精霊の疑問
ガルクから情報をもらいつつ、俺はナテリーア王国に到達した。魔王との戦いの際、ここではソフィアと新たな技を……そういうわけで、手を貸してもらった人に挨拶をしようと思った矢先、クウザと再会した。
「あれ、ルオンさん?」
やはりここにいたか、と自分の予想が正解であったと思うのと同時、彼に説明を施し、
「星神との戦い……それに、参加するのか?」
問い掛けを行った。するとクウザは、
「当然だ。むしろここまで付き合った以上、手を引けと言われたらさすがに怒るぞ」
そう彼は返答し、話は終了。改めて用件を伝えると、
「ああ、ヘッダ教授とかに会いたいのか」
「アカデミア内にいるんだよな? おいそれと入れるものかな?」
「なら俺と一緒にはいればいいさ」
「本当か? それなら――」
というわけでクウザに同行してもらい、挨拶を済ませる。それが一通り終わった後、俺とクウザはアカデミア近くの店で食事をすることに。
「ルオンさん、次はどこへ行く気なんだ?」
「ここからはひたすら五大魔族との戦いだったからなあ……そうした城を見て回るのもいいけど、それよりはもっと他の場所に赴いた方がいい気もするな」
話している間に、俺は一つ思い浮かんだことが。
「そういえば五大魔族グディースの居城はどうなっているんだろうな? 宇宙空間に出るような施設だし、放置しているとまずい気が」
「ああ、それについては調査したみたいだぞ」
と、クウザが返答。そこで俺は、
「調査した? 誰が?」
「この国の研究資料を漁っていたら、偶然発見した」
「……何で縁もゆかりもないナテリーア王国があの居城の調査を?」
「魔法……古代の技術に関わるものだったから。であればこの国がということで手を挙げたらしい」
「ちなみにクウザが資料を漁っていた理由とかは聞かせてもらえるか?」
「そんな大層な話じゃないさ。星神との戦い……それに際し、アカデミアの方で何か調べているかな、と思って資料を手に取っただけさ」
「ここへ戻ってきても、星神について調べていたと?」
「ついで、というレベルさ。そもそも星神は今の人類では把握しきれないほどの存在だ。情報についても期待はしていなかった」
肩をすくめるクウザ……仲間達は思い思いの旅をしている。そうして、最終的にはバールクス王国へ戻ってくることだろう。
「うん、そういうことなら俺が城へ赴く理由もなさそうだな」
「それなら次は、どこへ?」
「ここからは南部侵攻まで怒濤の展開だったけど……その次へ赴くのは、精霊コロナのところか」
聖樹コロナレシオン……あの場所でソフィアが魔王を討つ存在として、正式に決まった。
「そういえばガルク、精霊コロナは今回の戦いに協力するのか?」
『そこは言及していなかったか? うむ、当然呼びかけを行い、はせ参じるとのことだ』
「……確認だけど、可能なのか? あの精霊は聖樹の近くにいないと駄目みたいなイメージあるけど」
『精霊にも土着型が存在するが、決して動けないわけではない』
「なるほど、そうなのか。しかし精霊コロナまで……本当に総力戦だな」
『とはいえ、当事者であるコロナはそれほど戦力になれないと言っていたが』
「それは土地から離れるから?」
『そういうわけではないようだが、星神の能力を考慮すると、大した戦力加算にはならないだろうと』
神霊達が行った研究などを見て、そう思ったのかもしれない。
『とはいえ、我としては心強いが』
「そうだな……うん、次の目的地はそこだな。ちなみにクウザはこれからどうするんだ?」
「もう少しここに滞在して、組織へ戻ることにするさ」
「そっか……」
「旅を続けるなら、何か準備を手伝おうか?」
「いや、大丈夫。そもそも俺は魔法で移動しているだけだし」
「無茶苦茶な旅だな。ルオンさんにしかできなさそうだ」
クウザが笑い、俺も笑う……そうして穏やかに一日が過ぎていった。
俺はクウザと別れ、聖樹コロナレシオンの下に辿り着く。そこで精霊コロナと顔を合わせると、
「星神との戦いについて、手を貸してもらえるとのことで……お礼を言いに来たんだ」
「ずいぶんと丁寧ねえ。別に良いのに」
『ルオン殿は律儀だからな』
と、子ガルクが出現して言及する。
『そちらの準備はどうだ?』
「概ね終わったわ。他の精霊達も集まり始めているみたいだし、私もタイミングを見計らって魔王城へ行くつもりよ」
『そうか。我の本体もそこにいるだろうから、星神に関する話はそこで改めて頼むぞ』
「ええ、わかった」
にこやかに――星神という強大な存在を相手にしても臆していない。精霊や神霊が結集することで、勝てると考えているのか、それとも集まるという状況自体を楽しんでいるのか。
「そういえば英雄ルオン、ソフィア王女は元気?」
「ああ、元気だよ。何か気になることが?」
「いえ、魔王を倒し、世界を救おうとしている女性……しかも王女様とくれば、何かしら重荷になっていないかと思って」
「……俺としてもそこは危惧しているけど、俺が言及しても何も言わないだろうしなあ」
『頑なな性格だからな、王女は』
ガルクが言及。違いないと俺が頷いたところで、精霊コロナは笑い始めた。
「なるほど、そっか……ま、一番の理由はあなたが隣にいることかもしれないけれど」
「俺からすれば、戦いに巻き込んでいると感じるところではあるけどな」
「王女だって選べたはずよ。自分の立場もある以上、あなたと別れる選択肢だってとれたはず」
……立場、か。王女という身分からすると、魔王を倒して以降は彼女の言う通り旅を続けるなんて選択をとらなくてもおかしくなかった。
けれど実際は……沈黙していると精霊コロナはぽつりと、
「愛のなせる力かしら」
「……その一言で片付けるのも、どうだかなあ。それと、理由がそうだとは到底思えないし」
「愛する人が戦いに出るから自分もまた、というのはあり得る思考回路じゃないかしら?」
ど、どうなんだろう……? ただこの場合、俺としては喜ぶべきか否定するべきなのか。
『一度、話をしてみるか?』
ガルクからの言及。
『丁度魔王との戦い……その旅路で赴いた場所も打ち止めだろう?』
確かに……次はいよいよ大陸外だし、ここで状況を確認するのもありか。
「わかった……なら、一度バールクス王国へ戻ろうか」




