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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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組織の形

 ガルク達が準備作業をしている間に、俺はソフィアと連携を確認して最終調整に入る。とはいえ、これまで戦ってきた経験と修行から、能力の行使についてもスムーズにいったため、戦闘については問題なさそうだった。


「ルオン様、擬似的な星神との戦いですが……これが終われば、いよいよ――」

「まあな。ただ、その前に一つやらなきゃいけないことがあるだろうな」


 ……屋敷の中でソフィアと共に剣を振り、俺は一つ思い至ったことがあった。リズファナ大陸における騒動を解決したことで、星神降臨までは余裕ができた。無論、この大陸にある星神へ至る道については警戒する必要性があるため、いつでも来られるよう準備はしておくが。

 ここについては、星神が夢の中に出てきたことで、その推測が補強された……というのも、俺達としてはローデンを倒してそれで終わりかどうか……実際のところわからなかったのだが、星神が登場したことで、この大陸において星神が目覚める道筋というのがはっきり消えたことが明確となった。


 他ならぬ目標とする敵からの情報というのはなんだか癪だが……ともかく、俺達としてはさらに時間ができたわけだ。これから先は、その時間で何をするのか――


「一つ、ですか」


 ソフィアは言う……時間的な制約が消えた以上、納得のいくまで研究を……と、考えているかもしれないが。


「やらなきゃいけないことは、星神との決戦の準備と対策をしつつだから……時間としては数ヶ月くらいだろうな」

「数ヶ月……?」

「星神の降臨は一度なくなった。でも、星神が言っていた。道は複数あると。様々な場所に存在していると。その中の一つに、ほころびがあったら……星神の話しぶりから考えれば、何年という単位の時間は降臨するだけのきっかけを生むだろう。世界崩壊の未来は消えているわけじゃないからな。だけど、少しの時間……数ヶ月くらいなら、余裕はあるだろ」


 ソフィアは頷く。とはいえ――


「今回の戦いで星神に関する情報を多く得た。それを基に、星神の気配を探知するような技術も開発できそうだとガルクは言っていた。これによって世界各地に警戒網を築く……それと平行してやらなきゃいけないことは、実行できるだろう」


 ソフィアは最初、眉をひそめていたのだが……やがて俺が何を言いたいのか理解したらしく、


「それには時間が必要……というわけですね」

「そうだ」

「正直、実行する必要性があるか微妙ですけど……」

「必要だよ。最後の戦い――文字通り生死を賭けた、世界の終末を食い止める戦い。時間があるというのなら、やるべきだ」


 その言葉にソフィアは最初沈黙していたのだが……やがて小さく、頷いた。

 会話と共に俺達は修行を続ける……のだが、その日は少し違っていた。屋敷を来訪する者が現れた。迎え入れるのではなく入口の鉄門近くまで来ると、そこに一人の人物がいた。


「どうも」


 ……痩せた体型の、赤い髪を持つ男性だった。黒いローブを着た魔法使い風の姿であり、その姿に見覚えはないのだが、この状況で訪れる人間は、一人しか思い浮かばない。


「ノヴァ=エーベントか?」

「その通り……初めまして、英雄」


 礼を示すと俺のことをそう呼んだ。


「今回、お礼を言いたくて来訪しました」

「それはいいんだが……」


 俺は彼の後方に複数人の騎士がいるのを認める。どうやら監視付きか。


「その様子だと、良い結末ではなさそうだな」

「……どのような経緯であれ、組織『星宿りの戦士』が事件を起こした以上、私も咎を受ける必要性があります。元より、様々な貴族と結託して情報集めをしていたといったこともありましたし、相応の罪に問われるでしょう」


 当然だ、という風な顔つきで彼は言う。そこで俺は、


「あんたは組織存続を最優先にする、と言っていたが……王都を脅かすほどの大騒動だ。さすがに――」

「そうですね……とはいえ、国側は組織に対し非常に寛大な措置をとりました。こうしてあなたと話ができるのも、その一つ。私についても、事件とは関係ないと判断されました。場合によってはローデンが私に罪をなすりつけた可能性もありますし、私としては救われたと見るべきなのでしょう」


 そうノヴァは俺へ語る。


「組織そのものは、さすがに見過ごすことはできない……王女を始め、王族の方々が私達との交渉をしても、さすがに執政を行う者達から非難の声が出るのは当然の話です。騒動が生じる前であればまだ……いえ、ローデンの所業を考えると、存続そのものは無理でしたね」

「けれど、救われるような結末だったと」

「ええ……組織が培ってきた資料などは国の研究機関が引き継ぐことになりました。とはいえ、星神という存在は非常に危険。よって、当面の間は調査を禁じると」


 禁止……当面というのはたぶん、俺達の戦いが終わるまで、ってところか。


「構成員の者達については、身辺調査などを行い問題ないとわかれば別のギルドへ転属するか、国の管轄となった組織に入るか決められるそうです。とはいえ、決して良い待遇ではないでしょう。遺跡調査などはしばらくできませんし、これだけの騒動を引き起こした組織の情報を引き継ぐ……組織に所属する意味もなくなり、人は離れていくでしょう」


 残念そうな表情をするノヴァ……しかし、その目の奥にはまだ希望は残っていた。


「ですが、組織の成したことは残ります。いびつな形ではありますが、私達は組織としての形を保つことができた」

「情報という形で、か……」

「ええ。英雄ルオン、こうして顔を合わせるのは最初で最後……ぶしつけなお願いとは思いますが、最後に一つ」

「ローデンの残したものについてはきちんと後始末するさ」


 その言葉にノヴァは少し驚いた顔をした後……小さく頷いた。


「ありがとうございます……それと、あなたにこれを」


 ノヴァはそう言って俺に紙束……何かの資料を差し出した。


「今回の戦いにおいて、少し情報を。役に立つかどうかはわかりませんが」

「どうも、後で読ませてもらうよ」

「はい……本当に、ありがとうございました」


 そう言い残して彼は騎士と共に去った……彼はあくまで組織存続を優先した。それは結局叶わなかったが……彼自身、後悔はなさそうだった。


「ルオン様、それは……」


 資料を見てソフィアが言う。俺は受け取った紙束を見据え、


「……訓練はここまでにして、資料を読むとするか」


 そう言って、俺は屋敷へと歩き始めた。


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