ」
「わかった……そうだ、魔界でやることを終えた後、一度戻ってきて欲しい」
「ん、何かあるのか?」
「気になる道具を見つけたんだ。今は検証途中だが、それも一日二日で終わる。もし良かったら、魔界を脱するまでに見て欲しい」
「わかった。なら後で」
俺は頷き、ひとまず魔王城を後にしたのだった。




