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賢者の剣  作者: 陽山純樹
星の神を求める者

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荒唐無稽

 俺はローデンを見据え、どのタイミングで踏み込むか逡巡する……魔力無効化という状況下だが、この建物内には魔力がある。加え、相手は転生者……ヴィムの言葉が頭をよぎり、問い質したい衝動に駆られるが、それをどうにか堪えて攻撃する機会を窺う。


 ここで倒さなければ、戦いは終わらない……現状、こちらの勝利は確定しているようにも見えるが、まだ抵抗手段が手段が残されているかもしれないし、逃げられたらここまでの戦いが水泡に帰す。何か策があるのならそれを見極めたいところだが――


「警戒しているな。同じ転生者ならば当然か」


 ローデンは俺の態度を見て察すると、両手を挙げた。


「ほら、降参しているぞ」

「……さすがに、信用できないな」


 応じつつ、俺は目を凝らす……徐々に、この空間内にある魔力について、わかってきた。

 これはカティが観測した地下から発せられているもの。ローデンがそこにいて俺が来たから上がってきたと考えると……むしろ、本命は地下か?


 ローデンが倒れても、何かまだ……思案している間に、相手は笑い始めた。


「気はまったく緩まないか……その予測は正解だ。私が死ぬと発動するようになっている」

「地下の魔力が……か」


 気配を探ると、地下に明瞭な気配……魔力無効化はあくまで町中を想定して発動しているもの。さすがに相当な地下の場合は、効果が発動しない。


「魔物でも作り出したか?」

「そのようなもの……と、言いたいところだが別に話してもいいだろう」


 ローデンは、肩をすくめる。どこかあきらめような、それでいてこちらの戦いぶりを評価するような、不思議な表情だった。


「端的に言えば、そうだな……星神の縮小版だ」

「何……?」

「星神から力を受けて作成したわけではない。言わば擬似的な星神……精霊ウィスプを媒介にして、この世界……星の中心に存在する存在を模倣した」


 そういえば、精霊ウィスプについては姿が見えなかった。魔力無効化空間内では精霊であっても戦闘能力は皆無だが、まさかそんなことが――


「これは、精霊が望んだことなのか?」

「当然だ……と、言いたいところだが、実質だまし討ちに近いな。力を得るという名目で協力してもらっていた手前、何か報酬が必要だった……確かに彼は力を得た。もっとも、精霊としての理性を残しているかはわからないが」


 相当やり方が無茶苦茶だ……そこで俺は、ここまでの戦いを思い出す。


「突如漆黒をまとった人間がいたが、それは――」

「研究の一端だな。とはいえ、人間が持っている魔力ではあれが限界だった」


 肩をすくめるローデンに対し、俺は無言となった。ここまでの話を聞くと、


「星神を降臨させてどうするのか……ヴィムから聞いたが、その真偽まではわからない。だが、わかることが一つだけある……どんな非人道的なことをしても、目的は必ず遂行するって腹づもりだな」

「その通りだ。この手は最終手段でしかなく、私もまた倒れ伏す最悪の結末だが……それでも、星神を降臨できる道筋は作り、後を託せる」

「そうまでして、星神を……?」


 ヴィムの言葉を信じれば、彼は……とはいえ俺としては本当かどうか疑わしいと感じているが。


「ヴィムから聞いたのか? 半信半疑だろうが……誰かが、星神の降臨は果たさなければならない」

「何を……言っている?」

「星神を倒す、という案も考えたさ。しかし、あの強大な存在をどう打倒するのか……それこそ、この世界の者達が総出で戦わなければ無理だ。そんな荒唐無稽な話、あるわけないだろう?」


 俺はローデンの話をただ聞き続ける……無言に徹する。


「だから、人類……それだけではない、この世界に暮らす存在を生き延びさせるには、誰かが星神から力を得て、新たに世界を創り出すしかない」

「だから、降臨させると?」

「そうだ……だからこそ、こうまでして面倒な策を用意した」


 ローデンは語る……詳しいことは話していないが、俺は彼がどのように考えたのか、おおよそ理解できた。

 星神が降臨するというシナリオ自体は、賢者が見た未来を考えれば確実だ。例えどんな道を辿ろうとも、星神は地上に現れる……そこにローデンは星神側の存在として立とうとした。それによって、星神から力を得ることができる。その力を用いて、世界の創造を行おうとした。


「……星神から得る力は、あくまで星神由来のものだ」


 俺はローデンに対し、問い掛ける。


「本当にそれが、世界を創造できるものになるのかはわからないぞ?」

「当然だ。しかし、他に手はなかった……強大な敵に必敗とわかっていながら挑むのか、迎合して力を得て、この世界を作り直すか……二者択一だ。どちらを選ぶかなど、明瞭だろう?」


 俺は何も答えなかった。もし同じ状況であったなら、俺もその選択をとっていたかもしれない。


「星神の降臨は絶対だ。例えこの国の内乱を止めたとしても、必ずどこかで降臨するきっかけが生まれる。それは例え、どれほど抵抗したとしても動かない事実だ」

「そうかも、しれないな」

「だからこそ、私は選んだ。自らを創造主として……などと言えば誇大妄想も甚だしいが、それでもやらなければならなかった」

「なぜそうまでして、遂行した?」

「知っていたからだ。全てを」


 ――彼は、彼がとれる最大限のことをやった。その結果、星神に与する形となった。


「……言いたいことは理解できた。だが」


 俺は剣の切っ先をローデンへ向ける。


「それが崇高な理由にせよ……この国で罪を犯した以上、償ってもらわなければならない」

「失敗すれば極刑も覚悟の上だ。今更その点を追求されてもなんとも思わないな」


 決然とした物言いに俺は目を細め……剣を構え直した。


「なら、ここで終わりだ」

「星神の縮小版……それに勝てる策はあるのか?」

「どうだろうな……だが、俺は」


 ローデンに言う……彼の言説を真っ向から否定するように。


「俺は……俺達は、星神と戦う術を持っている」


 その瞬間、ローデンは手をかざそうとして――こちらの方が反応が早く、一歩踏み込んで剣を放った。

 頭部に一撃が入り、ローデンは倒れ伏す……そうして、ようやく王都での戦いが終わりを告げた。


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