侯爵のその後
バールクス王国に一度帰ってから数日後、俺は北へ向かい魔王城をすり抜け、海岸へとやってきた。その目的はナーザレイド大陸へ行くため……魔法を使って海を越えるためだ。
高速移動魔法により、大陸間を移動する……本来は無茶なやり方で、魔王と戦った直後くらいの能力でも結構な労力が必要だったけど、今ならば……星神と戦うだけの力を得た今なら、余裕で可能だ。
『さて、ルオン殿。身一つで大陸を渡る……ルオン殿ならではの手法だな』
「そうだな……」
ザザーン、と波の音が耳に入る。と、ここで、
『そういえばルオン殿、バールクス王国で我が一時いなくなったことがあったが……それ以降、何か考えるようになったな。王族関連で何かあったのか?』
たぶん雑談のつもりだろう……それに対し俺は、
「あー、そうだな」
『む?』
「ガルクの言う通り王家にまつわることだから詳細は話せないけど……うん」
頭をかきつつ、俺は海岸へ歩き始める。
「確実に言えることが一つ」
『何だ?』
「たぶんだけど……ミネルヴァ王妃が助言したのかもしれない」
ガルクからの返答はなかった。というか何が言いたいのかわからないのだろう。でもこれ以上は俺も言えないので、他者に問われれば王家関連の何かがあったと答えることにしよう。
「さて、行くか」
俺は呟き、魔法を使用。移動魔法を用いて海上を駆け抜ける。一瞬だけ後ろを振り返れば、陸地が恐るべき速度で小さくなっていく。
もし魔法が途切れれば俺は海へ真っ逆さまなわけだが……今の俺なら大丈夫。問題は進む方角についてだが、これもガルクと協力して解決している。
「そういえばナーザレイド大陸には天使の遺跡にあった転移装置で訪れたんだよな」
『あれは驚愕したな』
「俺達は古代の技術とかについておおよそ内実を知れたわけだけど……あれは天使達が星神に対抗するためにネットワークを構築していた、でいいんだよな」
『おそらくはそうだろう。最終的にそれは駄目になってしまったが』
ガルクは答えた後、話を変える。
『ルオン殿、大陸に到達した後はどうする?』
「まずは皇帝アベルに謁見しようか……と思ったけど、門前払いをくらうかな?」
『ルオン殿の功績を考えれば、あっさりと通してくれそうだが……』
「皇帝よりも先に、各所を巡ろう。アナスタシアとも会うから、彼女に書状でもしたためてもらえれば、あっさりと通してくれるだろ」
『む、そうだな』
結論に達し、俺はひたすら駆け抜ける……大陸は遠いが、不安などは一切なかった。
その後、幾度か日をまたいで俺はナーザレイド大陸に到着した。ちなみに休憩する場所として海の上にガルクが魔力で空間を作ってくれたりしたため、魔力的に余裕がある。
「とりあえず、エクゾンに会いに行こうか」
まずは、戦いに手を貸してくれた侯爵に……というわけで道中、訪れた町などを見て回りつつ、エクゾンの下へ赴いた。
「……事情は、おおよそ察している」
と、会いに行きあっさりと通してくれた俺に対し、開口一番彼は告げた。
「というより、アナスタシアの奴が情報をくれているからな」
「もしかして、何か手伝わされているのか?」
「ある程度は、な。とはいえ、帝国の戦いが終わった後、役割分担をした。私が内でアナスタシアが外。元々、アナスタシアは様々なことを研究する身だ。世界の真実というものは、奴にとっては垂涎の研究対象と呼べるのかもしれない」
俺達とも嬉々として関わっていたしな……と胸中で呟いていると、エクゾンは苦笑した。
「もっとも、だ。実際は戦後処理で美味いところを持って行って面倒な部分を押しつけられた感じだが」
「……心中、お察しするよ」
そのコメントにエクゾンは笑い始めた。
「まあ、私としても処理を通して色々とこの大陸を見て回れたからな。ある程度成果は得ている。何もかも全部放り投げられたという感じではない」
「それなら良いけど……星神という存在について知り、何か思うところはあるか?」
「私にとって、あまりに巨大な敵だ。正直、なぜ君が戦おうとしているのか理解することができないくらいに、な」
と、苦笑する彼。
「私としてはアナスタシアに手を貸せと持ちかけられ協力しているくらいで、直接的に関わっているわけではない」
「でも、協力はしてくれているんだろ? それは俺としてありがたい」
「そうか? そう言ってもらえるのであれば、こちらとしても嬉しいが」
「……まだ、帝国の秩序は完全に落ち着いたわけじゃないだろ?」
確認の問い掛けに、エクゾンは小さく頷く。
「ネフメイザはそれこそ、権力の中枢にて絶大な影響を誇っていた。そもそも、奴が有能でなければそんな芸当はできない」
「その穴を埋めるのは大変ってわけか」
「そうだな。だが、陛下はよくやっているよ。混乱していた大陸の情勢が、日に日に改善していくのがわかる」
そうか……俺としてはその一事だけでも、あの戦いは間違っていなかったんだと安堵する。
「ああ、それと陛下はルオン君に会いたがっていたぞ」
「俺に?」
「アナスタシアが色々と皇帝にも星神対策について陳述しているようだからな、その関連でだろう」
「え、皇帝にまで話を通しているのか!?」
「アナスタシアは世界の危機であり、シェルジア大陸は総出で手を貸しているぞ、と告げて陛下を納得させたらしい」
む、無茶苦茶だな……正直、手を貸してくれているのは俺の功績に対する善意みたいなものだし、他国がこうだからトルバシア帝国も同じにしろ、なんて言うつもりはないんだけど。
「とはいえ、陛下としても何かしら手を貸したいという意向はあったらしい。混乱がまだ続く中での協力ではあるが、ひとまず他の重臣から文句を言われて騒動のタネになっている、というわけではない」
「それは良かったけど……俺としては一度会いに行きたいんだけど……すんなり通してもらえるかな?」
「大丈夫だろうが、書状を書こう。それで謁見はできるはずだ」
お、それはありがたい……そこから手紙をもらい、俺は次にアナスタシアに会いに行くと告げると、
「なら、少し急いだ方がいいな。数日前に連絡があった。準備が整い次第、シェルジア大陸へ向かうと言っていたからな――」




