俺の番
ソフィアは鍛錬の成果により、転生者かつ星神の力を受けた存在に対しても圧倒する姿を見せた。ならば次は、俺の番だ。
「ソフィア、手はず通りに頼む」
こちらの言葉に対し、彼女は小さく頷いて一歩引き下がった。事前に何をするかは打ち合わせてある。いよいよ……星神のまがい物を打倒するために仕掛ける。
ここまで戦ってきたことで、俺は魔力を分析してある程度の構造は把握した。といっても、専門家のように詳細な分析というわけではない。あくまで感覚的に……俺の剣が通用するか否か、という点について推測できるようになったくらいだ。
そしてこの分析により、俺は……アランがこちらを見た。今までと同様に魔力を収束しているわけだが、その質に疑問を持ったらしい。
『何かしているな?』
俺は答えなかった。こちらは目で相手を挑発する。解明したければかかってこい……そういう意味合いの眼差しだったが、相手はそれに応じた。
『いいだろう。ならばこちらも――』
魔力が膨れ上がった。それは大気を侵食し、上空へと昇っていくほどであり……遠方から見たら魔力が実体化して巨人に見えたかもしれない。
さらなる魔力に、世界が震える。星神のまがい物……とはいえ、アランという存在が入り込んでいる以上、これは星神そのものがある程度関与している。だからこそ、ここで仕留めなければいけない……!
先ほどまでと速力は何も変わらないまま、アランが突撃してきた。俺は反射的に相手の動きを見切ると、彼の剣を弾く。
そして再び剣による攻防が……だがこれで俺をどうにかできるとは思っていないはず。そしてこちらも、ただ剣のやりとりをするだけじゃない――
ヒュッ、と俺は左手を振った。アランが隙を見いだすには至らないわずかな動作。しかしそれで、俺の背後に巨大な光の剣が生まれる。
『魔法か……!』
そう、これは『ラグナレク』だ。俺がもっとも得意とする光魔法。それをアランの剣を弾き飛ばしたタイミングで、放った。
強烈な白い光が真っ直ぐ、アランへ向け殺到する。とはいえ向こうは星神の力を持っている。これで終わるとは思っていない――
『こんなもの!』
アランは叫びながら自らの剣で光の剣を受けた。そして、キィィンと音を上げて光がアランへ迫ろうとする。
だが、次の瞬間アランが光を振り払った。一時世界が白に満たされ、その寸前に彼の顔が攻撃を防いだことで喜悦に染まるのを確認する。
俺はそれに対し動かなかった。光を目くらましにして攻撃するという選択肢もあったが、俺の方も魔力だけを頼りに攻撃するためリスクがあった。その代わり、アランが魔法に注意を払っているわずかな時間で剣に魔力を収束させた。
それは今までとは異なる魔力……光が完全に消えてアランが姿を現した時、異変を察して口を開いた。
『何をやろうとしているのかはわからないが、剣に魔力を集めるためにわざわざ魔法を使ったというわけか』
悠然と語った後、幾度か素振りをしてアランは叫ぶ。
『だが、無駄だったな!』
「……本当に、そうか?」
問いかけと同時に俺は踏み込んだ。アランはこちらの言葉に訝しげな視線を送った後、
『ハッタリか、それとも本気か……まあどちらでもいいか!』
声を張り上げ、俺が放った剣を受けようとする。
直後、相手にとって予想外のことが起きる。俺とアランの剣が触れた瞬間、俺の刃が彼の剣に食い込んだ。しかもそれはほとんど抵抗がない――
『っ!?』
これにはアランも驚いた。途端、俺は彼の剣を両断しそのままの勢いを維持して体に剣戟を叩き込む。それは連撃ではなくたった一度だったが、彼は苦悶の表情を浮かべた。
『が、あああ……!』
痛みによって体が支配される。俺は間髪入れず追撃の剣を決めると、さらにアランの顔が歪んだ。
『何を、している……!?』
明らかに動揺している。そしてソフィアとの連携で決めた時と同じように魔力が大きく減少しているのを確認する。
俺は何も言わずさらなる追撃を加えるべくアランへ接近。ここに来て彼は選択に迫られる。こちらが一体何をしているのか解明するため時間を稼ぐか、それともこのまま応じるか。ただ先ほど俺は剣を容易く破壊した。能力を解析できなければ、対抗するのは難しいのではないか――
だからなのか、アランは後退を選択した。どうやって解析するのかは不明だが……いや、星神の力を持つが故に、分析なども可能かもしれない。
それに対し俺は前進する。なおも果敢に向かってくる俺だが、アランの目にはどう映ったのか。
俺は彼を間合いに入れると即座に一閃。アランは防御したようだが、それも平然と貫通して再度剣が体に入る。
『ぐ、お……!』
異常事態であると認識すると共に、アランの顔が歪む。ノイズのようなものが走り、人間としての形を保てなくなっているのか。
ただ二度攻撃を食らったことにより、どうやら仕組みは理解したらしい。
『そうか……! 星神という概念そのものに有効な魔力を……!』
彼の言葉は正解だった。幾度となく星神と戦った結果、俺は星神にだけ大きく効果のある魔力を収束させることに成功していた。いかに巨大であり、脅威的な存在であろうとも、そしてどれだけ魔力を取り込もうとも……本質的な部分は変わらない。そこに狙いをつけ、俺はいわゆる核の部分に大きく有効的な効果を付与したのだ。
理屈では簡単に説明できるが、さすがにこれを成しえるにはかなり苦労があった。なおかつ星神のまがい物には通用したが、本体に通用するのかどうか……ただ、魔力の収束方法を変えれば星神が質を変えても通用する。だからこそ、俺はこの能力を採用した。
そして俺の剣が、アランを追い詰める……目に見えて魔力が減っている。巨大な魔力の塊ではあるが、その底が少しずつ明瞭になってくる。俺はさらに剣を加えるべく突撃を仕掛け――アランは大きく退くべく足を後ろへ回す。
だが、それこそ作戦通りだった。
アランは俺から距離を置こうとして、すぐに失策だと気付いたらしい。顔が歪み、驚愕している……彼の背後。そこには俺との戦いに気をとられ意識の外に出ていたソフィアがいた。




