最後の気概
俺は騎士へ伝達し、鏡の破片について探し回ったのだが……これが結構な数見つかった。
これほど仕込むこと自体、相当大変だったはずだが……そもそも、この王都でローデンは入念な準備をしていたことになる。
冒険者達をしっかり潜ませていたこともあるし、間違いなく乾坤一擲の作戦だっただろう。でもそれを俺達が真正面から潰した……敵としては盤石な態勢を築いたはずだが、俺達の能力が見立てより高かったため、現在のような戦況になっているわけだ。
そして、鏡の破片は……大通りの一角とか、重要施設周辺に点在していた。さすがに何十個も同じ場所で見つかるようなことはない。公園についても五ヶ所……広さを考えれば、公園全体をカバーしているわけではない。
ただこれは、仕方のない話ではある。そもそもこの道具の目的はちゃんと作戦が遂行されるかを確認する意味合いがあったのだろう。まさか敵との戦いを観察するなんて用途はなかったはずだ。
破片が置かれている場所も、重要施設へ攻撃できているか確認するような意味合い……つまり、当該の場所を見渡せる、もしくは作戦で用いるルートに沿って置かれている感じだった。だからこそ、敵の動きなどから破片の場所を推測して回収できたのだが……、
「さすがに全部は無理そうだな……」
俺は一度公園に戻ってきて、仲間に回収し革袋に詰めた鏡の破片を見せる。袋、といっても抱えるほどではなく、精々スーパーのビニール袋くらいの物。
どれほどの数があるのか全容をつかむのは難しいため、目をある程度潰したとしても全てではないだろう。とはいえ、こちらがやっていることは相手にも伝わっているはず。ローデンとしてはどう動くのか。
「時を止める魔法については……発動時間に限界があるだろうし……いや、むしろ解除して場を混乱させるか?」
ただ、残る戦力だってほとんどないだろう。ローデンが孤立しているような状況だとしたら、あえて魔法を解除して場をかき回す手段をとるか。それとも――
「……ん?」
その時、俺は回収した破片の中に一つ、違和感を抱いて手に取った。それは他の破片と見た目は変わらないのだが……、
「クウザ、見てくれないか」
呼びかけると彼が近寄り、俺が持っている破片を見据える。
「ふむ……他の破片とは明らかに違う」
俺が彼へ渡すと、クウザはじっと観察。それに触発されたか、カティもまた近づいてくる。
「魔力の質が違うわね」
「もしかすると、これは……」
破片を色々と調べていると……ふいに、カティが魔力を手のひらに集めた。魔力無効化の状況ではあるが、攻撃的なものではないため通る――次の瞬間、
「っ……!」
わずかな声と共に、カティは顔をしかめた。
「大丈夫か?」
「ええ……ルオン、敵の居所について、おおよそわかったよ」
それはもしや逆探知が――驚いているとカティは破片を袋へと戻し、
「敵が気づいているかはわからない。場所を教えるから――」
「わかった。カティ達はここで待っていてくれ」
「俺は後で追う」
オルディアが言う。後詰めがいると心強いし、クウザも「オルディアと一緒に向かう」と言ったため、俺は承諾しカティに場所を教えてもらい、走り始めた。
魔力強化を用いて最大限速度を上げつつ、俺は現場へと急行する……当該の場所はどうやら地下。ただそれは地下一階や二階というレベルではない。この町の、相当深い位置にいる。
「これも、予め作ったってことか……!」
さすがに下水道があるにしても、その深さは必要がないほど……何から何まで用意周到なローデン。けれど、俺達の能力が……まあ、ゴリ押しと表現してもおかしくない攻撃により、作戦全てがもろくも崩れ去った。
正直、時を止める魔法を発動した時点で作戦は確実に成功しただろうし、ここまで用意する必要性はどこにもなかったが……そもそも、この国の内乱によって星神は降臨する流れだった。けれどそれよりも先に捜査の手が伸びる……気取られていると悟り、準備をしていたわけだが……いや、もしもの場合に備えてこうしたプランを用意していたということだろうか?
「だとしたら、用意周到どころか……妄執だな」
何が何でも星神を蘇らせようという執念。そういったものが垣間見られる。念には念を入れる、というレベルではない……邪魔者が現れたとしても、さすがにこれほどの準備なら……まあ、敵に転生者がいると想定したのかもしれない。そうであれば、これほどまでの準備について納得がいく。
だが、全てを俺達が破った……残るはローデンだけだが、それでも油断はできない。ここまで作戦を組み立てた相手だ。まだ何か……残されているかもしれない。
あるいは、この全てが囮なんて可能性も……俺達はまだ敵の狙いが何であるかおぼろげにしかつかんでいない。なぜ重要施設や公園を狙ったのか、不明なままだ。よって、最後の最後まで気は抜けないし、相手を捕まえるまで、集中し続けなければいけない。
俺は当該の場所へ辿り着く。そこは見た目、単なる一軒家。大通りにほど近い建物だが、玄関口に看板があった。空き家と書かれている。
「密かに潜り込んでいたというわけか」
俺は扉を開ける。中に入ると明瞭にわかる……微細な魔力が存在している。魔力無効化で相殺しきれないだけの量が、この建物の中に……気配を感じ取る。リビングへ入ると、そこにローデンが……分身とまったく同じ姿をした彼が、立っていた。
「完全に……してやられたな」
ローデンは言う。俺は剣を抜き、相手を見据える。
数歩で間合いに到達する距離。迎え撃つための準備くらいはしているだろうが、魔力を噴出して無理矢理突破することはできる……いや、そもそも本物かどうかわからない。カティが観測した際は地下にいたわけで――
「目の前にいるのは、紛れもなく本物だよ」
心を読むかのように、ローデンは発言した。
「全ては……君達の力を侮っていたのが原因か。まさかヴィムすら一蹴されてしまうとは……そうであれば、こちらが勝てる道理はない」
「そうは言っても、まだ諦めてはいないな」
俺の言及にローデンは見返す……その瞳には、間違いなく最後まで抵抗しようという強い気概が込められていた。




