精霊の表明
「フィリとしては、この村が焼かれた事実を思い起こして……絶対にそうはさせないという気持ちで、戦いに臨むってことなのか?」
「そうですね」
「そうすることで、力が引き出せると?」
「手段の一つ、と思ったんです。その、今回の戦いが厳しいものであるのはわかります。その中で、心……それが砕けてしまえば、きっと負けてしまう。そう思ったんです」
心、か。確かに星神との戦いは圧倒的な力と向き合うもの。もし先に心が折れれば、おそらく勝てるものも勝てなくなる。
「なるほどな。思い出すため……か。でも、フィリ。この旅をそういう風に消化していいのか?」
「いいのか、とは?」
「例えば故郷へ戻るとか、あるいは他に何かやりたいことがあれば――」
「大丈夫です」
フィリはそれだけ答えた。彼なりに折り合いがついている、というわけか。
俺はそこでコーリへ目を向ける。思えば、彼女はフィリと共にずっと戦い続けていた。もし魔王との戦いでフィリが魔王と相対する存在となっていたら……彼女もまた、その戦列に加わり共に戦っていたことだろう。
そうまでするのは……と、彼女はどこか誤魔化すように笑みを浮かべた。詮索するな、といった感じかな。
「……コーリの方も納得した上で旅をしているのなら、俺は別に咎めるつもりはないさ」
「俺としては、コーリは他にやることがあるならと言ったんですけど」
「本人が旅に同行するって言ったんだろ? なら、いいじゃないか」
他ならぬコーリがうんうんと頷いている。本人が満足なら、それでいい。
「……二人とも、星神と戦う意思を示しているみたいだけど、俺から一応尋ねておくよ」
そして俺は、前置きをしてから二人へ問う。
「星神との決戦、それに参戦するのか?」
「もちろんです」
「同じく」
フィリもコーリも同意する。それで俺は小さく頷き、
「わかった。なら……俺から何も言うことはないな。王城で待っているよ」
「ルオンさんはこれからどうするんですか?」
「まだまだ行きたい所はあるからな。二人と話もできたから、このまま村を出て移動を再開するよ」
「もしかして、大陸中を駆け回るの?」
コーリからの問い掛けに、俺は笑いながら、
「いや、世界中だな」
「さすが、英雄は規格外ね」
「英雄でも規格外ですね」
コーリの感想にフィリが応じると、俺達三人は同時に笑い始めた。
その後、フィリ達と別れて村を後にする。次に向かうのは――
『村の位置を考えると、別の場所を訪れるのが適切ではないか?』
「そうなんだけど、俺としては旅して回った順番の方がしっくりくるんだよ」
バールクス王国へ戻るように移動を重ね、辿り着いたのは……風の精霊達、シルフの住処だった。
「魔界での戦い以来だな」
『うむ、久しぶりではあるが……我は逐一会話はしていたぞ』
「それは、星神との戦いに関して?」
『神霊だけでなく、精霊の力も必要だったからな』
なるほど……シルフは俺のことに気付くとあっさりとシルフの長……レーフィンの所へ案内してくれた。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです……とはいえ、ガルク様を含め裏方として色々と動いてはいました。直接顔を合わせなかっただけで、実際は星神との戦いに参加していましたよ」
もしかすると、修行の過程でレーフィンの力も加わっていたかもしれない……ま、ガルクが動いている以上、精霊……特にソフィアと契約をしていた精霊達は協力していただろうから、驚くようなことでもないか。
「そして今回、再び動こうかと思います」
「レーフィン自身が?」
「はい。他の精霊……ノームもウンディーネも、サラマンダーも……それ以外にも精霊ネレイドなど、ありとあらゆる精霊達が、星神との戦いに参戦すると表明していますよ」
「ガルク、その辺りのことは聞いていなかったけど……」
『ルオン殿が旅を始める前くらいの段階では、まだ完全に話がまとまっていなかったからな』
「つい最近、決まったことなのか?」
「はい、そうです」
頷くレーフィン。何か色々あったっぽいけど……それは語らないようだ。
「私達精霊シルフについては、ガルク様の力もお借りして戦える準備をしています」
「それはありがたいけど……いいのか?」
「ええ」
あっさりと……精霊の助力は心強いし、今回の旅でソフィアと関わった精霊の住処へは行こうと思っていたから、改めてお礼を言うのがよさそうだ。
「ありがとう、レーフィン。精霊の力、大いに助かるよ」
「星神という巨大な相手である以上、どこまで貢献できるかわかりませんが……全力を尽くします」
「ああ、でも命を捨てるようなことは止めてくれよ」
「それはガルク様からも止められていますし、大丈夫ですよ」
にこやかに……それで俺も頷き返す。
「ところで、今日は……? 事情を知らなかったようですから、協力を依頼しに来たのですか?」
「いや、単純にこれまでの旅路を振り返りつつ、色々挨拶して回ろうかと思って」
「わざわざ、ですか」
「俺にとっては、大切なことなんだ」
その言葉で、レーフィンはどこか納得するような顔を示した。
「わかりました……何か手助けできれば良いですが」
「いや、そこについてはなんとかするから大丈夫。レーフィンは準備を進めてくれ」
「わかりました」
「あ、とはいえ……だ。参戦してくれるのはありがたいけど、本当にいいのか?」
「精霊である私達に気遣いは無用ですよ」
それで終わりだった。なら、と俺もそれ以上の言及は避ける。
「なら、よろしく頼む。あ、バールクス王国の王城にはソフィアもいるし、もし準備ができたらそっちに顔を出して欲しいな。彼女も再会を喜ぶだろうし」
「はい、わかりました」
にこやかに――それで俺はレーフィンと別れた。
『ルオン殿、次はどこへ向かうのだ?』
「あー、そうだな……ソフィアとの旅で立ち寄った町とかを見て回りつつ、ガルクの所へ向かおうか。今は森にいるんだよな?」
『うむ、こちらも準備をしているからな……しかし、我と話をしているのだから、必要性はなさそうだが』
「まあまあ、いいじゃないか……というわけで――」
魔法を使用し、旅を再開した。




