観察手段
「まずは、ローデンについて一番の疑問を解決すべきか……相手はこちらの動向をどうやって探っているのか」
「使い魔を用いてじゃないのか? 俺と同じく」
「ルオンさんのように使い魔を飛ばしているなら、ルオンさんの使い魔が捕捉してもおかしくないだろ? つまり、同じ手法ではない」
クウザはそこまで言うと、腕を組んだ。
「魔力を経由して潜伏場所から観察しているとしたら……」
「逆探知とかできるかもしれないと。それが可能かどうか不明だけど、少なくとも相手の目を潰すのは効果的だな」
言いつつも……それがかなり困難なものであることは予想できた。相手がどうやってこちらを観察しているのか手法自体わからない。何のヒントもなく探すのはかなり大変だ。
俺が町中を回って捜索している時も、怪しい物は何もなかった……いや、より正確に言えば魔力探知に引っかからなかったというわけだ。つまり、
「これは推測だけど」
俺はクウザへ述べる。
「相手は俺みたいに常時使い魔と連携しているわけではない……なおかつ、それ自体が魔力を多大に発しているわけではない。少なくとも、魔力探知できないレベルだ」
「ほう?」
「俺が町中を巡って、人は見つけても敵が仕込んだ物とかは捕捉できなかった以上、そういう結論になる。クウザの言う通り動く使い魔じゃないだろうし……」
「そうだな」
「だとしたら、例えば町中を観察できる道具なんかを仕込んで、見たい場所に魔力を当てて……とか、そういう手法だったらありだな。魔力無効化はあくまで攻撃的なものをはね除ける性質だから、害のない魔力は飛ばせるわけだし」
例えるなら、監視カメラみたいな感じだろうか……俺は言わばドローンのような物を飛ばしてあちこち見て回っているわけだが――
「ふむ、それならここまでの戦いについても説明がつくな」
と、クウザは何やら確信を得たらしい。
「ここまでの戦い……もし敵側が完璧にこちらの動向を把握していたら、もっと早い段階で転生者が出てきてもおかしくなかった……ルオンさんのことを知っている人間がいた以上、ソフィア王女を始め、賢者の血筋であるフィリ達やその仲間については、一目見たら気づいたはず」
「ああ、それは間違いないな」
「しかし、最初相手はそうしたこともわからないまま交戦した……ってことは、観察していてもどういった人物がいたのかなんてわからなかった……ってことにならないか?」
「単純にローデンにしか状況が把握できず、伝えるのが遅れたなんて可能性もあるけど……まあ、少なくとも敵がこちらの全てを把握し切れていないことは、ここまでの戦いでわかる。観察している場所が限定されているなら、今の戦局になるのも納得できる」
俺は答えつつ、周囲を見回す。せめて何かヒントになるものがあれば……。
「現在の状況を維持すれば、どうなる?」
ふいにオルディアが問い掛けてくる。そこで俺は、
「時を止める魔法……この効果がどこまで続くかで、立ち回りが変わってくるな。そもそもこれほど大規模な魔法を維持するための魔力についても出所がわからないし……」
「魔力無効化については?」
「現状解除することはできないな……少なくともローデンを捕まえない限りは。仮に時を止める魔法が途切れたとしても、相手に無茶をさせないために魔法は維持する必要がある……とはいえ、攻撃的なものだけを弾くといっても魔力無効化を維持することで問題も出てくるだろう。だから、可能な限り早く元通りにしたいところだけど……」
「ローデンさえ捕まえれば、ってことだな」
シルヴィは言いながら、辺りを見回した。
「ただ、ボク達は役に立たないな」
「この公園を守ってくれればいいさ……俺が動いたことで、かなりの戦力を削いだはず。ここにみんなが留まってくれれば、相手に何かされる可能性はほぼなくなるだろ」
「……結局、敵の目的はわからずじまいね」
カティが発言。そこについてどこまでも引っかかるわけだが、
「さすがに時を止め、多数の仲間を率いて仕掛けた以上、ローデン一人だけでは何もできないはず……目的がわからなくとも、敵の目論見は防げたはずだ」
「そうね……ルオンはこのままローデンの捜索を?」
「ああ。でも町を一通り回った後だからな……ここからくまなく探すとしたら、どれだけ時間が掛かるのか……」
さて、どうするか……その時、あることに気づく。ロミルダが忙しなく辺りを見回している。何か気になるところがあるのかと、口を開こうとした時、
「……ねえ」
「どうした?」
「なんだか視界が……キラキラしているというか」
「キラキラ?」
首を傾げつつ、ロミルダが違和感を覚えているようなので、俺は目を凝らしてみる。
すると……確かに、視界の端に光がチラつく。単なる光の反射……と言えばそれまでだが、
「……ふむ」
クウザもまた気づいたか、公園の茂みに近寄った。
「なるほど、そういうことか。ルオンさん、敵が何を用いて観察していたのかわかったぞ」
「え、本当か?」
俺が驚いている間にクウザは茂みに手を突っ込み、何かを手に取った。
「おそらく、これだ」
そして俺に近寄り見せたのは……、
「鏡……か?」
より正確に言えば鏡の破片。それがどうやら、茂みの中にあったらしい。
「光が見えていたのは、太陽が動いて反射したため……逆に言えば、太陽の光が当たるような場所に、これが置かれていた」
「単なるゴミという可能性もあるけど……」
と、口にしてから俺は内心で否定した。わずかだが、魔力を帯びている。それは手に取ってみないと気づかないほど微細なもの。町中駆け回っていても、絶対に気づくのは無理というレベル。
「鏡……というより、これを触媒にして景色を見ていたと」
「そうだ」
定点カメラみたいな感じだな。予想はおそらく当たっていた。
「これを利用して、居所を探れないかな? いや、まずはこれを集めるところから、かな」
「そうだな。その中に、相手の居所をつかめる物が見つかるかもしれない」
「なら――」
俺は呼吸を整え、仲間へ告げる。
「騎士に頼んで、手分けして探し回ってみるさ――」




