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賢者の剣  作者: 陽山純樹
世界を救う者

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物語始まりの村

 ガルクと会話を交わしながら、俺はフィーントの村へと辿り着いた。ここにはカティがいるはずだけど……。


『ルオン殿としては、この村に何か思い出はあるのか?』


 ふいに聞こえたガルクの言葉に……俺は、フィリと出会った時のことを思い出した。


「…………あー」

『どうした?』

「うん、まあ。あんまり思い出したくない記憶ってやつだ」


 初手でゲーム通りに喋ろうとしたら見事に噛んだからな……精神的なダメージが回復するまでに丸一日掛かったくらいなので、俺の転生者デビューというのは最悪からスタートしたと言っても過言ではない。

 まあ、そこからはどうにか……って感じではあったけど。ちなみにこの段階ではまだゲームの主人公である五人の誰かが魔王を倒す者と考えていた……今思い返せば、その内の一人でフィリに対しては、賢者の血筋で初めて出会ったことからも、少し特別な感情があった。


 俺は村を見回す。復興は進み、俺が初めて訪れた時のような姿になっている。もちろん変化している所もあるし、村の細部には朽ち果てた家が存在していたりもするけれど、この村の人々はたくましく生きている。そこは間違いなかった。


「……あら? ルオン?」


 カティの声だ。振り向けばこちらに近寄って来る彼女の姿が。


「どうしたの? こんな所に」

「最終決戦までに、色々と見て回ろうと思って」

「そういうのは、戦いが終わってからじゃないかしら?」

「ほら、俺はソフィアと婚約していたりするし、たぶん行動が制限されると思うんだよな」

「ああ、なるほど」


 彼女は俺の説明で納得した様子。


「そういうカティは……故郷に戻るのは予想ついていたけど」

「とりあえず実家に顔を出して、魔物よけの魔法とかを色々と仕込んでいたところ……好き勝手に生きてきたし、タイミング的にも良かったから少し村のために働こうかなと」

「そっか」

「ま、戦いが終わったらたぶんどこかに仕官するかもしれないし……そうなったら家族にも楽させてあげられる。でも故郷に戻る可能性は低いから……」

「そういう話があるのか?」

「引き合いはあるわね」


 ソフィアか? でも、勧誘ということについてはどちらかというとリーゼとかがやりそうだな。


「戦いの後のことも明瞭なら、俺としても安心する」

「あら、どうして?」

「例えばの話、全てが終わった後にどこにも行けなくて……とかだったら、なんというか後味悪いだろ」

「オルディアなんかはそうなりそうだけど」

「……その辺り、ケアしておくべきかな」


 頭をかきながら応じる俺に、カティは笑い始める。


「そこまで気を遣う必要、あるかしら? 言っておくけど、ルオンやソフィア王女に付き従っているのは、あくまで自分の意思よ? そこは私も、他の仲間も変わっていない」

「だとは思うけど、死を賭して戦うんだ。それなりに良い終わりを迎えたい……仲間も含めて、と思うのは変なことか?」

「ずいぶんと気を回すのねえ」


 どこか感心したような……あるいは、呆れているのだろうか? ともあれ、カティは今まで見せなかった不思議な表情を示した。


「ま、そういうことに気を揉むなら私は大丈夫と言っておくわ」


 そこで沈黙が生じた。俺としては、仲間と出会うのであれば……絶対に言っておこうという内容があったのだ。


「……カティは、会話の中で当たり前に言っていたけど、俺から一つ確認させてもらうぞ」

「ええ、いいわよ」


 彼女は何を言うか予測しているらしい……ま、当然か。


「星神との決戦……それに、参加するのか?」

「参加してくれ、じゃないの?」

「要求したら、仲間達は頷くだろう。でも、それは俺の本意じゃない。この戦いは強制じゃないし、命令しているわけでもない」

「……そういう性格だから、人が集まってくるんでしょうね」

「どうなんだろうな」


 転生前からそうだけど、俺にそこまでカリスマ性があるわけじゃない……と思っている。無類の力を持つが故に、圧倒的な個性を発揮しているし、その力を目の当たりにして共に戦おうと考えているみたいだけど。

 とはいえ、今更ここで「俺に仲間を率いるような力はない」と言っても、否定されるだけだろうし、言うつもりはない。


「ともあれ、これでカティは参戦するってことでいいんだな?」

「ええ、いいわよ……あ、酒場にフィリとコーリもいるから、そちらへ足を向けてみたら?」

「二人もいるのか?」

「フィリにとっては全ての始まりの場所、という認識のようね。この場所を拠点にして仲間と出会い、遺跡を巡り、魔王と戦う決意をした……だからこそ、この場所に来たかったと、彼は語っていたわ」

「コーリも同じか?」

「彼女もまた、この村の出来事を通して、人生観が変わった……らしいわよ。魔王との戦いは、それだけ多くの人の人生を変えた。フィリ達についても、同じでしょうね」

「そうか」


 俺は酒場のある方角へ目を向ける。


「行くの?」

「カティはどうする?」

「私は、仕事があるからやめておくわ。そういえばルオン、今日はどうするの?」

「一泊していっても問題はないんだけど……フィリと話をしたら、村を出ようかと思う」

「そう。ならバールクス王国の王城で」

「ああ」


 カティに背を向け歩き出す。途中、村の人々が和気あいあいとしている様を見て、多くの人が未来へ向けて進んでいることがわかった。


「その未来を、失わせないようにすることが……俺達の使命だな」


 星神との戦いは、今を生きる人々を守るためのものでもある。そんな風に考えつつ、酒場の扉をくぐった。

 フィリ達は俺にすぐ気づき、卓を囲んで話を始める。カティからこの村を訪れている理由を聞かされたことを説明し、フィリは深々と頷いた。


「初心に返る、というわけではありませんけど、なんとなく思い出したかったんです。冒険を始めた最初の頃の出来事を」

「それは……どういう目的で?」

「魔王と星神……まったく異なる存在ですが、この大陸を滅するという目的はさほど変わりません。だから、あの時の気持ちを……そんな風に思ったんです」


 彼なりに、星神との戦いに際しつかもうとしているような様子だった……だから俺は、彼の言葉に対し小さく頷き、口を開いた。


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