森への再訪
ガルクが棲まう森へ進む間に、俺は旅の途中で訪れた町などを見て回った。そういえば、ここでイベントがあったなあ……と、天使の遺跡へ入り込んだ場所を思い返したりもする。
「ガルクと遭遇したのは、偶然だったなあ」
『経緯は以前に聞いたな。ソフィア王女を探すためとはいえ、我のいる所へ入り込んだことで戦闘になったと』
「話、聞かなかったもんな……」
『さすがに我としても……だなあ』
歯切れの悪い言葉。本体はもしかすると、遠い目をしているかもしれない。
「ま、そういう流れの結果手を貸してもらえたわけだし、俺としては良かったよ……出会いは最悪だったけど」
『以降、森へ侵入してきた者達へは気を遣っているぞ』
「……いたんだ、そういう人が」
『うむ。その全てが迷い込んだ者ばかりだったが』
まあ、俺と戦ったのはその力の大きさに警戒してという感じだったわけだし……穏便に済ませられるのなら、そうするよな。
そんな風に会話をする間に、俺は森へ到着。時刻は昼間で、中へ入り少しすると……俺とガルクが遭遇し、戦った場所に来た。
『待っていたぞ』
そしてガルクもいた。俺はその姿を見て頷き返し、
「確認だが、本体も参戦するのか?」
『無論だ。他の神霊……フェウスもアズアも住処へ戻り準備を進めている』
「そっか……バールクス王国の王城へ行く前に、一度顔を合わせたいな」
『そうか? あと、補足だが我らは魔王城へ直接向かうつもりだ』
「城には来ないのか?」
『うむ、というより精霊に我ら神霊……その他、町へ入れば混乱するような存在については、魔王城付近に陣を敷いて待機するつもりだ』
例えば魔族とかかな……確かにそれがベストだろう。
『現在は魔王城付近に我が配下を派遣して、準備も進めている』
「本当に用意周到だな……」
『今回の戦い、ルオン殿を始めとして人間もまた参戦する。なおかつ、人が主役だ。であれば、我らがそれを補助するのは必然だろう?』
――なんというか、不思議な気分ではある。まさか神霊の力を借りるだけでなく、支援してもらうとは。
『ちなみにだがルオン殿、預かっている品々についてはどうする?』
「俺が修行時代に手に入れた物か? それについては有効活用してくれ。使用許可とかも必要ない」
『良いのか? かなり貴重な物品も存在するが』
「最後の戦いなんだ。惜しみなく投入してくれればいいさ」
『ふむ、ならば遠慮なく……さて、ルオン殿、これからどうする?』
「んー、そうだな……近くの町へ赴いてゆっくりするとかでもいいけど……」
次に目指すのは、旅の道筋からすればノームの住処か……距離はあるけど移動魔法を使えば今日中には余裕で辿り着く。
「ただ、ノームの所へ赴くにしても夕刻になるよな……」
『距離を考えればもう少し掛かるだろうな』
「なら今日は、可能な限り近づいて宿をとるか」
俺はガルクへ視線を移す。子ガルクが常にいるとはいえ、大きな姿を改めて見るのはなんだか新鮮である。
「……なあ、ガルク」
『どうした?』
「星神との戦いついて、ガルクも手伝ってくれるのは確実みたいだけど……本当に、いいのか?」
『今更、という質問だな』
「ガルクなら当然だろうって答えそうだけど」
『そうとは言い切れないな』
「ん、どうしてだ?」
『星神を打倒する上でも、それこそルオン殿だからこそ、付き従うという意識は確かにある』
「例えば俺じゃなくても……それこそ、俺と同じような意思を持っている人なら、手を貸したんじゃないか?」
『かもしれないが、我はルオン殿が戦おうとするからこそ、率先して準備している』
俺だから、か……なんというか不思議な気分になるけど。
『単純に、今までの旅路……ルオン殿が辿ってきた旅路を見て、手を貸そうと考えている。それほど複雑な理由ではないぞ』
「そっか……」
『ふむ、ルオン殿としては不安なのか? この旅の中で仲間と再び顔を合わせて、決戦に挑むか尋ねる……その中で、断られるかもしれないと』
「それは別に……いや、心のどこかでは、そんな風に思っている自分がいるかもしれないな」
ただ、そういう選択をしたのなら尊重はしたいと思っているけど……例えば死ぬのが怖いから、という理由なら俺としても気にしない。でも、俺のやり方についていけないとか言われたら、少しショックかもしれない。
『ずいぶんと繊細だな、ルオン殿は』
「そうかなあ……というかこのやりとり、何回もやっているような気がする」
『うむ、相違ないな。とはいえルオン殿が気を揉むのもわかる気はするぞ……ともあれ、そう心配はしていない。ルオン殿は自分のやりたいように旅を続ければいい』
なんだか変な励まし方だけど……俺は小さく頷き、森を後にした。
翌日、俺はノームの住処へと辿り着いて精霊ノームの王様でありアクナと顔を合わせる。
「こちらもしかと準備をしている。俺達もまた、世界を救うために戦うつもりだ」
そう強い表明をした。俺が確認する必要性もなく話は終了。次に、ソフィアと契約をしていたロクトと顔を合わせる。
「ソフィア王女はお元気ですか? 近況などはレーフィン様などを介して聞いていますが」
「ああ、元気すぎるくらいだよ……ロクトもまた、戦いに加わるのか?」
「はい、そのつもりです。王女との旅に加わっていた以上、王女が出るならば関係者だと自負していますし、アクナ様が行くなと言われても参加する気でいました」
ソフィアとの絆は、切れていないようだ……むしろ魔王との戦いで契約が解除されていなければ、ずっと共に今も戦っていたに違いない。
ノームもまた全面的に協力してくれるのを確認した後、俺はすぐさま次の場所へ向かうことにした。
『ルオン殿、次はどこだ?』
「ゲームにおけるイベントが発生した場所……ラトラスの森かな」
『人がいない場所を訪れる意味はなさそうだが……』
「これは俺が辿ってきた道筋を追う旅って意味合いもあるし……とりあえず、行ってみよう」
というわけで進路を当該の場所へ向けることにする……俺は移動魔法を行使し、突き進むことになった。




