彼らの敗因
俺とヴィムは真正面から激突し……最初打ち合った瞬間、凄まじい魔力が拡散し、瞬時に霧散していく。けれど魔力無効化では消しきれないほどの魔力が、部屋をわずかな時間満たした。
剣術勝負であっても、負けない……そう思いながら打ち合ったが、この時点で理解できた。彼の力は紛れもなく本物――俺と同じような領域にいる存在だ。
そして、俺と彼とでは共通点がある……俺は魔王を打倒することを目標としていたが、ゲームでルオンを仕留める存在の敵……それと遭遇せず、魔王と直接戦わないなんて選択はとれた。けれどしなかった。それは何より人々を救いたいという意味もあったが、それ以上に自分の力を証明したいという考えを持っていた。
ヴィムについてはどうか。俺と同様、未来がわかっているにしろ竜と遭遇する必要はなかったはずだ。けれど彼は、それを真正面から打ち破った。それは俺と同様、力を証明したい面があったはずだ。
未来がわかっていたからこそ死に物狂いで強くなり……今、俺と対峙している。魔力無効化空間であるため、双方が全力を出すというわけにはいかないが、果たして――
「ふっ!」
声と共に放たれるヴィムの斬撃を、俺は無言で受け続ける。まずは相手が攻勢を掛けている。ラッシュにより俺を仕留められないか……そんな気概が見て取れる。
こちらはそれに応じつつ、相手の動きや魔力を観察。可能な限り能力を看破しようとする……そして問題は、彼のようにフラグをたたき折った転生者がローデンと共にいるのかどうか。
俺は頭の中で『エルダーズ・ソード』のシナリオやキャラについて、剣を切り結びながら思い出してみる。ルオンやヴィムのように、フラグによって死んだ人間というのはまだいる。死を回避するために強くなったのであれば、俺のように無茶苦茶な強さを持っていてもおかしくはない。
ではヴィムについては――なおも押し込む彼の剣戟を俺は次々といなしていく。金属音がどこまでも鳴り響き、室内を満たすが……少しして、ヴィムは一度後退した。俺は追うことなく相手を見据え、次の動きを読もうとする。
「どうした?」
「……そちらがどういう過程を辿り、ここに来たのかは知らない」
やがてヴィムは、俺へ向け口を開く。
「だが、少なくとも賢者の血筋と共に……いや、従えてという表現が良いかもしれないな。星神と戦うため、仲間を集めここまで来た。僕らにとっては最大の障害にして、壁」
「俺達を倒せば、星神は降臨するが……そうはさせない」
「ここまでの攻防、まだ加減をしているだろ?」
問い掛けに俺は無言。実際は相手の力量を見極めようとしているため、受けに回っている形だが……。
「どういう道筋を辿り、そこまでの力を得たか興味がある。まさかただ、死の運命を回避するためだけに、力を得たわけじゃないだろ?」
「最初は、そのつもりだったんだがな……」
口の端に笑みを浮かべると同時、今度は俺が仕掛けた。一歩遅れてヴィムは応じ、こちらの剣を完璧に受け止める。
剣術面においては、達人級なのは間違いない。長期戦に持ち込んで疲れたところを、なんて作戦は通用しないだろう。単純な力だけでなく、技量についても相当なレベル……ただ、相手は大きな点を見落としている。
俺は強引に押し込んで剣を弾き飛ばそうとした。けれどヴィムはそれを読んで上手に受け流す。単純な押し問答では通用しないのは明白だった。けれど、
「……俺のことについて、ほとんど知らないと言っていたな」
一つ呟くと、俺は剣を構え直す。
「もし、そっちが敗れるのであれば……俺達の存在を認識できなかった。それこそが敗因になりそうだな」
「実際、そうなろうとしている。君の策略によって」
ヴィムは鋭い視線を俺へと投げる。
「星神を討つ者達と迎合する者達……討つのであれば相応に強くならなければならない。よって、両者の差は決定的だ。魔力を無効化する空間内とはいえ、君達は紛れもなく僕らを圧倒している……これ以上にないくらい、勝利している」
「けどまだ奥の手があるんじゃないか?」
「もちろんね。でも、その一つが僕だ……君も推測しているだろう? こんな場所に潜んでいたということは、役目があった」
俺はじっと相手を見る……実際、そういう推測をしたし、それで正解のようだ。
「こうして僕が君と戦っている時点で、こちらの作戦はズタボロだ……ここから打開するには一つ。そのためにまず、君を倒さなければいけない」
俺は呼吸を整え、ヴィムがどのように動くのか……それを見極めようとする。
この時点である程度、ヴィムの能力については把握できた。確かに強いし、転生者としての恩恵がある……しかし、どうやら俺と比べれば能力は低い。
ただこの場合、俺の方が異常という解釈なのだろう……魔王との戦いの時点で無茶苦茶なスペックだった。ある意味、完成された強さを得たということかもしれないが、そこからさらに旅を経て、様々な経験を得て強くなっている。魔界にすら訪れた俺の力は、転生者というカテゴリーにおいても極まっている。
そうした力を、ヴィムはある程度把握したのだろうか……やがて、口を開く。
「……君のような存在こそ、星神を討つ人間なのかもしれないね」
「どうしてそう思う?」
「単なる勘だよ。でも、確信に近い……こんな空間だから、僕が君の能力については理解できているのはほんの一端かもしれない。でも、そうだとしても……」
ヴィムは笑みを浮かべる。皮肉を込めた、自虐的なもの。
「君のような力があれば、僕もそちら側についていたのかもしれないな」
「……星神から力を得ようとした。それは本意ではないと?」
問い掛けにヴィムは答えなかった。代わりに、こちらへ真っ直ぐ突き進み、剣を一閃する。
それは紛れもなく特攻だった。おそらく勝てないとわかっている。だが、それでも意地で……星神に与するという、自ら選択した道筋に従い、俺へ仕掛ける。
だからこちらは……魔力を発し、迎え撃った。再び魔力同士が激突し、拡散。だが今度は俺の力が相手を完全に押し込んでいた。
それを瞬時に理解したヴィムは笑みを浮かべ――次の瞬間、こちらの刃が相手の体を通過した。




