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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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星神への道

 目をつむり、すぐに眠りにつくと――俺は見知らぬ場所にいた。意識がはっきりしているため、賢者が見せる夢かと思ったが、違う。

 それはどこかの平原……ただ、四方にどこまでも広がる、ひどく殺風景な世界。上には綺麗な青空があるのだが雲がなく、じっと見据えているとまるで吸い込まれるような気分になってくる。


 視線を平原に戻すと、正面に人がいた。その姿は、幾度となく見覚えのある――


「何の用だ?」

「そんな言い方しなくてもいいだろ?」


 相手は、俺自身の姿……現実でも相対したことのある、星神だ。


 より正確に言えば、星の奥底にいる本体から離れたカケラのようなもの……ただ今回は夢の中だ。ローデンやら人工的な星神やらと関わったため、姿を現したということか?


「ま、別にいいけどね。僕は用件だけ伝えてさっさと去る気でいるし」

「用件……?」

「そうだ。事の顛末を知りたいだろうと思ってさ。ローデンという人間が、何をしようとしていたのかを」


 それを、話すだと……? 眉をひそめる俺に対し、星神は小さく肩をすくめた。


「先に言っておくけど、善意ではないよ。むしろ、この事実を知ることによって、どう反応するか見たいだけだ」

「悪趣味だな」

「僕がそういう存在であることは、君も承知しているだろ?」


 俺は無言で相手を見据える。夢の中である以上、剣を抜いてもまったく意味はない。俺は呆れたようにため息をつき、


「さっさと言って解放してくれ。俺としては仮眠でも眠る以上、しっかり寝た気分になりたいわけだが」

「ワガママだねえ……ま、いいよ。単純に言えば、この王都……というより、この国には僕の本体を出現させる道が存在していたんだよ」


 道……? 内心で疑問に思っていると、星神は解説を続ける。


「僕という存在……つまり星神と相対するには二つ方法がある。一つは物理的に地底内に侵入し、対峙すること。もう一つは、星神という存在を地上へもってくること。前者はそもそも、本体の位置がわからなければ無理だ。ローデンは当然知らなかったから、後者の選択をとるしかなかった」

「それが……この国の騒動を利用することか」

「そう。ローデンと君の違いは、転生した際の知識量だ。彼の方は、世界が崩壊するまでの過程を知っていた。対する君は、知らなかった」

「この国の騒動……エメナ王女にまつわることだけ、しかも最初だけだな」

「そう。もし君が事細かに知っていたら、もっと戦いは単純なものになったはずだ」


 それはどうだろう、と俺は心の中で呟く。確かに全てを知っていた方が良かったかもしれない。ただ、この大陸には俺以外の転生者がいた。なおかつローデンという存在は物語の中では例外的な存在であった以上、深く物語に介入していれば、俺達の存在が見つかっていたかもしれない。

 けれど俺は、物語を知らないが故に可能な限り自分達の存在を隠して行動していた。結果的にそれがローデンの作戦を破る決定打となった。


「どういう経緯にしろ、君はローデンを倒したわけだが……彼のやっていたのは、その道を生み出すためのものだ。王都に眠る力……道を引き出す扉を、解放していく。重要施設を狙っていたのはカモフラージュで本命は公園と、王城にある霊廟だ」


 やはり、か。あれだけ戦力を投入していた以上、あの場所こそ狙いの一つだったわけだ。


「公園と霊廟……本来は国の騒動でその二つに問題が生じ、道を開通するきっかけが生まれた。後は、どういうやり方にせよ……そうだね、何かの拍子で扉が開くなんて状態になっていたかな」

「それをきっかけにして、お前が地上に現れると」

「そういうこと」


 にこやかに語る星神……俺と同じ顔であるため、非常に気味が悪い。


「僕を模した存在は、その扉を無理矢理こじ開ける方法の一つ……似たものを地上に生み出すことで、物理による干渉で道を繋げようとした」

「どういうやり方にせよ、王都は無事で済まなかったわけだ」


 今回の戦い、犠牲を誰も出さずに済んだのは何よりだ。


「つまり、もうこの場所でお前が出てくる可能性はなくなったわけだ」

「そうだね……ただ君は、警戒しているね。道なんてものが見えないながら存在している以上、他に可能性があるのではないか、と」


 図星だった。けれど俺は表情に出さず、相手の言葉を聞き続ける。


「まあ心配するのは自由だから、とやかく言わないことにしよう……で、道については元々この王都にあった。というより、道のある場所に町ができたと言うべきか。世界にはそうした場所がいくつもある」


 意味深な笑みを浮かべる星神。こいつは何か……俺がどう反応するか期待しながら、話を続けているというわけだ。


「この大陸における戦いは、間違いなく君の勝ちだ。後はローデンが残したものを始末すれば終わり……とはいえ、だ。そこから君はどうするんだい? このまま僕との決戦に来るのかい? ただしそれは、道を結局結ぶことになるよ」


 俺は星神を見据える。自分自身の姿であるため、鏡のようだが……。


「問題はどこでやるか、だ。僕は一つヒントを教えた。僕と戦うには……地底に来るか、道を自らの意思で作るしかない」

「なるほど、な……」


 つまり、情報を教えてどういう選択をとるのか見たいというわけだ。この場所で戦うために準備をするのも面白いし、まったく違う場所を探し回る姿もまた一興。地底を目指すなんてことも、どんな姿が見られるのかと興味がある。

 そしてこいつは、ローデンがやろうとしていたことを同じようにできるのか、と問い掛けている。彼の手法と比べれば、手荒なマネにはならないだろうが、この王都にある道を使うとすれば、当然王都の人々が危機に晒される。


 俺は星神が降臨した直後の状況などはわからないが……この王都が相当悲惨な状態になるのは予想はできる。


「……僕を探してさまようのか、それともこの場所で決着をつけるのか」


 そして星神は、俺に笑みを向けながら語る。


「楽しみにしているよ……君がどんな選択をするのか。ま、その前に僕のまがい物を壊さなければいけないけどね――」


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