仲間であり――
俺はまず、自分が拠点にしていた場所へ赴いた。故郷の町近くにあるそこは、ガルクに道具などを全て預けてしまったので、既に何も残っていない。
『ここに来たのは理由があるのか?』
ふいに子ガルクが現れて尋ねてくる。俺は拠点だった場所をぐるりと見回し、
「強くなる理由については今と違っていたけど、それこそがむしゃらに剣を振り魔法を学んでいた。ただ目的は自分が死なないように……だけどな」
『今は星神を倒すため……ベクトルが違うな』
「そうだな。どっちが良かったとか、悪いとかそういう話じゃないけど……今の俺は、昔みたいな必死さが薄い気がしてさ。修行も佳境を迎えて今更という気もするけど」
『初心を忘れないように、というわけか』
「……最後はそれこそ、俺が命を賭けてなんて可能性もゼロじゃない。でも、それはソフィアもガルクも、他の仲間も許さないだろう。だから、改めて最初の気持ちを思い出そうと考えてさ」
――今は、死なないために頑張るという感情はほぼ皆無だった。星神を打倒する。俺がこの世界に転生したのはそれが理由だと知って、ならばと命を賭けるつもりで戦っている。
だからもし、最後の最後で星神を打倒できるなら、俺は命を捨てるかもしれない……いや、たぶんそのくらいの勢いで戦うだろう。死ぬことはもちろん怖い。怖いが……それ以上に、目指すべきものがあるからこそ――
『確かに、最初の目的とは真逆になったな』
と、ガルクは俺の言葉に応じる。
『死なないために強くなるのと、死んでもいいから目的を果たす……ルオン殿としてはこれで最後だと考えているが故の、心情だろう』
「ソフィア達に話したけど、星神を倒してもまだ先は存在する……でも、そこについては後世に託してもいいんじゃないかって考えれば……」
『とはいえ、その考え方はあまり感心せんな』
「まあ、当然ながらそういう答えになるよな」
俺は小さく肩をすくめる。
「だからこそ、一度帰ってきたわけだが……うん、死なないよう頑張ろう」
『ちなみにだが、故郷へ帰らないのか?』
「なんだかんだで俺のことは伝わっているだろうし、大変なことになるのは目に見えているからな。全てが終わった後で、戻ることにするよ」
俺は魔法を使って移動を開始する。次の目的地は、
『ルオン殿、次はどこへ向かう?』
「旅の始まりの場所……フィーントの村だな。復興具合も気になるし」
俺はそう答えつつ進路をそちらへ向ける……その道中で、ガルクは俺に色々と話しかけてくる。
『思えば、我もずいぶんと長い間ルオン殿と組んで戦っているな。といっても、この姿である場合は戦闘面で役に立つことは皆無だが』
「こちらとしては色々と助かっているよ」
『本当か?』
「ああ……ガルク、星神との戦いが終わり、俺は次にこの世界の魔力……そのものと戦うことになる。もし俺が果たせなければ――」
『我が継ぐ、と言いたいのか?』
「ガルク自身がやらなくてもいい。ただ、後世に情報を伝えるためには、人間だけじゃなくて、この戦いの歴史を全て知る存在の力が必要だ。それはガルクが一番適任だろう?」
『我がソフィア王女と共に多くを見聞きしてきたからな……人は人で歴史を継いで、我は我の形で、というのがよさそうだな』
「頼まれてくれるか?」
『他ならぬルオン殿の頼みだ。請け負おう』
その言葉に俺は「頼む」と一言告げ、
「……なあ、ガルク」
『どうした?』
「今更、こんなことを聞くのはどうかと思うんだが……」
『急に改まったな』
「まあ、な。その……俺はガルクは、どういう関係なのかと」
『面白い質問だな』
その言葉に、ガルクは笑い声を上げた。
『しかし、一度考えてみるのも良いか……相棒、というのはルオン殿としてはソフィア王女が上げられるだろ。かといって、従属関係になっているわけではない』
「なんというか、アドバイザー的な感じが表現としては一番しっくりくると思うんだけど、味気ないじゃないか?」
『魔王や星神を打倒するために、一緒に行動している存在……では、納得いかないと?』
「仲間、という言葉が一番似合っていると思うんだけど……ガルクはどう感じている?」
『我か? そうだな……』
沈黙が生じた。しばらくの間、高速魔法を行使したことによる風切り音だけが、周囲に響く。
『……同じ志を持つ同志、といったところか』
「同志、か」
『それと共に、仲間でもある』
俺は口が止まった。そこでガルクは再び笑う。
『別に関係性を一つに絞れという話ではないだろう?』
「……参ったな。確かにガルクの言う通りだ」
『我としては、別のどのような表現でも構わないな……それこそ、友達という表現でもいいぞ』
「友達、か」
なんだかくすぐったい表現ではあるけれど、
「……望むなら、そういう表現でも構わないのか?」
『我は良いぞ。こう言うとルオン殿は眉をひそめるかもしれんが、人間の友というのも過去には存在した』
「へえ、そうなのか……と、よくよく考えればガルクはどういう風に生きてきたのか、何も知らないな」
『興味があるのか?』
「まあ、多少なりとも」
なんだか面白い話が聞けそうだし。
『そうだな……我としては別に隠しているわけではないからな。喋っても問題ないぞ』
「なら、ソフィアと一緒に話を聞かせてもらおうかな……この戦いが終わったら」
『まるで小説に出てくる文言だな』
ああ、確かに。なんかフラグが立っているような表現である。
「なら、戦いが始まる前に聞いておくか」
『我は別にどちらでも良いぞ。そもそも、そう面白いものでもない』
「神霊と人間の評価基準は絶対違うだろう。そもそも、神霊の昔話なんて、人間にとっては聞いたこともなくてワクワクする」
『大層な話でもないぞ……まあ、ルオン殿達が楽しめるのであれば、話すのも一興か』
そんな会話を行いながら、俺は昼夜問わず魔法で駆け抜ける。そういえば、こんな風に大陸を駆け巡るのも、久しぶりだ。
もしかすると、こんな風に移動するのだって今回が最後かもしれないな……そんな風に思いつつ、俺はひたすら目的地へ向け進み続けるのだった。




