目覚めさせて――
ドサッ、と転生者ヴィムが俺の斬撃を受けて倒れ伏す。まだ意識があるのか身じろぎしているが、痛みによるものであるためかすぐには立てない。
「……ローデンによれば」
そしてか細い声で、彼は言う。
「星神を目覚めさせ、世界を崩壊させ……その上で、今度こそ星神を消すべく動くと」
「……目覚めさせて、消す?」
「星神が降臨するのは、力を得てだ。大気や大地……そうした魔力が長い年月を掛けて結集し、地上に現れる。星神を倒すのであれば、そうした力を放出し、弱まってからだ」
「ローデンも、俺達とやり方は違えど星神を倒すために動いていたと?」
「本人はそう語っていた……もっとも、星神の力を取り込むため、味方を引き入れる方便かもしれないけどね」
方便、か……ローデン自身がどう考えているのかわからないが、もしそういう考えであったのなら、場合によっては共に戦っていたかもしれない。
そしてヴィムの口上からすると、
「最初から、あんたは星神の力を目当てにして仲間に入った……というわけではなさそうだな?」
「少なくとも僕は、最初戦う道を探していたさ。でも、星神の力を目の当たりにして……いや、実際に見ているわけではないから少し違うな。ともかく、その一端を知った……結果、僕はローデンのやり方に従うことにした。あれは、人の手でどうにかできる存在じゃないとね」
ヴィムはぎこちなく……ゆっくりと起き上がる。ある程度加減はしたにしろ、確実に動けなくなるほどの威力だったはずだが、それを耐えたのはやはり転生者だからこそか。
「世界の終末を見た後、新たに創生する……僕はそのやり方を信じてここまで来た」
「……ローデンに従う仲間は、そういう考えを持つ人間が多いのか?」
「そうでもないよ。単純に星神の力を体感したい人間とか、あるいはローデンの能力に惚れ込んで付き従う人間もいる。僕は大役を任されていたにしろ、少し距離を置いていた人間だ。転生者であり、このやり方が正しいと信じた……ローデンのやり方に文句がないとは言わないけど、最後まで付き合おうとは考えていた。だから、味方になるなんて思わないで欲しい」
そして立ち上がる。まだ剣を構え、俺と戦おうとする意思が見える。
「立場上、最後までやらせてもらうよ」
「……わかった」
ヴィムの魔力が弾けた。それは紛れもなく、これまでで最高。魔力無効化があるなどとは到底思えないほどの、魔力の爆発だった。
俺はそれに、同じような魔力の放出で応じた。剣が激突し、魔力が建物の中を駆け巡り……キィン、とヴィムの剣が耐えきれず、俺の刃を受けて半ばから両断された。
「……見事」
再びヴィムは倒れ伏し……今度こそ、動かなくなった。
「倒した、か」
――最後の言葉、もし本当であれば俺達は並び立って星神に挑んでいた可能性もあった。けれどローデンの真意はわからないし、この王都でこんなことをしでかした以上、許すわけにはいかない。
俺は即座に気持ちを切り替えて、ヴィムの状態を確認。気絶しているため、ひとまず騎士に任せたいところだが……、
と、建物の中に騎士が入ってきた。物音がしなくなったため様子を見に来たらしい。俺は騎士にヴィムのことをお願いして、外に出た。
「さて、後はローデンを探す……だな」
どこにいるのかまったくわからない状態だが、力技で探すことはできる……それ以上に効率の良い手段がない以上――俺は、時が止まった町中を、走り始めた。
そこからは――ひたすら敵を見つけて倒していく、という作業を延々繰り返した。
とはいえ時間はそう経っていない……戦闘開始から、およそ二時間ほどだろうか。その時点で俺はヴィムを皮切りに多数の戦士を倒した……正直なところ、ヴィムと比べて技量的にもそう強くない者達ばかりだ。
いや、より正確に言えば彼に近しい人はいたかもしれない。けれど俺の能力についてこれる存在はいなかったし、魔力無効化の空間で魔力を発することはできても俺の能力については対処できない……その実力差によって、俺は対処できたというわけだ。
町中を捜索していて気づいたこととしては、ローデンの指示によって潜伏していた人員が予想以上に多かったこと。それこそ、最初に施設を襲撃した人間に匹敵する人数が……時を止めるなんて魔法を使い、なおかつここまで人員を集結させたというのは、驚嘆に値するし、またこの作戦の重要度も窺える。
肝心の転生者については……ヴィム以外の人間から得られる情報もないだろうと判断したし、そもそも捕まえてから尋ねることもできる。よって、俺は彼以降遭遇した敵は問答無用で倒していた。その結果短時間で敵を倒すことができたというわけだ。
ただ、肝心のローデンの姿がどこにもない……一通り探し回ったのだが、見つからなかった。
「ひとまず町を回ってみたんだが……」
「この短時間で敵を倒し、町を回るとは……」
苦笑するオルディア――現在俺は公園に戻り、仲間と合流を果たした。
「倒した人間は騎士に任せたのか?」
「ああ。人手が足らないかな……と思っていたが、近隣から騎士を王都へ戻していたらしく、とりあえず人員的に問題はないらしい」
「そうか……しかし、ルオンさんが探してもいないとなれば、逃げたか?」
「その可能性も考慮したけど……少なくとも町の外に出た形跡はないな」
使い魔でチェックはしているけど、ローデンの姿はない。
「探したりないか、あるいは俺の探知魔法で引っかからない処置を施しているか……」
「ローデンについては、能動的に探すしかないな」
と、クウザが俺へ話しかけてきた。
「彼を捕まえなければ、戦いは終わらない。この時を止める魔法についてなど、彼の口から話してもらう必要もあるからな」
「そうだな……見つからない限り、魔力無効化を解くわけにもいかない」
このままずっと時を止めているのもまずいし、早期に発見したいところだが……どうにかしてローデンを見つける方法を考えなければいけない
「クウザ、何か案とかあるか?」
なんとなく話を振ってみると……彼は一つ俺へ向け提案を行った。




