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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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疑問と使い魔

 俺は食事の後、リチャルがいる宿を訪れる。気になって食事を急いで食べた結果、店主から「慌て過ぎだろ」と言われたのはご愛嬌である。


 しかし……まさかここでリチャルの名が出てくるとは。しかもここに来て初めて対面できるというわけだ。

 宿に入りリチャルの部屋を教えてもらう。どうもパートナーと一緒の部屋らしい。


「レーフィン、悪いが隠れてもらえないか」


 部屋に向かう間に呼び掛ける。レーフィンは即座に頷き、


「わかりました。小さなガルク様と同様、ルオン様の体の中へ入ります。契約してはいませんので私の力は使えませんが、ご了承ください」

「わかっている」


 レーフィンの姿が消えると同時に、部屋に到着。ノックを行うと、パタパタという足音が聞こえてきた。


「はい?」


 扉が開く。中から現れたのは白いローブを着た女性。年齢は二十歳くらいだろうか。

 肩にかかる程度の長さを持ったくすんだ茶髪に、藍色の瞳。美人といって差し支えない人物だが、魔法使い然とした格好は個性を埋没させ、一目見た限りではあまり魅力的に映らない。とはいえ討伐によって接した町の住民達が興味を持つのは理解できるくらいに、可憐な雰囲気を兼ね備えている。


「えっと、討伐隊に参加した人、ですよね?」

「そうですが……あなたは?」


 小首を傾げ問う彼女。すると、


「そっちは町の人間か?」


 奥から歩み寄ってくる青年が一人。年齢は女性と同じく二十歳前後。彼女とは対象的に黒いローブを着込んだ黒髪の人物。右手を怪我しているらしく、手の甲に包帯を巻いている。


 一目見て、俺は違和感を覚えた。間違いなく歩み寄る男性がリチャルだろうけど……以前キャルンからリチャルについて容姿を聞いていた。それによると二十代半ばで目つきも鋭く、歴戦の勇士のような雰囲気を持っていると語っていた。


 だが、目の前のリチャルは歴戦の勇士という雰囲気もない好青年。キャルンが語っていた特徴にそぐわないような気がする。


「……魔物の討伐に参加したということで、挨拶を」


 俺が述べると、リチャルは「そうか」と応じる。


「俺の名はリチャル=アーテッド。こっちはパートナーのレテ=カイラだ」

「初めまして」

「……俺はルオン=マディンといいます」


 返答しつつ、リチャルのことを注視。


「突然来訪して申し訳ない。ただぜひとも会いたかったので」

「俺達に?」

「はい……つかぬことをお伺いしますが」


 本題に入る。リチャルはどうぞいった感じの構えを見せる。


「ある用心棒達の砦で、魔法を教えたことがありますよね?」


 問い掛けられた瞬間、リチャルは首を傾げた。憶えがない様子。


「……用心棒?」

「あ、えっと……それじゃあ、精霊ノームの住処で生じた騒動を解決したことは?」

「私達、そもそもそうした場所に行ったことないですけど」


 レテから返答が……二人の様子からして、嘘を言っているようには見えないな。


 俺が語ったことについて、彼らが行動していたわけではない様子……俺は「人違いだった」と適当に誤魔化しつつ、微妙な空気になったので改めて礼を述べてお茶を濁すことにする。


「えっと、討伐に参加していただきありがとうございます。俺は旅をしている身なので町に寄ったりすることもできず、気になっていたんです」

「この町の出身者なのか。しかも旅をしている……あ、そうだ。色々情報交換しないか?」


 リチャルの提案。俺は「いいですよ」と応じることにして、改めて考える。

 どうやらノームの騒動などを解決したリチャルは別の人物――ただ、無関係とも思えない。


 これは一体どういうことなのか……謎が生じた展開だが、言えることが一つ。リチャルという人物には思ったよりも複雑な何かが存在している、ということだ。






 俺はリチャルに加えレテと共に酒場で情報交換を始める。会話を始め五分もしたら砕けた口調に変わり……内容としては魔物の情勢とかなのだが、会話をしていてわかったことは、二つ。


 一つは彼ら自身旅をする冒険者であること。そしてもう一つは、常に二人で行動しているということ。

 また、俺が先ほど言及したキャルンのいた砦やノームの住処には行ったことがない……さらに、どうやらあの怪しげな塔とも関係がなさそうだった。


「ふむ……」


 会話を進めながら俺はリチャルを見据える。彼はレテと会話を繰り広げており……恋人ではないにしろ、仲睦まじい感じである。


 おそらく俺が見つけた足跡のリチャルとは違う人物なのだろう。うーん、彼にこれ以上訊いても収穫がないだろうというのは予測できるので、この辺りで会話を切り上げてもいいのだが……念の為、もう少し様子を見るか。


 やがて俺達は酒場を出て、町の通りを歩くことにする。


「ルオンさんはどうやら冒険者として長いみたいだけど……他に仲間はいないのか?」

「……別の場所に、今は一時的に分かれて行動しているだけだ。数日したら仲間のところに戻るよ」

「そっか」


 会話をしつつ、改めてリチャルとレテを観察する。どこからどうみても単なる冒険者。それ以上でも以下でもないため、俺が見つけた足跡の人物は単なる同姓同名なのか――そう思った矢先、


「……ん?」


 ふいに、気配。背後からだったので振り返ろうかと一瞬考えたが――中断した。

 代わりに何も気付いていないフリをする。リチャル達と並んで歩きつつ……俺は、以前にも似たような気配を感じたことがあった。


 それは――レドラスを倒した直後、地底へ潜り込んだ時のことだ。あの時も使い魔の気配を感じた。レーフィン達が気付かなかった様子なので単なる気のせいかとも考えていたが……こうして今気付いた以上、おそらくその時も使い魔がいたのだろう。


 となると、精霊達は気付かず俺だけ気付いたことになるのだが……何か仕掛けがあるということなのか? その辺りの疑問はこの使い魔を使役する人物に聞かなければわからないが――


 ともかく使い魔がいる。ただ俺が単独行動していた時点で気配が感じられなかったということは、俺自身を観察しているというわけではないだろう。となると対象は――


「なあ、ルオンさん」


 ふいにリチャルから声が。


「今後、もしかすると旅の途中で出会うかもしれないが、その時はよろしく」

「……ああ」


 頷いた俺。それ以上会話を成すことはせず、俺とリチャルは別れることとなった。

 歩き始めた直後、使い魔の動きを探ってみる。俺のことを注視しているという様子ではない。間違いなくリチャル達を監視している。


 うーん、地底を観察していた使い魔と同じ人物が放っているとすれば、リチャルを観察してその目的は一体何なのか? できれば調べたいところだが、地底で見られていたことを踏まえると、今すぐ使い魔に逃げられてもおかしくない。


 思案する間に使い魔の動きが止まった。リチャル達が宿にでも入ったからだろう。

 使い魔そのものを監視していても、魔法の使い手のところには戻らないだろう。とすると、やっぱり強引にでも使い魔に接近し、居所が探れないか調べる他ないということだろうか。


 その前に逃げられる可能性は高いよな……今のところ消える様子はないが、先ほど俺はリチャル達と接触した以上、警戒の眼差しを向けるだろう。


 ならば、どうするか――


『我やレーフィンが協力してやろうか?』


 ガルクの声だった。


「……協力?」

『使い魔だろう?』

「ガルクは気付いたのか?」

『うむ、レーフィンは気付いていないようだが、我はわかった』


 本体でないにもかかわらず気配探知能力は高いらしい。


『レーフィンの風を使いその魔力を分析。そこから我が地の力を利用すれば、相手に気付かれず居所を推測できる可能性はある。使い魔を放った人物があまりに遠方だと、難しいが』


 おお、これは心強い。


「……ちなみにだがガルク。すぐにできるのか?」

『可能だ』

「なら……早速だが頼むよ」

『承知した』

『お任せください』


 ガルクとレーフィンの声が聞こえる。それから……およそ十五分くらい経過した後、突如ガルクが話し出した。


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