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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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竜の助力

 エクゾンの言葉を受けて、俺は急いでアナスタシアの屋敷へ向かったのだが……そこは、準備の真っ最中だった。


「おや、わざわざ挨拶に来たのか?」


 客室に通され、出迎えたアナスタシアは俺へ向けそう告げる。


「確認をしておきたかったからな」

「星神との戦いに参陣するのか、と?」


 あっさり見抜かれ俺は素直に頷く。


「俺としては、そこはなあなあで済ませたくないからな」

「律儀じゃのう……まあ良い。わしは当然参加する。ユスカやカトラと比べれば裏方仕事が多かったわけじゃが、今回は最前線……とまではいかなくとも、天使や精霊と比較しても遜色ないほどの活躍を見せよう」


 なんだか自信があるみたいだな……こちらが頷き返している間にも、屋敷内では人が動き回っている音が聞こえてくる。


「確認だけど、どんな準備をしているんだ?」

「わしの主な役割は、戦闘に参加する者達の援護じゃろう? ユスカやカトラだけでなく、ロミルダについても……特にロミルダには、竜族の力と武具に応じた最適な援護が必要じゃ。となれば、あらゆる有事に備えて道具などは用意できるだけした方がよい」

「……なんだか、宝物庫にある道具を全部持って行く勢いだな」

「そうじゃが?」


 あっさりと答えられて俺は沈黙する。


「世界を救う戦いなのじゃ。そのくらいのことは当然じゃろう? まして、わしがナーザレイド大陸の代表者として参陣するのじゃ。他の種族と比較して活躍していないとくれば、竜族としての面目が丸つぶれじゃからな」

「そこまで言うか……」

「わしはそれだけ、重要な戦いと考えておる」

「……もしかして、皇帝に協力を持ちかけたのはその辺りが関係しているのか?」

「む、エクゾンから聞いたのか?」


 こちらが頷くと、アナスタシアは肩をすくめながら話し始めた。


「ネフメイザとの戦い、わしらはソフィア王女……つまり、他大陸の国家からの援護を受けて行ったわけじゃ。それが私的なものであろうとも、王女が戦っていたことは事実。現状、そのことについて公になっているわけでもなし、関係者が喋らなければ露見することもなさそうじゃが、そうだとしても手助けを受けたのは事実」

「だから、手を貸すと?」

「そういう要因もあるということじゃよ。わし自身、この戦いの行く末を見たいという思いも確かにあるが、決して国が嫌々協力しているわけではないと言いたいわけじゃ」


 と、そこでアナスタシアは含みのある笑みを見せる。


「それに、戦いの後のことを考えたらここで貸しを作っておくのも悪くはないじゃろう?」

「……どういうお返しを期待しているのか怖いんだけどな」

「別にルオン殿に何かしてもらおうと思っているわけではない。リズファナ大陸と親交を深めたように、ナーザレイド大陸についても、交易など色々とやって欲しいというだけじゃよ」


 まあそれなら……少なくともバールクス王国については受け入れるだろう。


「俺が話を通しておくか?」

「ソフィア王女にか? 確かに未来の女王に話をしておけば、わしが言ったこともあっさりと叶うじゃろうな」

「でも、今の俺にもソフィアにも国を動かすほどの権限はない。あくまで手を貸してもらっている立場だからな。正直、望み通りになるかはわからないぞ」

「そこはわしらでなんとかする」


 きっかけを作ってもらえれば、いいって話かな。


「わかった。ならソフィアには伝えておく」

「助かる……さて、他にも会いに来たのじゃろう? この部屋に呼ぶか?」

「いや、屋敷内を歩いて回ることにするよ……ちなみにここにはユスカとカトラがいるんだよな?」

「竜精フォルファもいるぞ」

「……そういえば、彼女は何をしているんだ?」

「ネフメイザとの戦いの後、色々あって星神との戦いにも手を貸してもらっている。今回はシェルジア大陸にお邪魔することになるじゃろう」


 フォルファも、か……アナスタシアを通して、竜族も総力戦という状況になりつつあるのかもしれないな。

 俺はその後、屋敷内を見て回ってユスカとカトラを発見。二人へ定番の問い掛けをして両者とも同意をした。


「そういえば一つ疑問なんだけど、二人は戦いが終わったらどうするんだ?」

「実は陛下から、色々と指示が」


 答えたのはカトラだ。ふむ、どうするかについては問題なさそうだな。


「星神との戦いで得た力を、ナーザレイド大陸の秩序維持に使って欲しいと」

「俺達の戦いで得た経験が役立つなら、遠慮なく使ってくれればいい。二人なら、問題ないだろ」


 ユスカもカトラも小さく頷く……うん、二人については大丈夫そうだな。

 それから少し話をしてから、俺はフォルファに会いにいく。すると、何やら複雑な術式を編んで竜魔石に魔力を付与する姿があった。


「大変そうだな」

「あなたか……見ての通り、指示を受け準備をしている。侯爵はずいぶんと扱いが荒い」


 そう言ったが、作業する手は止めない。


「もっとも、敵の強大さを考えればやむなしか」

「……フォルファも今回戦いに参加するとのことだけど」

「ネフメイザと関連する存在であるなら、関わった以上は侯爵と同様、見届ける腹づもりだ」


 こちらも覚悟はできているというわけだ。


「準備については、どれだけやっても足りない気がしてくるが」

「それはシェルジア大陸の精霊も言っていたよ」

「相手が強大だからな……とはいえ、やれるだけのことはやる。幸いながら星神に関連する情報はかなり集まっている。準備についても、ある程度のところまで進められるはずだ」

「そうか……頼むよ」


 というわけで、ここでの挨拶は一通り終わったし、次は皇帝のところだな。俺は最後にアナスタシアに一言告げて、屋敷を離れた。


「皇帝との挨拶が終わったら、とりあえずナーザレイドでやるべきことは終了かな」

『シェルジア大陸の時とは大違いだな』


 ガルクの言及。それに俺は、


「ソフィアを強くする、といったイベントがなかった分、訪れる場所は決して多くなかったし、何より関わった人の多くが現在も手を貸してくれている形だからな」


 応じながら帝都を目指す……戦いの後、すぐに大陸を離れたため、どの程度復興しているか、確認しつつ謁見に向かうとしよう――


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